野田内閣の汚染廃棄物排出地で処理の不合理

2011-10-08 11:27:51 | Weblog

 野田政権は東電福島第1原発放射性物質放出によって高濃度に汚染された土壌及び瓦礫等の廃棄物は原則として排出都道府県内の処理を義務づける基本方針を策定予定だと、《汚染廃棄物は発生地で処理 政府基本方針案》沖縄タイムズ/2011年10月6日 16時40分)が「共同通信」の報道として伝えていた。

 記事内容は以下のとおり。

 ●方針は来年1月全面施行の放射性物質汚染対処特別措置法に基づき策定。
 ●政府のこれまでの処理方針や8月策定の除染に関する緊急実施方針をほぼ引き継ぐ内容。
 ●政府内や地元との調整を経て、11月上旬にも閣議決定の予定。

 記事の解説。〈汚染廃棄物の移動を最小限に抑え処理を円滑に進める狙いだが、住民の反発で行き場のない汚染廃棄物が日々増えているのが実態で、安全性に対する国の説明が求められる。〉・・・

 この方針策定の背景には放射性物質の除染で発生する土などを一時的に保管する仮置き場が満足に決まっていないばかりか、菅前首相が退陣間近の8月27日に福島県を訪問、二次保管場所とするための放射性廃棄物の中間貯蔵施設を福島県内に設置したいと自らの意向を伝えたものの、それすら明確な形を取ることができないでいることから、排出都道府県内処理の義務付けという半強制の形を取ることによって処理を促進させたい思惑があるに違いない。

 尤も高濃度放射能汚染廃棄物を発生都道府県に義務づけたとしても、政府自身が県外に設置すると公約した最終処分場の設置場所は未だ姿形さえ見えてこない。

 自治体の困難に対応した国の困難であろうが、放射能被曝と被曝不安、避難生活、作物や土壌等の放射能汚染、風評被害、産業活動の停滞等々は自らがもたらしたものではない自己責任外の被害と負担であって、福島原発事故は国も重大な責任を負っている以上、自己責任内の被害と負担であり、同じ困難であっても自ずからそこに不合理性が生じる。

 菅前首相が掲げていた「不条理を正す政治」にまさしく矛盾する不条理である。

 いわば自己責任外の被害と負担でありながら、このことに反して土壌や瓦礫等の高濃度の放射能汚染廃棄物に関しては排出都道府県内の処理を義務づけられて自己責任内の被害と負担としなければならない。

 暴漢に襲われて重傷を負った人間に暴漢が治療費は自分で持てと宣告する不合理さ、あるいは不条理に等しい。
 
 勿論、処理に伴う費用は国が負担するだろうが、自己責任外の被害の処理施設を排出都道府県内に設置して自己責任内の負担とする不合理性を言っている。

 国の責任はブログに何度も書いてきたが、改めて触れると、1990年、原子力安全委員会が策定した「発電用原子炉施設に関する安全設計審査指針」は全電源喪失に対する備えを必要ないとしていた。「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又(また)は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」

 しかも当時の寺坂信昭原子力安全・保安院長は昨年(2010年)5月の衆院経済産業委員会で、「(電源喪失は)あり得ないだろうというぐらいまでの安全設計はしている」と答弁、原子炉事故否定の「原発安全神話」を表明している。

 結果、東日本大震災の津波によって海水をかぶり、東電第一福島原発は全電源を喪失、一応準備しておいたといった程度の備えだったに違いない、補助電源も被害を受けて停止、原子炉の自動冷却装置が機能しなくなり、メルトダウン、その他の重大事故を引き起こすことになった。

 いわば国から見た場合、原発事故は東電の自己責任内の事故であると同時に国の自己責任内の事故と位置づけなければならない。

 国の責任はこのことばかりではない。東電は事故に対する賠償額が巨額に上ることが予想されることから、巨大な自然災害などの場合に電力会社の賠償を免責する原子力損害賠償法(原賠法)の例外規定の適用を内々に望んだ。

 だが、当時の枝野官房長官は3月25日の記者会見で、適用は「社会状況からあり得ない」と否定している。

 「原子力損害の賠償に関する法律」の賠償に関する例外規定の項目を見てみる。

  第二章 原子力損害賠償責任

 (過失責任、責任の集中等)

第3条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。

 「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」とは具体的にどのようなものを指すか、「Wikipedia」の記事に導かれてインターネットで調べてみた。

 1998年9月11日、内閣府原子力委員会内に設置された原子力損害賠償制度専門部会が議論し、会議録を残している。
 
 〈(5)免責事由(異常に巨大な天災地変)について

 事務局より資料3-6に基づき、説明があった後、主に次の質疑応答があった。

 村上専門委員「結論は賛成だが、関東大震災の三倍以上とは、何が三倍ということか。また、社会的動乱と異常に巨大な天災地変との関係はどういうものか」

下山専門委員「一般的には、震度・マグニチュード・加速度であろうが、三倍といったときには、おそらく加速度をいったものであろう。関東大震災がコンマ2くらいなので、コンマ6程度のものか。発生した損害の規模でなく、原因、主に地震の規模であろう」

事務局「社会的動乱とは戦争、内乱等をいい、異常に巨大な天災地変とは別概念である」〉・・・・・

 「関東大震災の三倍以上」とは「おそらく加速度をいったものであろう」とは何と曖昧な取扱いとなっていることか。

 このことに関して、「Wikipedia」には次のような記述がある。

 〈第三条但書「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」について、地震であれば関東大震災の3倍以上の加速度をもつものをいうと解されているが、政府は隕石の落下や戦争などを想定したもの(文部科学省幹部より)として福島第一原子力発電所事故には適用されないとの方針を示している。〉・・・・・

 東日本大震災の最大化速度は宮城県栗原市の2,933ガル。関東大震災は330ガルと推定されているという。東日本大震災は関東大震災の約9倍近くに相当するが、福島第一原発での加速度は南北方向、東西方向上、上下方向と計測するそうだが、いずれも550ガル以下で、関東大震災の約1.5倍で、「三倍以上」には遥かに達していない。

 要するに「関東大震災の3倍以上の加速度をもつ」地震か隕石の落下といった「巨大な天災地変」か、戦争といった「社会的動乱」以外のケースは免責事由とはならない。従って福島原発事故のケースは免責の適用外となるということである。

 だが、「原子力損害の賠償に関する法律」の「第二章 原子力損害賠償責任」が免責事由と規定している、「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」にしても、原子力損害賠償制度専門部会が議論した、「関東大震災の3倍以上の加速度を持つ地震」、あるいは「隕石の落下や戦争」にしても、裏を返すと、こういった極端な要因以外では原発は過酷な事故(シビアアクシデント)を起こすことはないと想定し、線引きしていたということになる。

 原子力事業者がこれらの重大事態が発生しない限り賠償可能を想定していたということは、そういうことであろう。

 この線引きが「原子力安全神話」構築の原動力の一つともなっていたはずだ。

 「原子力損害の賠償に関する法律」は津波の被害を想定した言及は一つもないことに関してもそうだが、原発が事故を起こした場合の賠償に関わる国の自己責任を滅多に起こらないことに置くことで限りなく関与外としているが、このことは1990年原子力安全委員会策定の「発電用原子炉施設に関する安全設計審査指針」が全電源喪失を想定外として事故拡大につながり、結果的に国は被害を東電と共に自己責任内の問題としたことと矛盾する自己責任外の措置となっている。

 例え福島原発の事故の原因と事故拡大の原因が「関東大震災の3倍以上の加速度を持つ地震」、あるいは「隕石の落下や戦争」といった「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」ではなかったとしても、国は東電と共々それらを自己責任内とする責任を負い、その賠償だけではなく、被害処理に於いてもすべて自己責任内としなければ、自治体が自己責任外の被害と負担を自己責任ないとしなければならない不合理性は解決しないはずだ。

 東電福島第1原発放射性物質放出によって高濃度に汚染された土壌及び瓦礫等の廃棄物は原則として排出都道府県内の処理を義務づけるのではなく、東電第一福島原発敷地内の処理を義務付けることによって、国は東電と共に原発事故に関わる処理を自己責任外の自治体に押し付けるのではなく、自己責任内とすることができる。

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