小沢裁判、石川事情聴取の任意性・違法性、何れかを問う

2011-10-15 12:25:33 | Weblog

 東京地裁での小沢氏の第2回公判が昨日(2011年10月14日)午後開廷、元秘書石川議員がICレコーダーで隠し録音した去年5月の保釈中に行われた東京地検特捜部の任意の事情聴取が再生された。

 これは元秘書三人に対する特捜部の捜査が違法かどうかを争う材料として証拠提出され、今回再生されたのだという。

 石川被告は裁判の段階で収支報告書のウソの記載について「小沢元代表に報告して了承を得た」と供述している。弁護側は違法捜査だとすることによって、石川被告の供述を強制されたものとし、その信用性を否定する戦術らしい。

 対して検察側は勿論のこと適法捜査だとして、小沢氏が了承を与え、深く関わった収支報告書の作成だと持っていく戦術なのだろう。

 このときの事情聴取は5時間以上に亘ったそうだ。取調べを5時間設けるのは、例え途中、短い休憩が合ったとしても、神経を使うしんどい時間の拘束だったに違いない。

 次ぎの記事が録音した石川被告と検事の遣り取りを伝えている。全文参考引用。

《石川議員再聴取やりとり詳報》47NEWS/2011/01/31 02:02【共同通信】)

 東京地検特捜部の検事が衆院議員石川知裕被告を再聴取した際の主なやりとりの詳報は次の通り。

 検事「石川さん、録音機持っていない?」

 議員「大丈夫です」

 検事「この前もさ、そういうこと言っててとってたやつがいてさ。大丈夫?下着の中とかに入っていない?」

 議員「大丈夫です」

 検事「(一部報道にあった別件の疑惑で)『しかるべき時期に議員辞職します』みたいな内容の調書があったじゃない」

 議員「はい」

 検事「そりゃもうそんなの出したら大騒ぎだからね。まあ現状でいく限りね、(上司は)そんなもの世に出そうなんていう気はないと思うけど、これがまた変な方向へね、鈴木宗男(元衆院議員)みたいに徹底抗戦みたいになっちゃうとさ、『やれるものはやれ』と」

 議員「私に今日できることって何ですかね」

 検事「無難なのはさ、従前の供述を維持するのが一番無難だって。検審の、うちの方針もそうだけど、石川さんが今までの話を維持している限り、(小沢一郎民主党元代表は)起訴にはならないんだろうと思うんだよ」

 議員「今日の調書は検審も見るんですよね」

 検事「見るよ。そのために取るんだから。見せて、検審が(小沢氏は)絶対権力者であるというところにどれだけ疑問を持つかっていうかさ。絶対権力者とか何とか言われてるけれど、きちんと話をして、逮捕されている時と同じ話をして」

 議員「圧力はかかってません。今日も自分の思いを、やっぱり変えようと思う部分を、変えられたらいいってことだけです」

 検事「今度の判断は重いからね。強制起訴までは不要と検審の4人が言ってくれれば、不起訴不当で終わるわけだから」

 議員「先に(議決を)出した5人の人がまだ残っているんでしたっけ? その人たちも変えてくれればいいですけどね」

 検事「だから最初に言ったように、ここで全部否定することは火に油を注ぐことになるよね。ここで維持することが彼ら(審査員)の気持ちをどう動かすかだよね」

 議員「今回(再聴取に)応じないっていう線もあったんですよね、選択として」

 検事「あった。あったけど、それは一番最悪だよね、検審に対して。うち(検察)にとっても」

 議員「小沢さんが起訴になったら、それはそれで複雑ですよね、私も。いや、検察内でですよ」

 検事「検察が起訴した場合、いや、しないよ。石川さんが供述を維持する限りそれはできない」

 検事「陸山会の2004年分収支報告書への不記載、虚偽記入の理由ですが、『私(議員)は深沢8丁目の土地を購入するに当たり、小沢先生から提供を受けた4億円につき、小沢先生が政治活動の中で何らかの形で蓄えた簿外の資金であり、表に出せない資金であると思ったため、これを04年分の収入として収支報告書に記載しませんでした』」

 議員「いや、購入した不動産が明るみに、公表されるのをずらすということが一番の主眼点で、4億円が明るみに出るのを避けるためっていうのは、今でもやっぱり、そんなことはありませんとしか言えないんですよ」

 検事「だったらこうしようか。今まで通りの供述をした上で、最後のところで調書を読み聞かせした後、最後にその4億円についてね」

 議員「4億円を隠したいがためっていうのがね、どうしても引っ掛かるんですよ。土地登記の公表をずらすことが主眼で経理操作したっていうのが実際の話なんで」

 検事「修正できるところはするけど、ただ、趣旨を、要するに隠そうとは思っていないというのはまずいと思うから。だからそこをうまく、まず4億円ありきではないんです、という風に修正していくしかないよね」

 議員「4億円がいかがわしいお金だなんて、実際どう作られたかなんて私には分かりません」

 検事「そこは4億円不記載には関係ないよね。不記載で起訴されているから、もうしょうがない。不記載にした理由は何なのってなった時に、みんなはゼネコンからの裏金に決まってると思っていて、だから書けないんだってなる」

 議員「そういう意識はない。汚いお金だから4億円を何が何でも露見したくないっていうのは今でも違うと言いたい」

 検事「汚い金だっていうのは、検察が勝手に言ってるだけで、別に水掛け論になるから相手にしなくていいんだよ。証拠ないんだから 議員「そういう疑問を持ったことがないんで」

 検事「俺はそこ責められてるの。上が『本当にこんなこと言ってんのか』って言うわけ」

 検事「例えば、(小沢氏に)報告、了承してませんというふうになったら、強制起訴の可能性が高くなるよね」 

 検事が事情聴取を開始するに当っての発言。

 検事「石川さんさ、録音機持ってない?」

 石川議員「大丈夫です」

 検事「大丈夫?この前もさ、そういうこと言っててとったやつがいてさ。大丈夫?下着の中とかに入っていない?」

 だが、実際には石川被告はICレコーダーを鞄に隠していた。バレないか、バレた場合はどうしよか、あれこれ考えをめぐらせて極度に緊張し、そのことが気づかれないように何食わぬ顔をすることに相当神経を使ったに違いない。

 ここで取調べる側の検察官と取調べを受ける側の被告の立場上の関係を考えなければならない。仮に取調べを受ける側の被告がいくら海千山千の国会議員だとしても、取調べる側が常に支配的立場に立ち、取調べを受ける側が支配を受ける立場に立たされることに変わりはない。

 言葉を変えて言うと、取り調べる側は多かれ少なかれ証言を強制する立場にあり、取調べを受ける側は証言の強制に従属する立場にある。

 冒頭の検事の「石川さんさ、録音機持ってない?」の発言自体が既に検事が支配的立場に立っていることを物語っている。

 このような関係が取調べを成り立たせる。立場が同等であったり、逆転したりしたら、取調べは成り立たなくなる。

 例えば暴力団の親分とかが取調べの刑事の弱みを握っていて、取調べの刑事に対して支配的立場に立つ逆転状況が生じていたなら、親分から刑事に対してウソの証言を認めることを強制し、刑事はそれに対してウソの証言に従属する関係が両者の間に成り立つことになり、取調べは正当性を失うことになる。

 問題は取調べる側と取調べを受ける側の一般的なこの支配と被支配の関係、強制と従属の関係が法律の一線を超えているか、いないかであろう。

 教育現場に於ける教師と生徒の関係も同じ関係力学が支配している。そこにもし体罰を与える強制が働いたなら、法律の一線を超えることになる。

 検事が必要以上に強制意思を働かせた発言箇所を拾ってみる。

 「無難なのはさ、従前の供述を維持するのが一番無難だって。検審の、うちの方針もそうだけど、石川さんが今までの話を維持している限り、(小沢一郎民主党元代表は)起訴にはならないんだろうと思うんだよ」

 検事は小沢氏の起訴・不起訴は検察審査会の決定事項でありながら、越権行為を犯してその不起訴を餌に供述の維持を半ば強制する誘導を行っている。検事が取調べに於ける支配的立場に立っていなかったなら、不可能な越権行為であり、強制と誘導であろう。

 この発言を裏返すと、供述を翻したなら、小沢氏は起訴になるよの威しである。

 実際には小沢氏の起訴・不起訴は特捜が関係しないことなのだから、関係なしに供述を得なければならないはずだ。検察審査会にしても得た供述を基に判断すべき小沢氏の起訴・不起訴でなければならない。

 石川議員の「今日の調書は検審も見るんですよね」の質問に対して、検事は「見るよ。そのために取るんだから。見せて、検審が(小沢氏は)絶対権力者であるというところにどれだけ疑問を持つかっていうかさ。絶対権力者とか何とか言われてるけれど、きちんと話をして、逮捕されている時と同じ話をして」と答えているが、検察審査会に「絶対権力者」の印象を持たせないためには供述は翻してはならないとする巧妙な誘導となっている。

 検事の取調べでの役割は強制や誘導によってではなく、淡々と事務的に供述を取り、もし前の供述と違っているなら、違っている理由を追及するものの、取調べを受ける側がそれが事実ですと断言した場合、二つの証言を記した調書とし、その証言の違いの何れが事実なのかは裁判を通して追及し、最終判断は裁判所に委ねることであろう。

 もし取調べが全面的に可視化されたなら、記事が伝えている検事の誘導や強制の態度は消えて、このような推移を取るはずだ。

 検事の「今度の判断は重いからね。強制起訴までは不要と検審の4人が言ってくれれば、不起訴不当で終わるわけだから」にしても、「だから最初に言ったように、ここで全部否定することは火に油を注ぐことになるよね。ここで維持することが彼ら(審査員)の気持ちをどう動かすかだよね」にしても、「不起訴不当」を餌にした利益誘導と「ここで全部否定することは火に油を注ぐことになるよね」を威しに使った供述維持の強制とで成り立たせた発言となっている。

 言葉は柔らかいが、意味していることが法律の一線を超えた事情聴取となっていないと言えるだろうか。

 「検察が起訴した場合、いや、しないよ。石川さんが供述を維持する限りそれはできない」にしても、それがさも可能であるかのように匂わせて、不起訴を交換条件とした供述維持の強制となっていて、これを誘導と言うことはできても、事情聴取とは決して言えない。

 また問題となっている4億円に関する遣り取りにしても、検事の言葉はすべて供述を維持させるための取調べとは言えない、ほぼ全編誘導そのものとなっている。

 特に石川議員が「4億円がいかがわしいお金だなんて、実際どう作られたかなんて私には分かりません」と言ったのに対して、「そこは4億円不記載には関係ないよね。不記載で起訴されているから、もうしょうがない。不記載にした理由は何なのってなった時に、みんなはゼネコンからの裏金に決まってると思っていて、だから書けないんだってなる」と答えているが、誘導そのものの不当な発言となっている。

 例え殺人罪で起訴されていたとしても、殺人罪を否定して無罪を主張することもできる。「もうしょうがない」ということは決してない。石川議員自身、無罪を主張し、控訴している。

 検事の最後の発言である「例えば、(小沢氏に)報告、了承してませんというふうになったら、強制起訴の可能性が高くなるよね」は、やはり言葉は柔らかいものの、威しそのものの強制意志を働かせた発言となっている。「強制起訴の可能性」を威しのネタにして供述維持への誘導である。

 上記記事が触れていない、石川議員から小沢元代表に対して「報告して了承を得た」とする時期に関する遣り取りがある。 

 《談笑・訂正渋る…石川議員聴取の隠し録音、法廷で再生》asahi.com/2011年10月15日1時29分)

 〈報告時期を「2005年3月下旬ごろ」と言う検事に対し、石川議員は「それは04年の年末ですね」と訂正を求めた。〉――

 検事「12月だろうが3月だろうが、変わんねーからさ。変わると、なんで変わったのってなっちゃうからさ。めんどくせーからさ」

 石川議員「分かりました。なんか忸怩(じくじ)たる思いが」

 上記「47NEWS」とは別の「47NEWS」の石川議員の発言は次のようになっている。

 石川議員「じくじたる思いがありますが、まあしかたないです」

 他の事実との関連で「変わんねーからさ」ということは決してないはずだ。ここでは検事の言葉は柔らかい言葉から一転して乱暴な威し口調に変化している。

 声色自体にも強制的意思を滲ませ、供述の維持を不当に強要している。

 以上を以ってだろう、「NHK NEWS WEB」記事によると、〈弁護側は検察官が威嚇、利益誘導を用いて違法な取調べを行ったと供述調書の信用性〉を否定していて、対して弁護側は〈検察官と石川議員が談笑しながら話しているやり取りを法廷で流し、特捜部の取り調べには問題はなかったと反論してい〉るとという。

 だが、例え談笑している発言箇所があったとしても、取調べの場に於ける取調べる側と取調べを受ける側との支配と被支配の関係、強制する立場と強制に従属する立場との関係が消えるわけではなく、そのような上下関係のメカニズムを受けた中での談笑であることを無視している。

 もし5時間に亘る事情聴取の全編を通してときには談笑が洩れる和やかな関係が維持されていたなら、検事の石川議員に対する供述維持の強制も利益誘導も行われることなかったろう。

 石川議員は隠し録音をしていた。バレないか、その不安と緊張は最後まで解けなかったはずだ。露見することの恐ろしさを隠すために殊更冗談を言って冷静を装い、相手に疚しいことはことはないと伝えるサインとする場合がある。

 冷静を装う手段として殊更冗談を言った可能性は否定できない。

 検察官役の指定弁護士と弁護側の弁護人の公判後の発言を伝えている記事がある。《「強制ない」「威迫」…石川議員の聴取録音再生》YOMIURI ONLINE/2011年10月15日03時05分)

 検察官役の山本弁護士(供述の任意性に問題はないとする発言)「ざっくばらんに供述している。自らに不利益なことも認めている」

 主任弁護人の弘中惇一郎弁護士(閉廷後の記者会見)「検事は再逮捕の可能性も示唆しており、恐怖心をあおる威迫と利益誘導は明らか。友好的な雰囲気とも解釈できるが、実際は石川被告が迎合しているにすぎない

 「検事は再逮捕の可能性も示唆して」いるとする発言。

 石川議員「また逮捕されるのではないかと、おびえながら生きてますよ」

 検事「組織として本気になった時に、全くできないかっていうと、そうでもない」

 逮捕は本気か本気でないかに基づく行為ではなく、あくまでも立証可能な証拠に基づく行為であるはずである。

 この発言こそが検察官側が談笑や「ざっくばらん」な遣り取りを以ってして任意性に問題はないとする根拠を全面的に否定し得る象徴的な言葉と言える。

 弘中惇一郎弁護士の発言こそが、全うな判断と言えるだろう。

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