もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

スエズ運河と水先案内人

2021年05月05日 | 自衛隊

 先にスエズ運河で座礁した大型コンテナ船「エバーギブン(今治市の正栄汽船所有)」は、離礁には成功したものの、賠償交渉が難航して決着するまで運河内に留め置かれることになった。

 座礁の原因は突発的な砂嵐とされるが、予見性の有無等で双方の主張が食い違うとともに賠償額が約1千億円と高額であることから、なをの曲折が予想される。
 スエズ運河に限らず、船舶の往来が輻輳する港域や操船の難しい海域を航行する場合には、船長の他に「水先案内人(パイロット)が乗船して操船に当たることが一般的である。
 日本にあっても、「水先法(昭和24年法律第121号)及び同施行規則」によって、水先人(法律名称)の乗船を義務付けている区域(水先区)が26区指定されている。ただし、船舶の大きさや、船長が日本人である場合や、外国人船長であっても複数回の航行経験がる場合等に対しては水先人の乗船義務は免除されるとされている。
 水先人が操船している場合にあっても、海難事故を起こした場合の責任は船長や船主にあるのが一般的であり、今回のスエズ運河座礁事故についても水先人が乗船していたにもかかわらず、水先人が罪を問われたり、賠償責任を課せられることもない。これは、水先人は船長への操船を助言する者との認識に立っているものと思えるが、水先人が乗船したブリッジ(船橋)では水先人の操舵号令や速力指示に従うことが一般的と思っている。しかしながら、港域・海域を熟知した水先人であっても、乗船した船の運動性能やエンジンの個癖・特異性については船長から簡単な説明を受けるだけであるために、緊急対処等については船長に及ばないケースも有り得るものと思っている。
 水先人が乗船・操船している場合には、マストに国際信号旗「H」が掲げられる。H旗は横に紅白2分割されている旗なので、大型クルーズ船の出入港の映像で目にする機会もあると思う。

 水先人の乗船(艦)義務は軍艦にも適用される。パール・ハーバーに停泊中、燃料搭載のための港内移動時に乗艦した水先人は操艦を誤って艦尾を岸壁の電話接続筺に接触させて変形させてしまったが、悪びれる様子もなく「sory」の一言を残して退艦した。変形した電話接続筺は乗員の手でほぼ原形に複したが、後日に自衛隊に5千ドルの修理費が請求された。
 腐食の進んだ、それもほぼ原形に復した接続筺に5千ドルとは。セコイ米軍担当者は、これ幸いと接続筺を新替えしたものと今でも信じている。


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