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もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

英国のEU離脱に見る民意の限界

2019年01月29日 | 欧州

 イギリスのEU離脱期限が間近に迫った現在、EUと合意した離脱協定案が議会で否決され離脱延期も取り沙汰されている。

 イギリスのEU離脱の経緯を振り返ってみると、2013年にEU支持者であった当時のキャメロン首相が国民投票の実施を決定、2016年年6月の国民投票でEUからの離脱が決定された。投票結果は、離脱支持52%、残留支持48%という僅差であったが英国は離脱が民意としてEU離脱を選択したものである。以後2年余を掛けてEUとの合意に漕ぎ着けた離脱協定案であったが、議会の承認を受けることができずに立ち往生しているのが現状と思う。このことから、国民投票の決定から投票日まで2年余があったにも拘わらず、離脱に伴う諸問題が正しく国民の前に浸透していた上での投票行動であったのか疑問に思える。離脱によってEUとの関税が復活すれば外資系企業が逃げ出すことや貿易・物流が低迷するであろうこと、国境の復活で移民の流入は阻止できるであろうが、自国民の出入国も制限が加えられること、アイルランドとの自由往来によって沈静化した北アイルランド独立問題が再燃する不安、等々は国民に正しく認識されなかった末の国民投票では無かったではないだろうか。国の帰属や分離独立に対して国民投票という直接民主制によって決することは世界各国で行われているが、将来の困難に対する認識と覚悟が希薄のままに民族的な熱情に駆られての結果で決することが多いように感じられる。ギリシャ都市国家に源流があるとされ国民投票という形に変わった直接民主制は、小国スイスでの成功例を除いて余り芳しくない結果に終わっているのではないだろうか。移民の増加やEU拠出金に対する世論の分裂を危惧したキャメロン首相が国民投票制度がないにも拘わらず国民投票を実施してEU残留を勝ち取ろうとした作戦が裏目に出て、今日の自縄自縛の事態を招いたものと考えている。国民投票結果も民意なら、離脱協定に反対する議員も民意で選ばれ民意の代弁者であるという二律背反の民意に翻弄された結果である。法的拘束力のない沖縄県民投票で同様のねじれが起きる可能性を考えると、直接民主制の危うさが実感できるものである。

 欧州戦の勝利に貢献したものの戦後に国民からNOを突き付けられたチャーチルが「民主主義は最悪の政治形態であるが、それに代わるものが無い」といい、角福戦争に敗れた福田赳夫氏が「天の声にも妙なものがある」と嘆いたのも、民主主義の一面を示しているのではと思う。しかしながら、多くの困難にも関わらず、国民投票で示されたEU離脱意思を尊重して努力するメイ首相の政治姿勢は評価すべきでは無いだろうか。