アメリカの中央軍が、米海軍「コール」への自爆テロの首謀者を殺害したことが報じられた。
報復の原因となったテロ攻撃は、2000年10月12日国際テロ組織「アルカイダ」により米海軍のイージス艦「コール」が、イエメンのアデン港で燃料補給を受けていた際に小型ボートによる自爆攻撃を受けて大被害を受け、乗員17名が死亡した事件である。殺害されたのはアルカイダ幹部のバダウィ氏であり、乗用車運転中に空爆により殺害したとされている。テロ攻撃された「コール」がイージス艦であることから、イージス艦にも弱点があるとされているが、イージス艦自体の弱点とするよりも港内の警備体制の盲点を衝かれたと解すべきであろう。小型の舟艇による艦船への攻撃は目新しいものではなく、魚雷艇やミサイル艇の戦術は同根の思想に基づくものであり、大東亜戦争末期に開発された高速小型艇「震洋」も自爆特攻を目途としたものであった。停泊中の艦艇は思いの外に脆弱であり、まして燃料搭載作業中は平時にあっては火災誘発予防のために火花を発生させる可能性がある作業を禁止する処置をとっており、おそらく「コール」も戦闘配置はもとより警戒態勢も解除していた可能性が高い。在日米海軍横須賀基地でも占用海域は漁業権も消滅保証されて、漁船等の立ち入りは禁止されているが、もし民間のボートや漁船が区域内に迷い込んでも直ちに攻撃されることはない。アデン港でも明らかな攻撃の兆候が察知されない限り米海軍のROE(交戦規定)で、ボートに対する攻撃は為されなかったであろうと思う。しかしながら驚嘆すべきは、200kg近いと思われる高性能爆薬によって喫水線付近の船腹に5m近い穴をあけられたにもかかわらず、浸水を食い止めて擱座・着底まで至らせなかったダメージ・コントロール(艦内防御)の実力である。浸水の局限には数隻の応援を得て3日間を要したとされているが、艦を失うことなく「コール」は母国に輸送されて修理の末に現役復帰を果たしている。海軍にとって、この様に艦1隻を救うことは敵の艦1隻を沈めることに匹敵する功績と称されるものであるが、そのためには多くの人手を要する。現在の自衛艦では機器のハイテク化と省力化を追求しているために、機器操作のために必要な人員の積み上げを以て定員としているらしいが、人員の何人かが失われた状況下での艦内防御体制に遺漏は無いのだろうかと危惧するものである。参考までに「コール」では8000トンの艦に340人が乗り組んでいるのに対し、「みょうこう」は7000トンに300名とされている。首謀者殺害についても少なからぬ驚きを感じる。自動車の運転中の空爆とはどのような爆撃方法であったのだろうか。考えられるのは無人機とレーザー誘導による精密爆撃であろうとは推測するものの、爆撃による付随被害の抗議等が報道されないことから、他の民間人へ被害を与えないピンポイント攻撃に成功したものと思う。
以上のことから、ハイテク機器を正確に操作するのは人間であるが、船体の穴を塞ぐというローテクの作業に当たるのもまた人間である。商船と比較して軍艦の定員が多いことを指摘する向きもあるが、艦艇の戦闘力を高度に維持するためにはハイテクとハイテクを支えるローテクの総合力を兼ね備える必要があることを、理解して欲しいものである。