ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「ホームレス中学生」

2008年11月14日 | 映画関連
所謂“タレント本”で読破したのは、山口百恵さんの自伝「蒼い時」だけ。麒麟田村裕氏が自らの少年時代を著し、昨年大ヒット作になった「ホームレス中学生」も勿論読んでいない。唯、その内容は週刊誌やらTV番組やらで散々取り上げていたので、粗方は知っている。未読の自分ですらこんな状態なのだから、映画「ホームレス中学生概要を記す迄も無い気はするが、取り敢えず記すと次の様になる。

****************************
大阪ベッドタウンに住む“たむちん”こと田村裕(小池徹平氏)は中学2年生。陽気でクラスの人気者の彼は一学期の最終日に、好意を寄せている女子から映画の誘いを受け、有頂天になって学校を後にする。しかし自宅の在る団地に戻った彼が目にしたのは、外に積み上げられた田村家の家具、そして「差し押さえ」と書かれた黄色いテープだった。何が起こったのかサッパリ判らない裕。家に入ろうとするも、鍵が変えられている様で入れない。やがて帰宅した高校生の姉・幸子(池脇千鶴さん)と大学生の兄・研一(西野亮廣氏)も状況が全く理解出来ず、ドアの前で呆然佇む彼等。暫くして自転車で帰宅した父・一朗(イッセー尾形氏)に、「何が起こったのか?」と詰め寄る子供達。そんな彼等を玄関前に集め、まるでバスガイドの如くドアを指差した父は、信じられない言葉を口にするのだった。

「誠に残念では御座いますが、家の方には入れなくなりました。これからは各々頑張って、生きて下さい。解散!」

呆気にとられる子供達を残し、全力でペダルを濃いで去って行く父。幼少時に母(古手川祐子さん)を病気で亡くし、父の借金のせいで親戚とは音信不通の3兄弟に、今夜寝る場所すらも無い。「どうすれば良いのか・・・。」とおろおろするばかりの兄&姉を前に、「俺、一人でも大丈夫だから!」と笑顔を残して一人駆けて行く裕。

彼が辿り着いたのは、巨大なウンコの様な色形の滑り台“まきふん”の在る夜の公園。このまきふんを、これからのにしようと考えたのだった・・・。
****************************

御笑いタレントだけに、必ずしも全てが実話では無いのかもしれない。ホームレス生活をしていたのは、そんなに長い期間で無かったとも言われている。だがしかし、僅か15年前のこの日本で中学生の子がホームレス生活を送り、食べる物が無くて雑草や段ボール迄口にしていたというのがショック。もし自分が裕と同年代の頃に同じ境遇に置かれたとしたら、あそこ迄強く生きられる自信は無い。

田村3兄弟のキャスティングは、なかなか良かったと思う。失礼乍ら不細工キャラと言える田村裕氏の役を、美形の小池氏が演じるというのが余りにも合わない感じがし、「単に客寄せの為だけのキャスティングだな。」と思っていた。しかし22歳で中学生役を演じて、それ程違和感を与えないのも凄いが、何よりも彼の“目の表情”が良い。こんなに演技力が在るとは予想外。又、クールで弟妹思いの兄を演じた西野氏、何処か浮世離れした姉を演じた池脇さんも良く、ストーリーが進むにつれて、彼等が本当の兄弟の様に見えて来た程だった。とんでもない父親なのだけれども、その飄々とした言動に苦笑させられてしまう一朗、即ちイッセー氏の演技力の高さも相変わらずだ。

悲惨な状況に陥った3兄弟を、周り温かく見守る人々の姿に心を打たれる。裕の親友・よしや(柄本時生氏)の両親(宇崎竜童氏&田中裕子さん)、地域の民生委員をしている西村スミ子(いしだあゆみさん)、裕の担任・工藤先生(黒谷友香さん)等々。特に印象に残ったのは、腹を空かせ切った裕が公園で鳩に餌をやるおっちゃんに出逢ったシーン。パンの耳を餌として与えているおっちゃんに「それ下さい。」と頼む裕。おっちゃんは当然鳩に上げるのだろうと思い、笑顔で一掴み渡すのだが、それを一心不乱に食べる裕に気付き、一瞬ギョッとした表情を浮かべる。そしておっちゃんは無表情に戻り、暫くして状況を理解。黙ってパンの耳の入った袋を地面に置き、そのまま去って行く。その後ろ姿に向かって、「有難う。」とばかりに頭を下げる裕。このおっちゃん役を演じるは、上方落語の重鎮笑福亭松之助師匠。去り行く後ろ姿で、これ程泣かせるのは流石の一言。

自分の父は戦前生まれで、幼少期に疎開生活を経験している。食べる物が無く、雑草や昆虫、ザリガニ等を食した事も在ったとか。公務員だった祖父(父の父)は子沢山だった事も在り、終戦後の食生活はかなり良くない状態で、学生だった父は近所の蕎麦屋に天カスをタダで貰いに行き、それを味噌汁の具としていたとか。「同級生にそういった姿を見られるのが、非常に惨めだった。」という父も、やがてはそれが気にならなくなり、あれだけどん底の生活を体験しているから、それ以降どれだけ厳しい状況に陥っても、『あの頃に比べたら大した事は無い。』と思える様になった。と、生前良く話していたもの。

この作品の中で幸子と裕の姉弟が、銭湯に行くシーンが在る。風呂から出た後、他所のおばちゃんから貰った菓子を、外で裕に上げようとする幸子。「風呂に入り、裕と一緒に御菓子を食べるという普通の事が、とても幸せに感じる。」といった言葉を幸子は口にするのだが、父の体験談をつい思い浮かべてしまった。*1“幸せのハードル”が高くなり過ぎると、当り前の事が幸せに感じられなくなってしまうのだろう。

予想外に良い作品だった。総合評価は星4つ

*1 家人が中学生だった頃、同級生(男子)の父親が急死。病気で母親を亡くした父子家庭で、上に大学生の兄と高校生の姉が居るという話だった。彼等は親戚の元に引き取られ、大学生の兄は学校に通い乍ら、アルバイトで妹達の学費を稼いでいるという話を、家人は暫くして風の便りで聞いたと言う。中高年の域に入ったで在ろう彼等は、この作品にどういった思いを持つだろうか・・・。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
« 「2008年新語・流行語大... | トップ | どういう考えを持とうが自由... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
医龍というドラマから小池君はいいキャラだと私も思っていました (マヌケ)
2008-11-16 12:50:06
食べられなくてわざと交番の前で倒れる人なんか昔は結構いました。 近所にコビト公園というのがありまして、土管を繋いだコビトの城に赤や青のペンキが塗られてとても目立つ構築物でした。 で、その土管の中に新聞紙を敷いて寝ている人もいました。 近所同士の思いやりなんかが深くて、うちよりも貧しいご近所さんところに余分に作ったおかずや夏だとスイカの半分とか、母から○○さんちに持って行きと言われて持って行きました。 編み物を頼んだお返しがリンゴだったり、浴衣を縫ってもらったお返しがチョコレートだったり、今ではありえないようなご近所どうしの行き来が助け合いになっていたのだと思います。 知らないうちにお年寄りが餓死するような今の世の中はいろんなものが進むことを発展とか進歩と言いますがおそらく後退したものもあってそれに気づく余裕すら失っているのではないかと思います。 昔の貧しさの中にあった暖かさのような、心地よさを懐かしむ思いが、オールウェイズとかがばいばーちゃんとかホームレス中学生とかが受ける理由なのかもしれませんね。 
返信する
>マヌケ様 (giants-55)
2008-11-16 13:51:34
書き込み有難う御座いました。

以前書いたのですが、ビートたけし氏が面白い事を書いていました。「『下町の人情が良い。』とかって最近良く言うけどさ、実際に住んでた人間からすると、そんな言い事ばっかりじゃないって。昔は子供を何とかして騙し、金を巻き上げようとする大人が結構居たし、路上に自転車とか置いてると、あっという間に盗まれたりしたしね。下町に幻想持ち過ぎだっつーの。」と。確かに“過去”を余り美化してしまうのはどうかと思いますが、でも少なくとも昔の方が全体的にゆったりした時間が流れていた様に思うし、良くも悪くも人間関係が濃密でしたね。思うに「権利だ義務だ。」と声高に主張される事が増えて来た辺りから、人間関係が妙にギスギスしたり、空疎化して来た様に感じます。

小池君、単なる可愛い顔をした子というイメージしかなかったのですが、なかなか存在感の在る演技だったのには驚かされました。目の表情が良いですね。
返信する
日本インターネット映画大賞募集中 (日本インターネット映画大賞スタッフ)
2008-12-19 10:21:23
突然で申しわけありません。現在2008年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票は1/15(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
なお、日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
返信する
>日本インターネット映画大賞スタッフ様 (giants-55)
2008-12-20 02:39:43
書き込み有難う御座いました。参加出来る様でしたら、参加したいと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。