ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「潜伏者」

2013年03月28日 | 書籍関連

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ノンフィクション作家の笹尾時彦(ささお・ときひこ)は、容疑者・堀田守男(ほった・もりお)の視点で生々しく綴られた小説「堀田守男氏の手2」を切っ掛けに、北関東で起きた「少女連続失踪事件」を追い掛ける事に。被害者家族との接触を続ける中、冤罪の疑いが晴れぬ服役を終えた堀田は出所し、事件は大きく動き出す。「堀田守男氏の手2」等を著した小説家・松谷未来(まつたに・みらい)とは、一体何者なのか?堀田は無実なのか?もし無実なら、真犯人は誰なのか?

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叙述トリック折原一氏は、実際に起こった事件をモチーフにした小説を多く著している。「~者シリーズ」と称されている作品で言えば、「冤罪者」は「首都圏女性連続殺人事件」、「失踪者」は「神戸連続児童殺傷事件」、「行方不明者」は「広島一家失踪事件」、「逃亡者」は「松山ホステス殺害事件」、「追悼者」は「東電OL殺人事件」をモチーフにしている。そして「~者シリーズ」の第11弾で、此の程読了した「潜伏者」は元々、「1990年に発生した『足利事件』を、モチーフとして考えていた。」事を下記の通り、折原氏本人が明らかにしている。

 

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当初、モデルにしたのは、冤罪事件で有名な『足利事件』だった。1990年5月、栃木県足利市のパチンコ店の駐車場から4歳の女の子が行方不明になり、翌日、渡良瀬川河原で死体となって発見されるという事件が起きた。逮捕されたのは幼稚園のバスの運転手、菅家利和さん。裁判の結果、菅家さんは無期懲役が確定したが、2009年、遺留物のDNAが服役者と一致しない事が判明し、無罪放免になった。私は此の事件に着目し、無実を訴え続けた菅家さんが釈放されるずっと前から、プロットを練っていた。ところが、菅家さんが釈放されて、ネタを捨てざるを得なくなった。書いたら、矢張り菅家さんを想起させるし、彼に迷惑が掛かってしまう。主人公が娑婆居ると書き難いので在る。不完全燃焼の思いで、最初からプロットを練り直す事になったが、足利事件の在った同じ頃、周辺地域で未解決の連続少女殺人事件が何件か在ったりして、捨てるには惜しい魅力的なテーマだった。其処で、私は舞台を埼玉県北東部の久喜市に設定。パチンコ屋で父親がゲームに興じている時、娘が消えてしまうという発端を足利事件の様にした。少女失踪事件に絡んで逮捕された男が刑期を終えて出所する所も「本家」に一寸だけ似ていて、其れから先は全く別のストーリーが展開する。」

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実際に起こった事件及び其の関係者をモチーフにした小説というのは、読み手にとってイメージし易かったり、良くも悪くも感情移入し易いという面が在る一方、仮令此の小説に書かれている内容は、全てフィクションです。」と記されていても、「小説内で記述された事柄が、モチーフになった事件及び其の関係者に対しても『事実』と、読み手に感じさせてしまう。」という危うさも在り、書き手は非常に苦労する事だろう。

 

「人物や時間等の記述を意図的暈して記す事で、読み手をミスリードさせる手法。」を、叙述トリックと言う。「『現在』に付いて語っている。」様に思わせて、実は「過去の出来事」だったり、「当該人物が『女性』で在るかの様に読み手に思わせるも、実は『男性』だった。」なんていうのがそうだが、得てして此の手法は「此れって、何時の話?」とか「此の人物って、誰なんだ?」等と、読み手が混乱してしまう事も多い。折原氏の過去の作品も例外では無いのだけれど、少なくとも今回の「潜伏者」の場合は、そういった混乱が少なかった。

 

失踪した少女達に関して、最後の最後で大どんでん返しが待ち受けている。様々な事柄に疑いの目を向け乍ら読み進めていたのだが、此の大どんでん返しは全く想像していなかったし、「まんまと引っ掛かってしまった。」という爽快めいた物が在った。其の一方、必要性を感じ得ない様な「非現実的な描写」も散見され、興醒めな部分も。

 

総合評価は星3つ


コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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Unknown (マヌケ)
2013-03-28 12:42:21
小説で読んだ記憶と実在の事件の記憶が混同してしまったり、記憶がすり替わってしまっていたり、というのはよくあります。 小説では感情移入してしまったり、心が突き動かされますので、強く印象に残ることがあります。 実際の事件も報道のされ方でドラマのように印象付けられることがあります。 ニュースなのに効果音があったり、キャスターが世間一般の感情を代表して表情を作ったり、代弁したりするからでしょうか。 時がたてばあいまいなまま、大事な真実そのものがあいまいで適当な記憶に変ってしまいます。 実在の事件に、ノンフィクションに頼るという言い方は作家の方には失礼かもしれませんが、完全オリジナルよりも、実在の事件をモチーフにした方が小説に力が出るのかもしれませんね。 
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>マヌケ様 (giants-55)
2013-03-28 13:25:55
書き込み有難う御座いました。

情報番組で事件を報じる際、あからさまに興味本位で取り上げているケースって在りますよね。扇情的な見出しだったり、マヌケ様も指摘されている様に「効果音」やら「キャスターの意図的な表情作り」等もそう。こういう事が見ている側をミスリードさせてしまう可能性も高く、視聴者も心して見ないといけないでしょうね。
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