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神奈川県立風ヶ丘高校の旧体育館内で放課後、放送部部長の朝島友樹(あさじま ともき)が何者かに刺殺された。外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長・佐川奈緒(さがわ なお)のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが・・・。
死体発見現場に居合わせた卓球部員・袴田柚乃(はかまだ ゆの)は、嫌疑を掛けられた部長の為、学内随一の天才・裏染天馬(うらぞめ てんま)に真相の解明を依頼する。何故か校内で暮らしているという、アニメ・オタクの駄目人間に・・・。
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「2013本格ミステリ・ベスト10【国内編】」で第5位に選ばれた「体育館の殺人」*1(著者:青崎有吾氏)は、第22回(2012年)鮎川哲也賞を受賞した作品でも在る。青崎氏は明治大学に在学中の学生で、鮎川哲也賞史上初の平成生まれ(1991年)の受賞者なのだとか。
例外は在るけれど、ミステリーで探偵役を務める人物というのは、概して“個性的なタイプ”、もっとハッキリ言ってしまえば、“変人”が多い。「体育館の殺人」で探偵役を務める裏染天馬も、其の例外では無い。「『超』が付く程のアニメ・オタクなのだが、論理的で卓抜した推理を展開する。」というキャラクター設定。
「2012週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」及び「このミステリーがすごい!2013年版【国内編】」ではベスト10内に入っていない「体育館の殺人」が、「2013本格ミステリ・ベスト10【国内編】」では5位に選ばれているというのも、「論理的な推理=本格ミステリー」というイメージからなのかもしれない。
個人的には天馬のキャラクター設定にはユニークさを感じるも、彼が矢鱈と口にする“マニアックなアニメ・ネタ”には理解出来ない物が多く、此の点では閉口させられた。
青崎氏は大学のミステリー研究会に所属しているそうで、「体育館の殺人」も綾辻行人氏の「館シリーズ」を多分に意識した、パロディー調の作風。
論理的な推理を展開する天馬だけれど、「第22回鮎川哲也賞」の選考委員を務めた北村薫氏が巻末の選評で記している様に、中には“雑過ぎる論理”が幾つか在る。そういった詰めの甘さは在るものの、「置き忘れられた1本の傘から、数多の推理を繰り広げる。」等、意欲的な作品なのは確かだ。
気になる点はそこそこ在るが、“若き才能”の未来に期待して、総合評価は星3.5個とさせて貰う。
*1 文章内に、何度か登場する「放課」という用語。「放課」という用語が存在するのは確かなのだが、「放課後」という用語には馴染みが在っても、「放課の後」といった様な使い方には少々面食らった。“今”は、そういう言い方が主流なのだろうか?