ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「不敬列伝」

2005年09月09日 | 書籍関連
見沢知廉氏が一昨日の夜に自殺したという。彼が獄中で著し、1994年に新日本文学賞佳作を受賞した「天皇ごっこ」を昔読んだが、俗っぽい言い方を敢えてすれば実に面白い内容だった。日本人にとって天皇とはどんな存在なのか?獄中者、右翼、左翼、様々な人間の天皇観を描いた作品で、発表当時には右翼ばかりか左翼も仰天した内容というのも、あながち冗談ではないと思わせるものだった。どういう事情が在ったにせよ、46歳の若さで自ら生を終える事もなかったろうに・・・。合掌

基本的に、一度読んだ本を読み返す事は少ない。例外的に何度か読み直しているのは、ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏の作品が殆ど。「不敬列伝」もその中の一つだ。

今は削除されてしまったが、嘗ての刑法には「不敬罪」という罪が存在していた。天皇、太皇太后皇太后皇后皇太子皇太孫皇族神宮皇陵に対して為された不敬行為への罪で、不敬行為には最低でも懲役二ヶ月以上、危害を加えた者又は加えようとした者は死刑(天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又は皇太孫に対しての場合。皇族に対しての場合は、危害を加えた者は死刑、加えようとした者は無期懲役。)という厳しい内容だった。現人神とされていた天皇と、その一族に対しての特別な罪が、1947年迄は確かに存在していた。

「刑法上からは消えうせた不敬罪。でも、本当の意味でこの罪は消滅したのだろうか?」という思いから、戦後になって天皇へ”不敬”事件を起こした者達のその後を、沢木氏が追った作品がこの「不敬列伝」。取り上げている事件は、「プラカード不敬事件(1946年)」(「詔書 国体はゴジされたぞ はタラフク食ってるぞ ナンジ人民飢えて死ね ギョメイギョジ」というプラカードを掲げ持った者が不敬罪で起訴された事件。この時点で不敬罪は刑法から削除されていなかったが、GHQの「天皇に特別の法的保護は受けさせない。」という指示に基づき、名誉毀損罪と懲役八ヶ月が科された。)、「京大天皇事件(1951年)」、「パレード投石事件(1959年)」、「パチンコ狙撃事件(1969年)」、「皇居発炎筒事件(1969年)」、「天皇面会未遂事件(1970年)」、そして「皇居突入事件(1971年)」の7つ。

この作品が発表されたのは1976年という事なので、もうそれから29年経っている事になる。登場した人物の中には、パチンコ狙撃事件を起こし、その後も映画「ゆきゆきて、神軍」に出演(出演という言葉が適切かどうかは判断が分かれる所だろうが。)する等反天皇活動を生涯続け、今年の6月に亡くなられた奥崎謙三氏も含まれている事を考えると、もう大昔といった感も在る。それ以降に、事件を起こした者達がどういう人生を歩んだのかは不明なれど、”この時点”では皆が何がしかの重さを抱えて生きているのが垣間見えた。不敬行為という或る意味”マイナス札”をプラスに転化出来た唯一の例外とも言える日本共産党の幹部。思想転向ともとられる人生を歩み、何処かに心苦しさを抱えている様な者。不敬な行為を為したという事で職場や故郷を追われて、未だに人目を忍んで生きている者。一貫して反天皇を訴えている者等々。

そしてこの7つの事件とは別に、皇太子に持っていたキャラメルをプレゼントとして渡そうとした事で警察官に取り押さえられ警察に連行、その後直ぐに釈放されたものの新聞に闖入者として大きく報道され、7年近く経った”その時点”でも警察にマークされ続けられている男の話も載っていた。勿論、未だに世間の好奇な目に晒されている状態という事だった。

最後の方で、沢木氏の「不敬罪は形を変えて存続しているのではないか?天皇に対する犯罪に(結果的に)余りにも過重な(有形無形の)罰が加えられていないか?」という問い掛けに、三笠宮宜仁(現在は桂宮宜仁)氏が答える場面が在る。彼は現在の皇室の在り方にそのまま賛成ではないとしながらも、次の様に答えている。

「イギリスにも色々な人が居るんですね。中には、女王陛下の行列に向かって、野卑な事を言う人も出て来る。仮にそんな人が『馬鹿野郎!』と叫んだとしますね。するとイギリス人はかなりきつく罰します。理由は、彼は幾らでも『馬鹿野郎!』と叫び続けられるけど、パレードの中から女王陛下が『馬鹿野郎!』と言い返す事は絶対出来ないじゃありませんか。フェアじゃない、というのです。」

これに対して沢木氏は、この意見には、かなりの道理が含まれていそうに思えるが、それをそのまま日本に置き換える事は難しい。日本に於いては、恐らく彼の想像以上の『きつい罰』が現実に襲いかかっているのだ。と記している。法律に基づいて下された罰以上の罰。それは、延々と続く警察からのマークで在り、世間から村八分にされたり、好奇な目に晒され続ける事だろう。その環境は、作品が発表されてから29年経った今、少しは変わっているのだろうか。
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10 コメント

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変わっていない (syuu)
2005-09-09 08:12:07
 変わっていないのではないでしょうか。私個人としては昔から天皇には否定的でしたので、そういう目で見ているのかもしれませんが・・。皇族や天皇の生活、衣服等にいくらのお金が毎月かかっているか・・。以前、その金額をテレビで聞いてびっくりしたのを覚えています。

 確かに、天皇家は野次られても言い返すことができません。雅子さまもゴシップ記事をいくら書かれても反論はできません。でも、それ以上の庇護があるのは事実ではないでしょうか。数の多いマスコミなどは強く出ていられるのでしょうが、個人ではその庇護によって一生を押しつぶされてしまうのです。

 天皇家って、今でも必要なものなんでしょうか?私にはとっても疑問です。んー、ちょっと傾いてますね。
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Unknown (久保課長)
2005-09-09 14:06:36
私に言わせれば、間違いなく税金の無駄使いですね。百歩、いや千歩譲って仮に皇室が必要だとしても、世襲制度で決められた人間を無条件に崇めるなんてことには違和感を覚えずにいられません。「宗教」そのものじゃないですか。
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>久保課長様 (giants-55)
2005-09-09 22:15:59
書き込み有難うございました。



個人的な見解ですが、自分も天皇制には否定的な考え方を持っています。「長きに渡る皇室の歴史は重要だし、守るべきもの。」という考え方は在りますが、世襲制度及び”菊のタブー”には違和感を覚えるからです。歴史在る皇室というのであれば、百歩譲って直系は認めるとしても、傍系はどうなのでしょうか。「国民が痛みを伴う改革」というので在れば、全ての日本国民が等しく痛みを分かち合うべきではないかと。巷間言われている旧宮家の復活等というのは、国の財政が破綻しかかっている中、逆行するものだと思います。



「天皇は『天皇教』の教祖」という言い方をしている人が居ましたが、確かにそういった側面は在るかもしれませんね。この「不敬列伝」の中には、嘗て”不敬”行為を為し、その後に都市計画事務所の所長と大学講師を務めている人物が登場します。自記事で「思想転向ともとられる人生を歩み、何処かに心苦しさを抱えている様な者」と記した人物ですが、彼は次の様なコメントを残しています。



「朝鮮戦争が始まって、あの戦争(第二次大戦)直後の自由の感覚は二度と失いたくないと思いました。(自分が抗議行動した)当時、天皇はあの自由の感覚を失わせる象徴でした。少なくとも私にはそう思えました。天皇に対する抗議の行動が誤っていたとは思えない。今の私でも、同じ状況なら同じ行動を採ると思います。しかし、天皇に対しては、今では少し違う考えを持つ様になりました。仕事の関係から農村地帯で、土地改良をやろうとする事が在るんですよ。すると、実にやり難いんです。それは多分、地主勢力が居なくなった為にリーダーシップを執る中心的な担い手が村に存在しなくなった為と思えるんです。(中略)必ずしも全てが否定されるべき存在ではない。集落の中には、外から見て非合理と見えてもそれなりに有効な民主主義が在った訳ですよ。そんな例にぶつかると、一概に天皇の存在を否定出来ない様な気がするんです。普段は必要ないが、或る時、急に必要に迫られる様になる存在というものが在っても良い様な気がする。タブーの必要性の様なものを感じてならないんですよ・・・。」



タブーって必要なんでしょうか?この辺も、色々判断の分かれる所でしょうね。
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お年よりは。 (syuu)
2005-09-10 08:36:18
 「天皇教」の言葉を聞いて思い出したので、またまた書き込みしました。私は以前訪問入浴の仕事をしていたんですけどね、お邪魔するお年寄りのおうちには結構昭和天皇や平成天皇の写真がきちんと飾ってあるんですよ。私が回っていた地域が田舎なのもあるのかも知れませんが、ご先祖同様、天皇家を敬う気持ちが年配の方々にはとても強いように感じました。

 世代が変わってくれば、写真を恭しく掲げている人も少なくなってくるのでしょうが、これもある種「天皇教」と言われる面なのかも知れませんね。

 私は天皇制には否定的ですが、純粋に天皇を敬っているお年寄りに対しては、否定することができないのです。昔から根付いたものって、難しいですね。
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現実的に考えて・・・ (toshi16)
2005-09-10 11:45:36
天皇を対費用効果として検証するなら、税金の無駄使いでしょうね。

ただ、全て対費用効果でみるのはどうなんでしょうか?



だったら、対中国のODAも無駄という事になるかもしれませんね。

少なくとも、日本にプラスになることはあったのか?今現在あるのか?これからあるのか?が検証が必要な気がします。



僕自身、タブーとかタブーじゃないという以前に、もっと肯定的に捉えたほうがよいのでは~と思っています。



どういう事かというと、天皇制にしても、自衛隊にしても(靖国参拝問題はビミョーなラインですがこれもはいるでしょう。)、明確な規制や撤廃をしようとすると、憲法改正までに発展してしまうということなんです。



特に、天皇制は憲法に明記してありますし、撤廃なんてことになれば、国民投票で過半数が必要となります。

今の日本で可能でしょうか?

syuu様のコメントを拝見すると、まず無理だろうという考えが強くなります。

そうならそうで、現実的な方法として、天皇制を肯定的に考え、積極的に『利用する』ほうが、「大人の解決」なのかなぁ~と思います。



そもそも、絶対的な不条理の是正や、絶対的な平等の施行なんてものは、『絵に書いた餅』だと思います。

不条理の定義も、平等の考えも人各々で、意見を統一することさえ困難です。

天皇だけ、優遇されたところがあっても、仕方ないかなぁ~と、今は思っています。



今は思っています~というのは、以前はそう思っていなかったということです。

ですから、みなさんがおっしゃられる事は、よ~くわかるんです。

天皇制が必要か?必要でないか?で議論すれば、後者が説得力ある発言になる事は、よ~くわかります。

でも、天皇制を撤廃できるか?撤廃できないか?で議論しちゃうと、撤廃出来ないのほうが説得力があるように僕は思います。



ですから、よりいまの世にあった天皇制はどうあるべきか?ということで、みんなが話し合っていくほうが現実的なのかなぁ~って思います。





僕も、社会にでて何年か経ちますが、どちらともいえないグレーゾーンっていっぱいありますね。

でも、グレーゾーンをみんな黒と決めちゃうのも、これもまた新たな問題がおこります。

どちらにしても、腫れ物を触るような議論しかできないとは思いますね。

結局、それがタブーという事でしょうか?

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Unknown (やま)
2005-09-10 12:24:19
天皇教というよりは日本教と言って欲しいなと自分てきには思いますが、それは置いといて。

天皇は、複雑怪奇な日本人を日本人たら占めている構成要素のひとつを解明する鍵であると思います。簡単に言えば自然崇拝の延長線上に天皇というものがいて、現在の意味とは異なる意味での日本の象徴であったと思うわけです。



歴史的意義は置いといてw、天皇制は維持できるならばすれば良いと思いますが、皇室予算はもっと削るべきだと思いますね。お金がかかりすぎです。



giants-55さん

乞食王子ではなくかわいそうな王子様の話でした。
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政治に皇室は不要 (豊澤義寛)
2005-10-06 11:10:40
 現在の皇室は幕末神社神道の抑圧から廃仏毀釈から始まり、幕末下明治の機軸宗教を神社神道(天皇教)に求めた、

 神道は、キリスト教ほど哲学が無く、空振りに終わり皇室だけが残って思想的混迷だけが残った。このマイナス遺産は、早くなくすべきである。
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>豊澤義寛様 (giants-55)
2005-10-07 02:55:48
初めまして。書き込み有難うございました。



上記しました様に、個人的な見解として自分も天皇制には否定的な考え方を持っています。唯、「皇室には長きに亘る歴史が在るし、無くすというのも現実問題としては不可能だろう。」という御意見も在る様に、その存在意義に関しては意見が分かれる所でしょうね。



唯、「皇室を政治利用してはならない。又、政治介入させてはならない。」という事は多くの人が思っている事ではないでしょうか。憲法改正が議論されていますが、この点だけは絶対に守らなければいけないと思っております。



これからも宜しく御願い致します。
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事実上の不敬罪は我が国にすでに存在している (芋田治虫)
2019-09-07 15:38:22
https://youtu.be/Xwjg9jGcOuw
https://youtu.be/0-PHAszxmlY
https://youtu.be/o3qyYx4YzKQ
「ムッソリーニ万歳」
こういっただけで逮捕される国があったら、その国末期。
どういう体制で、どういう政策をしようが、その国の終わりは近い。
枢軸国のどの国よりもひどい。
事実上の不敬罪が、既に存在する我が国に無関係の話ではない。
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>芋田治虫様 (giants-55)
2019-09-08 01:17:10
初めまして。書き込み有り難う御座いました。

今年4月に発生した「東池袋自動車暴走死傷事故」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B1%A0%E8%A2%8B%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%E6%9A%B4%E8%B5%B0%E6%AD%BB%E5%82%B7%E4%BA%8B%E6%95%85)では、ネット上に“上級国民”なる用語が飛び交いました。加害者の高齢男性が、余りにも“優遇された扱い”を受けている事に、「彼の華麗な経歴が、特別扱いをさせているのでは?」という思いを持った人が少なく無かったのが原因。他の同種の件を鑑みると、確かに“優遇された扱い”の様に感じられなくも無い。

実際の程は不明なれど、そういう“忖度”を少なからずの人が考えてしまう程、我が国は妙な方向に進んでいる気がしてならないし、そういう忖度が拡大解釈されて行けば、“事実上の不敬罪”も同様に、どんどん幅を利かせて行く事でしょう。

今後とも、何卒宜しく御願い致します。
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