ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「夢を売る男」

2013年04月09日 | 書籍関連

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敏腕編集者・牛河原勘治(うしがわら・かんじ)の働く丸栄社には、本の出版を夢見る人間が集まって来る。自らの輝かしい人生の記録を残したい団塊世代の男、スティーヴ・ジョブズの様な大物になりたいフリーターベスト・セラー作家になってママ友達を見返したい主婦・・・。牛河原が、彼等に持ち掛けるジョイントプレス方式とは。

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ユニークな経歴有し、2006年に文壇デビューを果たした百田尚樹氏。其のデビュー作永遠の0」はミリオン・セラーを記録し、一躍にして人気作家の仲間入りと相成った彼だが、自分は其の作品を全く読んだ事が無かった。「昨年刊行され、話題となっている『海賊とよばれた男』を、手始めに読んでみようかな。」と思っていたのだけれど、「注意!作家志望者は読んではいけない!」という“扇情的惹句”に惹かれ、「夢を売る男」を読む事にした。

 

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後世に残る作家というのは、生きている時に売れている作家から選ばれるんだ。。荒木は驚いたような顔をした。後世に評価されるよりも、現代で売れたり評価される方が百倍も易しいんだ。それさえできない作家が死んでから残るなどということはあり得ない。漱石鴎外芥川も現役時代は売れっ子作家だった。昔、売れっ子作家でなくて、現代に読まれている作家なんて一人もいない。平成の世に甦って爆発的に売れた『蟹工船』にしても、当時のベストセラーだ。生前は無名だったが死んでから評価されるなんてのは、認められる前に夭逝した作家くらいだ。尻丸は夭逝するチャンスを失った。。荒木は笑った。「現代くらい価値観多様な時代はない。ほんのちょっと光るものがあれば、メッキでも評価される時代だ。そんな時代にあってすら、本が売れないような作家が後世に評価されることは、まずない。」。「でも。」と荒木が反論するように言った。「何らかのきっかけで再評価されるということはあるんじゃないですか。」。「ない。」牛河原は即座に言った。作家が死後に再評価される具体的な道を考えてみようか。忘れられていた本が再評価されるのは、多くの場合、後の出版社の誰かが、もしかしたら売れるかもしれないと仕掛けを打つといったことがきっかけになる。」。「そうですね。まず多くの人にその作品を知ってもらうことが条件ですからね。」。「そこでだ、お前が編集者として、生前、売れてなかった本をそんな仕掛けで売り出すことをやってみたいと思うか。」。「思いませんね。まして、この出版不況に。」。「そういうことだ。そういう仕掛けが可能なのは、生前すごく売れていた作品だ。生前売れてなかった作品を仕掛ける出版社なんかあるはずがない。その証拠に、明治大正昭和の売れていなかった作家で、後世の仕掛けで売れた奴がいるか。」。「そう言えば一人もいませんね。」。荒木は納得した顔で言った。「売れっ子であることが後世に残る必要条件なんですね。」。必要条件というか最低条件だな。だから生きている間にベストセラーも書けない作家や現役時代に忘れられた作家は、死ねば作品は全部消える。

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「表現したい。」、「訴えたい。」、「自分を理解して欲しい。」といった気持ちを強く持つ人々を見付け出し、“ジョイント・プレス方式”なる形で自費出版を持ち掛け、美味しい汁を吸う出版社の丸栄社。同社で敏腕編集者として鳴らす牛河原が客を籠絡するテクニックの数々は、悪徳商法其れと変わらず、「本」が好きな人間としてはどうしても不快さを感じてしまう。

 

其の一方で、5年前の記事でも紹介した様に、出版の世界を取り巻く環境は非常に厳しく、著作だけで食って行ける作家は本の一握りで、経営状態が思わしく無い出版社が少なく無いのも事実として在る。「生半可な気持ちで、物書きになろうなんて思わない方が良い。」という、百田氏からの忠告とも言える。

 

悪徳商法と変わらない手練手管弄する、牛河原の意外な過去。「本」を愛し、「本」に情熱を捧げたからこそ、“理想”と“現実”ので“潰された”時の反動が、其処には在る。露悪的な言動を見せる牛河原だが、そんな彼でも絶対に譲れないポリシーが在り、そんな意外な一面に驚かされる。最後に口にした彼の言葉なんぞは、悔しいけれどグッと来た。

 

総合評価は、星3.5個


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2 コメント

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モデルは幻冬舎ですか(笑 (AK)
2013-04-09 15:52:24
出版不況と言われて久しいので、一ヶ月で雑誌よりも早く裁断されてしまう新書がある中で、自費出版はそうはならないですね。お金持って来てくれるお客さんですし、下手な元人気作家より扱いが良いかも。もっとも何千部も刷って自宅で死蔵てことは大いにありますが。

CDも同様ですよね。30代以上の方であればティーンのときのアイドルロッカー、シンガーが今はインディーズ手売り、っていう事実を知ったこと何度かあるかと思います。比較的メジャーな「スガシカオ」氏も今はマネージャーついていないとか。実態はあまり華やかな世界ではないですね。私の学校の先輩で「伝説のロックバンド」メンバーがいますが、今は自称現役、田舎進学校出の便利なところで、体育会なら市役所や議会にのエライサンの後輩がいますから、つてで文化人・アドバイザーとかで入り込んで、独占メディア財閥の地元紙にもコネ作って、なんだか実態のよく分からないよくわからないブンカ・セイジゴロになっています。
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>AK様 (giants-55)
2013-04-09 18:49:07
書き込み有難う御座いました。

「基本的には“著者”が出版物を全て買い取ってくれるのだから、自費出版って結構美味しい商売なのかも。」というのはずっと以前から思っていたのですが、此の小説を読んで其れが確信に変わりました。売れないリスクを考えると、“普通の出版”で利益を得るのは非常に厳しくなっている昨今、ぼったくりの様な高額では無いにせよ、自費出版に重心を移して行く出版社が増えそうな気がします。

芸術的な才能も然る事乍ら、潤沢な資金を有するタニマチを見付け出す才覚(A元康氏の如く)が無いと、芸能界を長年生き抜いて行くのは厳しいでしょうね。過去の栄光が大きければ大きい程、人気が低迷しても“見栄”で生活水準を中々落とせず、結果的には悪循環に陥って行くケースが多いと聞きます。
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