ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「権力の病室 大平総理最期の14日間」 Part2

2007年08月24日 | 政治関連
笑える話としては、後に首相となったものの女性スキャンダルが露見し、僅か2ヶ月程でその座を退く事となる宇野宗佑・行政管理庁長官(当時)が伊東官房長官に掛けた電話の中身。「知人の話によると、大平総理はこの5月にアメリカを訪問されたが、それが”暗剣殺の時”(九星で、その年の五黄土星と相対した方位。最も慎まなければならない”凶の方位”。)だったそうだ。こういう話を貴君が信ずるか信じないかは別として、閣僚の一人としてこれを耳にした以上は黙過する訳にはいかない。私も知らなかったが、神奈川県茅ヶ崎の寒川神社は方位除けの神様で在るという。速やかに総理に全快して貰い、再び選挙の第一線に立って貰わなくてはならないから、一つ秘書官でも派遣して、御祈りをされては如何か?」というもの。非常に信心深いと言えばそれ迄だが、だったら何故それ程迄に信心深い御仁が女性スキャンダルで躓き、多くの国民に「単なる間抜けなオヤジ」という記憶だけしか残さない結末になったのか知りたい所。

大平首相が亡くなる際の記述も詳細に記されており、森田首席秘書官のCCUのセントラル・モニターの心電図の異常を発見した看護婦が駆け付けており、大平総理の胸を開いて、拳で激しく叩いていた。既に意識は完全に無かった。一瞬、近代医学も時計が故障した時の様に、叩く事以外に無いのかと情けない気がした。若い医師が駆け付け、ベッドの上で馬乗りになって心臓マッサージを始めた。という証言が印象的だった。

明日枯れる花にも水をやる心を大事にしたい。というのが口癖だった大平元首相。愚直な程の生真面目さを感じさせる彼が”人間的には”好きだったが、ハッキリしない物言いというイメージが在り、”政治家として”の彼は好きではなかった。彼以降に首相に就任する者達は概して対外的にハッキリと主張せず、それが故に「アメリカ大統領の様な毅然と主張出来る首相に登場して貰いたい。」とずっと願っていた。だからこそ「小泉純一郎」という人物が首相に就任した際には、自分”も”彼に対して大きな期待を持ったのだ。

小泉首相には政治の基本理念で在る『経世済民』(けいせいさいみん=世の中を治め、人民の苦しみを救う事。)の思想が欠落しており、その事が格差社会の拡大等多くの問題を生じさせた。これは、この本の前書きで紹介されている西村正雄氏(安倍晋三首相の叔父。)の”遺言”。「嘘の無い政治、正直な政治」を政治姿勢とし、「田園都市国家構想と家庭基盤の強化」を政治路線とした大平元首相の様な、深い思想や政治家の心といった物が小泉前首相には無かった。その事に気付かされたからこそ自分は割合早い段階で”小泉手法”に見切りを付けたのだが、同時に勇ましいけれども中身の無い主張をする政治家よりも、主張の表現方法が魅力的では無いものの中身は在る政治家の方がまし。という思いを強くした。

あの田中角栄元首相をして一政党や力だけで政治をやる可きものでは無いという考え方や、一党で全てを片付ける時代では無いという気持ちを彼は持っていた。と言わせしめた大平元首相。又、駐日アメリカ大使を務めたエドウィン・O・ライシャワー氏ももし大平が死ななかったらと考えると、私は日本が大平の死によって受けた損失の大きさに茫然たらざるを得ない。それは多くの日本人が考えているよりも遥かに大きな損失で在る。と、その死を非常に惜しんでいる。(この追悼文「大平正芳と私」は、こちらで読む事が出来る。かなり感動的な内容なので、是非読んで戴きたい。)

巧言令色、少なし仁」という言葉が在る。「言葉を飾り、表情を取り繕う様な人間は徳が少ないもの。だから、上辺だけで人を信じてはいけない。」という戒め。そんな政治家ばかりが目立つ昨今(言葉すらも上滑りで、カメラ目線の表情ばかりの何処ぞの首相。)、心を宿す信念&思想を持った政治家は出て来ないものだろうか。

多くの至言を残していた大平元首相。今になってそれを知った、我が身の不明を恥じるばかりだ。その一つを紹介し、この記事を締め括りたい。

政府が何もかも国民生活に介入するという政治の過剰介入はしてはならない。逆に国民の方も『全てが政治の責任だ。』と過剰期待(その裏腹の過剰批判)を持つ事を出来るだけ止めなければならない。政府にも国民に対する甘えが在り、国民にも政府に対する甘えが在る。それが政治への過剰な期待になったり、政治の力量以上の介入になったりして、それが原因で行政機構が重い物になり、財政のピンチになって来たのではないか。こういう甘えに対して、国民の側も政府の側も自省していかないといけない。政治は与える物で在り、国民が政治に大きな期待を寄せるのは当然だという考え方は行き過ぎだ。政治の持つ力に見合った所で、国民にも我慢して貰わなければならない。

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7 コメント

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選挙の争点 (ハムぞー)
2007-08-24 07:02:29
たしか大平さんは同時選の前の衆院選は負けたんですよね。

いわゆる「付加価値税」の導入を大平さんは訴えた。
普通、国民の不利益を選挙の争点にするのは損なことですが
「将来のため。国民は理解してくれる」と正直に訴え、負けた。
しかしこれが本来あるべき政治のやり方なのではないでしょうか。

「郵便局が云々」という国民が望む優先順位の低そうな政策を焦点に選挙を戦い、その圧倒的多数を背景に昔なら社会党の大反対にあうような政策もどんどん進めていく。

今の消費税の原型である「一般間接税」を選挙で訴え過半数を失った大平さんには、今の自民党の現状をどう思っているのでしょうか・・
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毅然と主張する人、いいですね (マヌケ)
2007-08-24 14:45:30
現役の政治家で、これという人物がいない現状から故人を偲ぶことになってしまうのでしょうか。 ブッシュ2世の政府と似てますね。 国民の2割程度の支持しかなく、国民との感覚のズレを通り越して残りの任期まで、もう勝手にやってくれ状態の、かの国と似ていますよね。 テロとの戦いなんて最後まで言ってるのはおそらく安倍ちゃんとジョージだけになるかもしれませんね。 もう十分国益を損ねたと思うし、ブッシュ2世のおかげで地球規模で被った人命、エネルギー、外交、安全保障、貿易、環境破壊などの損失を電卓ではじいてるシンクタンクもあるくらいで、間違いなく後世からクソミソに揶揄される政治家の一人になることでしょう。 安倍ちゃんも期待されていない分、期待を裏切ることももうないでしょうし、今更サプライズもないと思います。 それにしても、誰も期待できる人の顔が思い浮かばないのが悲しいです。 それに底堅い景気とは思えない現象が多々見られるので、政治がダメで経済もまたダメになるような不安感がありますね。 
全く無関係な話ですみませんが、環境破壊が深刻なもので、ふと思ったのが、アザラシやイルカが本来いるべき場所でないところまでやって来ているのは、彼らはもしかするとヒトに何かを訴えるため危険を冒してまで、こんなにヒトの近くに来たのではないだろうかと思うのことがあるのです。 それを私たちはただ、かわいいとか愛称を付けて喜んでいるというのが反応の仕方を間違っているような気がしてなりません。     
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>マヌケ様 (giants-55)
2007-08-24 19:32:40
書き込み有難う御座いました。

小泉前首相の言動で評価出来る点を挙げるならば、「改革の為には、国民に痛みを背負って貰う。」と言い切った所。長期的&大局的見地からどうしても不可避と判断した事柄に付いては、それが例え国民の拒否感を惹起する物で在ったとしても、一国のトップとして毅然と主張する姿勢は必要だと思います。唯、同時に彼を評価出来ないのは、そういう主張をし乍ら”身内”には全くと言って良い程痛みを背負わせず、その他の国民、特に弱者に極度な痛みを背負わせた事。以前から何度も書いている事では在りますが、真にこの国の財政が立ち行かない状態に在れば、国民の多くは痛みを負う覚悟は出来ていると思うんです。問題は歳出の無駄を徹底的にカットしていなかったり、”身内”に甘い体質が温存されている”欺瞞性”を、多くの国民が流石に気付き出したという事でしょうね。

安倍首相の今回の外遊、我が国の国益に全く適う物では無かったとは言いませんが、各所の演説で「私の祖父の岸信介が云々。」とやっているのを見ると、何処ぞの都知事が”選挙演説で”「弟の裕次郎が云々。」とやっているのと同じ匂いを感じました。結局、安倍首相の”売り”は祖父しか無いという事なのでしょうか。自民党の或る議員が「個人の感傷旅行をしているだけ。こんな時期にそんな事をしている様では、致命的に空気が読めない政治家としか思えない。」と語っていたそうですが全く同感。内閣改造を前に駆け込みで外遊している大臣達。費用対効果を考えた外遊をしている政治家が、この国には一体どれ程居るんでしょうね。
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日米首脳の波乱の年 (o_sole_mio)
2007-08-25 00:27:36
こんばんは

衆議院解散に伴う衆参同日選挙の最中の大平首相の逝去、私は高校生でしたが覚えています。大平さんは「アーウー宰相」とか「鈍牛」とか呼ばれ余りスマートな印象はありませんが、やはり政治家としてのスケールは今の人たちとは一回りも二回りも違うのではないかと思います。この選挙は大平首相の弔い合戦となって自民党が圧勝し、後を鈴木善幸さんが継いだと記憶しています。鈴木善幸さんは総務会長のキャリアがやたら長いもののそれまではそんなに存在感のなかった方ですが、結果として太平さんと中曽根さんのつなぎを無難に行ったという印象があります。

この年、アメリカでも大統領選挙があり、超タカ派と呼ばれたレーガン氏が現職のカーター氏を破って大統領の座に就いたのも記憶しています。いきなりソ連を「悪の帝国」と言い米ソ関係はどうなるのか不安でしたが、結果としてデタントを進めたのはレーガン大統領でした。そういえば、大学のとき教養の先生がレーガン大統領のファーストネームを「ドナルド」と書く学生が多いと嘆いていました。「アメリカの大統領はアヒルじゃない!」と(笑)。
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大平総理 (きゅーかす)
2007-08-25 23:18:48
実は大平総理と同郷なきゅーかすですが、
私にとって何よりもこの方は
「亡くなった正夢を見ちゃった」人だったりします(爆)
夢の中でこの方の死亡記事が大きく載った新聞記事を、
私が読んでいるという、ただそれだけだったのですが、
見た本人は気持ち悪く(丁度入院直後のことでしたから)、家族や友人に話してまわると、
「縁起でもない。ちょっと調子落として入院しただけやと
言ってるで」と言われた記憶があります。
でも、やっぱり重病だったのですね。

小泉さんは何よりも自分を毅然と主張する人っぽくみせることに長けていたのでは、と思います。
giants-55さんも含め、有権者がそのようなタイプを求めていることも、嗅覚のようなもので、嗅ぎ付けていたのでは。
対照的に安部さんはそこらへんが全くダメだと思いますが、私は小泉さんもそんなに評価する気になれません。
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>きゅーかす様 (giants-55)
2007-08-25 23:48:15
書き込み有難う御座いました。

大平元首相が御亡くなりになる夢を見られたんですね。周りも然る事乍ら、きゅーかす様御本人もさぞかし驚かれた事でしょうね。実は自分も似た様な経験が在るんです。それも3年続けて身内が亡くなる”予兆”を感じ取ったというもので、これには自分自身が一番ゾッとしました。(結果的には半年以上先に亡くなった者の亡くなる月日を夢で見て、それが現実になった時は本当に怖かったです。

小泉前首相は”パフォーマー”としては凄い才能を持った人だと思います。又、ああいったパーソナリティーの人間を、時代が求めていたというのも在るのでしょうね。これから十数年の時が過ぎ、改めて小泉前首相や安倍首相の評価を下した時、大平元首相の様に評価が変わる可能性は・・・個人的には100%無い気がしています。
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大平総理 (破壊王子)
2007-08-26 12:39:15
「アーウー」と揶揄されてましたが、実は本人には「俺は演説は上手い」という意識があったのです。

談志が演説を「先生の演説は上手いですよね」と言ったら(ああみえて家元は年寄りに気に入られる達人)、
「君ぃ、わかっとるじゃないか(笑)」と相好を崩したという話があります。(家元が高座だかテレビで話してました)
あの「アー」とか「ウー」は本人は間をとっている意識だったのです。
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