高校時代、同じクラスになった女性Iさん。後から知った事だが、彼女の両親は共に教職に就いていた。女性にしては背が高く、瘦せていたIさんは、結構目立つ存在だった。決して美人とは言い難い見た目だったが、兎に角、“独特な雰囲気”を醸し出していたからだ。
目は細く、能面の様な顔立ち。常に無表情で口数は少なく、傍目からは「何を考えてるのか、良く判らない不思議な人。」という感じがし、だからこそ独特な雰囲気を醸し出していたのだ。
「Iさんって、凄く不思議系の人だよね。」というのが、クラスメートと良く交していた言葉。でも、スポーツ系の部活に所属する仲の良い友人から、「Iさんって、俺と同じ部活。滅茶苦茶面白い子だよ。」と聞かされ、彼女と初めて話してみる事に。1人で話し掛けるのも勇気が要ったので、クラスメートのO君と一緒に、彼女の下に。因みに彼も、Iさんと直接話した事は無かったと言う。
「〇〇べ」という名字のO君が、「Iさん、一寸良い?」と話し掛けた所、Iさんは能面の様な顔立ちを崩す事無く「何?」と答えてから、唐突に三味線を爪弾く様な仕草をし乍ら、「〇〇ベンベンベベンベン♪」と言うではないか。思わず大爆笑してしまった。実際に話してみると、Iさんは非常に面白い子で在り、そして非常に“変人”でも在った。
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「島崎(しまざき)、私は此の夏を西武に捧げ様と思う。」。
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染みの成瀬あかり(なるせ あかり)が、又、変な事を言い出した。「コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、TV中継に映り込む。」と言うのだが・・・。
Mー1に挑戦したかと思えば、「自身の髪を丸刈りにし、3年間で何の位伸びるか?」という長期実験に取り組んだり、市民憲章の暗記を全うしたり。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、屹度誰もが目を離せない。
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以前より書店等で良く見掛けてはいたが、手に取る事は無かった小説「成瀬は天下を取りにいく」(著者:宮島未奈さん)。表紙のイラストが「如何にも“ラノヴェ(ライトノヴェル)調”。」という感じで、手に取る事を躊躇させていたのだ。なのに、今回読む事にしたのは、此の小説が2024年(第21回)本屋大賞に選ばれたから。
6つの短編小説から構成された「成瀬は天下を取りに行く」は、滋賀県大津市を舞台にし、「階段は走らない」という作品以外は成瀬あかりが主人公となっている。此の成瀬あかり、頭は優秀&美人なのだが、無愛想&空気を読めないという、兎に角変人。唐突に思いも寄らない事を決断し、そして速攻で実行に移す。読んでいて、彼女の姿が高校時代のIさんとオーヴァーラップしてしまった。
成瀬の突拍子も無い言動に、ついつい頬が緩んでしまう。傍から見ていたらこんな面白い人物は居ないだろうが、一緒に動くとなると、こんなに大変な人物も居ないだろう。
著者のプロフィールを一切知らない状態で読み始めたのだが、読み終えてから彼女が1983年生まれと知って驚いた。今年で41歳になる訳だが、文章を読んでいる限りでは、「大学生が書いたのかな。」と思う程、実に感性が瑞々しく、“若者感”溢れていたので。又、彼女は滋賀県大津市に在住しているとの事だが、同地に対する深い愛情が犇々と伝わって来る内容。
読み始めた段階では、「そんなに高い評価を受ける程の作品か?」と疑問を感じたが、読み進めるに連れ“成瀬ワールド”に引き込まれて行った。
総合評価は星4つ。続編「成瀬は信じた道をいく」の予約を、早速図書館に入れた。