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「脱原発デモもテロ!? 『迷文学』見過ごせぬ」(10月25日付け東京新聞【朝刊】)
微妙な表現1つで法律等を骨抜きにする官僚の手練手管は、「霞が関文学」と揶揄される。今日25日に閣議決定される特定秘密保護法案でも、其の道の「達人」が腕を振るっていた。脱原発デモもテロリズムと解釈する事が可能な一文を滑り込ませたのだ。「迷文学」の真意を見抜き、廃案に追い込まなければならない。
国家公務員等が特定秘密を取り扱うには、役所側が身辺調査等で適格性の有無を確認する「適性評価」をクリアしなければならない。此の際、脱原発やTPP(環太平洋連携協定)反対、其れこそ秘密保護法案反対の様な運動が、テロリズムと見做され兼ねない。
調査事項には、飲酒の程度や薬物の影響、経済状況が並ぶが、問題なのは「特定有害活動及びテロリズムとの関係」だ。
条文では、テロリズムに付いて「政治上其の他の主義主張に基づき、国家若しくは他人に此れを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設其の他の物を破壊する為の活動。」と定義する。
原発の再稼働や輸出に熱心な安倍政権から見れば、脱原発運動は「政治上の主義主張に基づき、国家に強要」する事に他ならない。其の後の「人を殺傷」等の条件が、「且つ」や「同時に」で繋がっていれば、デモ行進等は入らない。
しかし、条文は「又は」で在る。「政治上・・・」の部分は単独で成立している。
特定有害活動とは難解な役所言葉だが、要はスパイ・破壊活動だ。一見すると、其の定義は、核兵器やロケット、無人航空機の開発・製造と物々しいが、最後に「其の他の活動」が加わっている。全くの無限定だ。
霞が関文学は「処罰行為」や「秘密の範囲」でも駆使されている。
特定秘密の取得は最長10年の懲役が科せられる。人を欺く行為、暴行、脅迫、財物の窃取、施設への侵入、不正アクセスを列挙した後、「其の他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」が挿入されている。此れでは、取得自体で罰せられてしまう。
秘密の範囲も際限が無い。防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野で、特に秘匿すべき情報を各大臣が「特定秘密」に指定する。「適用範囲が曖昧。」等の批判に対し、政府は「別表で、具体的に列挙している。」と主張する。
ところが、其れ其れの分野が広範囲にカヴァーされ、「限定列挙」とは言い難い。然も、実際の条文には「別表に該当する事項に関する情報」と在る。「関する」となれば、何でも在りだ。
日弁連の秘密保全法制対策本部事務局長を務める清水勉弁護士は、こう解説する。
「法案は、穴の開いたバケツの様な物だ。絞り込んでいる様に見せ掛けて、『其の他』で一気に広げる。脱原発デモも、テロリズムの定義の中に入ってしまう。官僚が一般市民やマス・メディアは勿論、国会議員さえも情報にアクセスさせない様にする為の仕掛けだ。」。
「霞が関文学」という言葉がメディアで取り上げられる様になるのは、バブル崩壊後の1990年代初頭以降の事で在る。専ら皮肉られたのは、政府の景気判断を示す旧経済企画庁の「月例経済報告」だった。各省庁間の利害関係が複雑に絡む事から「景気は緩やかに減速し乍ら、引き続き拡大。」といった難解な言い回しが多用されていた。
程無く、法案や公文書、政治家の答弁迄、幅広く槍玉に挙がる様になる。「弖爾乎波」や句読点を操ったり、但し書きを加えたりして、趣旨を捻じ曲げる手法が横行したのだ。
経済産業省の元官僚で政策コンサルタントの原英史氏は、「法案は官僚が作り、内閣法制局が前例や文章の整合性を厳密にする為に捏ねくり回す。国民が読んでも判らないどころか、立法府の国会議員ですら理解出来ない。官僚にしか判らない為に、官僚に都合良く解釈出来る余地を与えてしまう面が在る。」と分析する。
五十嵐敬喜・法政大教授(公共事業論)は「法律は国民を厳しいルールで縛る事になる為、解釈に或る程度の幅を持たせて来た。明治時代に出来た民法や刑法が、今に受け継がれているのは其の為だ。」と指摘する一方で、現代の霞ヶ関文学を「其れを逆手に取り、官僚が恣意的に運用するケースは多い。」と問題視する。
最近の例を挙げると、消費税増税が決まった昨年の「社会保障と税の一体改革関連法案」では「成長戦略、事前防災、減災等に資金を重点配分する。」との付則を根拠に、増税分を公共事業に「流用」する余地を残した。
東日本大震災の復興予算が被災地以外で流用された問題も、同じ構図で起きた。本来は被災地復興が目的だった筈の復興基本法(2011年6月施行)に「活力在る日本の再生を図る」との文言が盛り込まれ、支援の対象が全国に拡大。同法に基づいて策定された復興基本方針では「全国的に緊急に実施する必要性が高い防災、減災等の施策を実施する。」との項目が「被災地外でも様々な用途に予算が使える事になり、各省庁の便乗を許す根拠になってしまった。」(五十嵐教授)。
耳当たりの良いフレーズで本質を隠したい政治家の声明にも、霞が関文学は影響している。野田佳彦前首相の「原発事故収束宣言」や、安倍晋三首相の「汚染水の影響は、完全にブロックされている。」等が典型だ。
東大OBの官僚や原子力村の欺瞞的な言い回しを「東大話法」と名付けた事で知られる安冨歩・東大東洋文化研究所教授は、霞が関文学に付いて「無意味で空疎な言葉の羅列でしかないのは、各省庁や政治等の立場に折り合いを付ける妥協の産物だからだ。其処には、国民に何かを伝え様という配慮が無い。」と切り捨てる。
「仮令意味の在る言葉を発する人が居たとしても、秘密保護法案が成立してしまえば逮捕されてしまう。保護法は、『暴走して行く日本』というパズルを完成させてしまう最後のピースだ。絶対に成立させてはならない。」。
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「熟慮無く追認/全て官邸意向」(10月25日付け東京新聞【朝刊】)
自民党が特定秘密保護法案を「全会一致」で了承した22日の総務会で、法案に反対し、了承手続き前に退席した村上誠一郎元行革担当相。村上氏は本紙のインタヴューに応じ、重要な法案にも拘らず、熟議を尽くさず、安倍晋三首相の考えを追認する自民党の姿勢を批判した。
-何故、法案に反対したのか?
「沖縄返還の日米密約を巡る『西山事件』では、元毎日新聞記者が密約情報を『情を通じて』掴んだとして有罪になった。だが情報其の物は正しかった。では情を通じ無い取材だったらどうなのか?良心的な公務員が『政府が国民の電話を傍聴している。』と暴露したらどうなるか?質問しても(法案を担当する)礒崎陽輔首相補佐官や町村信孝元官房長官は答えられなかった。そんな事は了承出来ない。」。
-党内で反対派は少数なのか?
「総務会で喧々囂々の議論になるかと思ったら、異論を唱えたのは私と木村義雄参院議員の2人だけだった。20数年に自民党議員がスパイ防止法案を提出した時は、私だけで無く、谷垣禎一法相、大島理森前党副総裁等も反対したんだが・・・。」。
-党内で反対論が広がらない理由は?
「首相官邸の意向となると、皆、何も言えなくなってしまうからだ。全て『しゃんしゃん』で決まってしまう。」。
-最後迄反対せずに退席した理由は?
「総務会は、全会一致が慣例だからだ。反対の意思表示をするには、退席するしか無い。」。
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