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住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間は、ギロチンに掛けられる。身に覚えが無くとも。
交代制の「安全地区」と、其処に配置される「平和警察」。此の制度が出来て以降、犯罪件数が減っていると言うが・・・。
今年、安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、遂に刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?
其の時、全身黒尽くめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる。
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小説「火星に住むつもりかい?」に関して著者の伊坂幸太郎氏は、或るインタヴューで次の様に答えている。
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インタヴュアー:「魔女狩り」を題材にしたのは、何故でしょうか?
伊坂氏:僕は、戦争と死ぬ事が一番怖いんですね。戦争の何が怖いかと言えば、人々の考え方が正常では無くなって、何でも在りになる事で。魔女狩りも資料等を読むと、「御前が魔女だ。」と言われたら、もう逃げ様が無い。皆が暴走して行く怖さが在るんです。
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中世のヨーロッパで大規模に行われていた「魔女狩り」。「魔女と密告された人間は水の中に沈められ、浮かんで来たら魔女と認定され、そして処刑される。魔女と認定されたくなかったら、ずっと水の中に沈んでいなければならず、詰まり水死する事に。又、拷問に耐えられず『自分は魔女です。』と認めた場合は処刑され、最後迄認めなかったとしても、結局は拷問によって死ぬ事になる。苦しくて自殺を図ったら、『魔女は、自殺を選ぶ物だ。』と決め付けられる。」といった具合に、魔女と密告された時点で、其の人物は「死」が確定するという、余りにも理不尽で残酷な状況が在った。「気に入らないから。」という理由で、嘘の密告をした者も多かったろうし、魔女として公開処刑されるのを、楽しみにしていた市民も少なく無かったと言われている。
「火星に住むつもりかい?」では、「治安維持の為として、“危険人物”を密告する制度が出来上がり、其の危険人物を捉えて拷問し、最終的に“殺害”する『平和警察』なる組織が存在。」している。平和警察に配属されるのは嗜虐的な人間許りで、彼等は拷問を嬉々として行っているのが、実に不気味。
市民を徹底的に監視し、密告が在れば、捉えて拷問する。戦時中の我が国でも「隣組」と「特別高等警察(特高)」という不気味なシステムが存在していたけれど、「1つの価値観しか認めず、其の価値観に少しでも否定的な意見を述べる者に対しては、“信者達”を扇動して黙らせる。」という安倍首相の異常さを感じ続けている身としては、「火星に住むつもりかい?」の世界が、“遠い未来”とはとても思えない。伊坂氏もそんな空気を強く感じるからこそ、此の作品を著したのではないだろうか?
「磁石」や「昆虫」に関する薀蓄が盛り込まれる等、あらゆる分野に対して関心を持ち、そして造詣の深さを見せる伊坂氏。
又、嫌な雰囲気で話が進んで行き、「後味の悪さしか残らない作品か?」と思いきや、最後の最後にホッとさせられる“大どんでん返し”が設けらているのには、「見事!」の一言。
総合評価は、星4つとする。