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2022年7月、コロナ新規感染者は、1日10万人を超えていた。第7波、第8波と、波状攻撃で新型コロナウイルスは、日本社会に襲い掛かる。医療現場は“医療崩壊”の状況を超え、今や“医療麻痺”に陥っていた。
其の頃、ホスピス病棟とコロナ病棟の責任者を兼務している田口公平(たぐち こうへい)は、新任の中堅医師・洲崎洋平(すざき ようへい)に手を焼いており、此の問題を解決する為、禁断の一手、厚生労働省の白鳥圭輔(しらとりけいすけ)を東城大に召喚するが・・・。
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現役の医師でも在る海堂尊氏が作家デビューしたのは、今から17年前の2006年の事。デビュー作は「チーム・バチスタの栄光」で、此の作品によって彼は、一躍人気作家の仲間入りを果たす。「チーム・バチスタの栄光」の流れを汲む作品は、其の後「田口・白鳥シリーズ」と呼ばれる様になる。今回読んだ「コロナ漂流録」は同シリーズで在り、同時に「コロナ3部作」の完結編でも在る。
「コロナ漂流録」は「2022年6月3日~2023年1月15日迄の時代を舞台。」としている。読んでいて感慨深かったのは「主人公の田口公平が、還暦間近で在る。」という事実と、「彼に、管理すべき直属の部下が出来た。」という点。17年前の「チーム・バチスタの栄光」で初登場した田口は「40歳」という設定だったと記憶しているが、其れが還暦間近。「ドラえもん」の世界の様に、登場人物達の年齢が全く変わらない世界も在る一方、「田口・白鳥シリーズ」は“現実社会”と歩調を合わせ、確実に時が流れているのだ。
又、田口が“部下”を持つというのは過去に無かった訳では無いと記憶しているが、“管理すべき直属の部下”となると、多分今回が初めてではないか。此の年齢になる迄、周りから“昼行燈”の様に思われ、或る意味“フラフラ”と生きて来た彼が、今回は“管理者としての顔”を見せなければいけない訳だが、管理すべき部下が“今風の兄ちゃん”。「私生活を最優先し、相手が上司だろうと何だろうと、自分の主義&主張を曲げず、言いたい事を言いっ放し。ネトウヨ気質が強く、極右の安保宰三(あぼ さいぞう)元首相(安倍晋三元首相を思わせる人物)を崇拝している。」という人物で、其の管理に悪戦苦闘。でも、思い付きでした事が、結果的に「何とか管理出来ている。」という方向に進むのだから、流石で在る。
「自分にとって“都合の良い情報”にのみ触れ、深く考える事無く鵜呑みにする。」というのがネトウヨに限らず、極端な思考の人の特徴だが、洲崎も其の例外では無い。偏差値的には優秀なのだろうが、「様々な情報(インフォメーション:真偽の程は別にした、雑多な情報。)に当たり、自分の頭で逐一其れを検証した上、正しい情報(インテリジェンス)として蓄積して行く。」という“当たり前の事”が出来ない人間が、老若男女を問わず、何と多い事か。日本の未来(世界の未来と言っても良い。)が、本当に心配になる。
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・最近、コロナ罹患の重症者が減っているのに死者が漸増しているのは、人工呼吸器を装着する患者のみを重症者とカウントするという、コロナ対応の特殊さに起因する数字のトリックなのだ。
・「(前略)製薬会社に下りる開発費用はお大尽さ。だからさっき村雨(むらさめ)さんが『エンゼル創薬』を『将』に例えたのは適切なんだ。厚労省の補助金の使い方は本当にいいかげんなんだよ。例えばどこかの製薬会社にコロナワクチン開発に十億円の補助金をつけたとする。でもその補助金を、コロナワクチンの開発に使わなくても全然OKなわけ。」。
・安保元首相の「すり替え・居直り・茶化し・ごまかし」という四柱を主体にした屁理屈答弁は「安保話法」として世を席巻していたのだ。そして安保チルドレンは「奉一教会」の手先となり、国会内にはびこっている。全ては大宰相の負の遺産だ、と言えるのかもしれない。
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主人公は田口だが、今回の作品では彼よりも、脇役的な人物達の活躍が目立つ。現実社会では“悪党”が中々“成敗”されないだけに、物語とはいえ“勧善懲悪的な結末”なのはスカッとする。
又、コロナ3部作は原則的に“実在の人物”を“別名の人物”に、“実在の事件”を“別名の事件”に其れ其れ置き換えているけれど、「此れは、彼の人(彼の事件)の事だな!」と思い浮かぶし、「此の足掛け4年間で新型コロナウイルス感染症が、世界中で“具体的に”どんな影響を及ぼして来たか?」が“時系列”で記されているので、後世の人達にとっては非常に参考になる事だろう。
総合評価は、星3.5個とする。