胃生検の小部屋 Cottage for Gastric Biopsy

胃生検からはじまる消化管病理の美しい世界

手つなぎ癌、横這い癌 (2), Was ist Invasion ?

2010-05-10 | 胃分化型腺癌
 日本病理学会総会が新宿みなと町(古い!)でありました。消化管病理医の会で呈示した手つなぎ・横這い癌の典型例をアップします。若い先生方の勉強法として、ESDや切除標本でこのような典型的手つなぎ癌を材料にして、自信を持って癌といえる領域から標本を左右にスキャンしていって、非腫瘍と腫瘍の境界を学んでいくのがいいのでは、と提案しました。
 手つなぎ癌、横這い癌は2008-8-19にもアップしています。紛らわしい「偽手つなぎ」は2008-11-26に出しています。特に横切れ、斜め切れの切片で偽手つなぎが出現します。
 この手の癌は「細胞異型が乏しく、構造異型で診断する」と信じられていますが、実のところ、そこそこの核異型もみてとれます。
 構造異型については、それぞれの腺管の軸を結んでいくと無茶苦茶な交叉を示します。腺管の輪郭を追うことが困難です。腺管距離、核間距離が不揃いです。
 鋭角的な分岐・吻合が特徴で、我々伊賀流一門では手裏剣型分岐・吻合と(私が勝手に)言っています。手裏剣が粘膜固有層内を飛び回り、隣接する腺管の基底膜を破壊していくイメージです。なお、正常や非腫瘍性変化でも胃の幽門腺や不完全型腸上皮化生では深部でかなり複雑な「分岐・分枝」をしますが、腺管同士、水平方向への「吻合、anastomosis」というのはかなり異常です。
 細胞が扁平化し、内部に壊死・アポトーシスを貯めたような変性腺管が唐突に、忽然と出現したりします。
 手つなぎ型の形態について、構造異型という先生、粘膜内浸潤像であるという先生色々です。独逸時代のChefであるボルヒャルト先生は、Das ist Invasion.と論文に書いておられますが、残念ながらドイツ語論文(日本語は勿論のこと)なので日の目を見ていません。私はChefに従い、粘膜固有層内浸潤という立場をとっています(築地魚河岸の先代は浸潤とは言われません)。この写真をよく見て下さい。手つなぎ、横這い癌をその目でみると、粘膜固有層内でも腺管周囲に軽い線維化をみる場合が多いです。浸潤に伴う一種の間質反応と考えることもできるでしょう。
 手つなぎ癌をみるときは、構造異型だけでなく、細胞異型や間質反応にも目を向けて下さい。
 日本と同様、内視鏡治療が広く普及し、粘膜下層に浸潤する前に癌診断をしなければならない機会が多くなった韓国でも手つなぎ・横這い癌は注目されています。(韓国の消化管病理の診断基準は米国流、日本流が拮抗しています。ESD,EMR向けには何と言っても日本流でしょう!)
 しかし、過剰診断は禁物です。深切り切片を作り、内視鏡医ともよく話し合って、一緒に悩みましょう。
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