胃生検の小部屋 Cottage for Gastric Biopsy

胃生検からはじまる消化管病理の美しい世界

IBDクラブジュニアウエスト

2008-08-31 | 研究会、学会
 IBDクラブジュニアウエストがオーバルホール(大阪)でありました。
1. Dr.Harleyと一緒に標本を見ました。UCの初発例と思われる症例ですが、CMVの感染もありました。病理組織学的には初回の生検から、生検組織全体に強い慢性炎症細胞浸潤があり、basal plasmacytosisも強く、陰窩底部と粘膜筋板の間が乖離していました。粘膜固有層の深いところに丸みを帯びた陰窩膿瘍もありました。全体的にstructural distortionもmucous depletionもそこそこあると思いました。UCの診断を躊躇われていたようですが、私見として、封入体を見落としたとしてもstrongly suggestive of ulcerative colitisと記載するであろうと伝えました。
2. 結核?として治療されある程度効果があったような症例です。組織学的には色々な生検で沢山類上皮細胞肉芽腫がありました。しかし、粘膜病変はあまり強くありません。肉芽腫には融合傾向もあります。肉眼的にもクローン病は考えられません。年齢的にもご高齢です。中心部に壊死がある肉芽腫もありましたが、乾酪壊死というより、フィブリノイド壊死に近い感じです。肉芽腫が結核の定型例のように活動性炎症のある病巣に一致して存在しているわけではありません。好中球浸潤もあまり伴わず、巨細胞もそこそこ出現しているので、エルシニア的な肉芽腫でもないようです。残るは腸管サルコイドーシスです。消化管病理の関西の大親分が解説されました。先日九州のIBDクラブでも同様な症例があったそうで、九州の大親分が病理解説されたそうです、インターロイキンの上がり具合はサルコイドーシスでも合うそうですが、今後の臨床的精査が期待されます。
3. 大腸クローン病です。初診に近いころの大腸生検標本を見せてもらいました。生検時の臨床情報はあまり頂いていなかったのですが、小さな生検の中から色々拾うことができました。不連続・不均衡炎症パターン、mucous preservationのある部分的なdistortionがみられ、一切片で多核巨細胞を伴う小さな類上皮細胞肉芽腫がありました(写真)。但し、肉芽腫が粘膜固有層にある場合、crypt-associated granulomaかどうかいつも注意しないといけません。
 残念ながら3例で退席しましたが、4例目はDr.Harleyに見せてもらいました。
4. 潰瘍性大腸炎+lymphomaです。粘膜にはびまん性に改変像があり、潰瘍性大腸炎のようですが、粘膜下層以深主体にlymphomaがありました。T cellタイプであり、peripheral T cell lymphomaと診断されました。lymphomaとしては粘膜病変はなくenteropathy typeとは異なります。
 IBDクラブジュニアは病理医としても大変勉強になります。是非ご出席下さい。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幽門腺過形成、Pyloric gland hyperplasia

2008-08-25 | 胃腫瘍様病変
 大阪の幽門腺過形成です。これは残胃吻合部胃炎のところから採られた生検で、やや難しいと思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幽門腺過形成、Pyloric gland hyperplasia

2008-08-25 | 胃腫瘍様病変
 次に서울の幽門腺過形成です。これはH. pylori胃炎の胃底腺領域粘膜です。偽幽門腺過形成というべきかもしれません。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

幽門腺過形成、Pyloric gland hyperplasia

2008-08-25 | 胃腫瘍様病変
 胃型腺腫(幽門腺型腺腫)なんてレア物を扱って周りに吹聴していると、胃炎に際して時々みられる幽門腺過形成との混乱を助長してしまっているようです。このところ立て続けに、腫瘍か?反応性か?というコンサルトで、反応性の所謂「幽門腺過形成」がありました。まずは中部地方の幽門腺過形成です。幽門腺型腺腫でみられる様な、小型円形ながら核小体が見られ緊満感のある元気な核も混在しますが、幽門腺過形成ではそれが少なく、普通の幽門腺でみられるような扁平な(へしゃげた)核をもつ細胞が必ず混在します。
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

胃底腺ポリープ様病変、FGP-like lesion、PPI

2008-08-23 | 胃腫瘍様病変
 先ほどのFGP-like lesionを拡大しました。一見、FGP様で、腺管が拡張していますが、体部腺のDisorganizationはありません。尖った壁細胞も目立ちます。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

胃底腺ポリープ様病変、FGP-like lesion、PPI

2008-08-23 | 胃腫瘍様病変
 胃底腺の嚢胞状拡張だけで胃底腺ポリープ(fundic gland polyp; FGP)と診断している方をみかけます。FGPの診断は簡単な様で、奥が深いのです。
 FGPの診断には、何よりも「胃底腺のDisorganization」が必要です。FGPには散発的なものでも遺伝子の異常があるとされ、頚部増殖帯から分化した細胞の進むべき方向が少しおかしくなり、直線的な(とうもろこしの様な)胃底腺の配列が乱れると考えればよいかと思います。

 FGPと誤解されているものに、主にPPIの服用によって生じる変化があります。
1) pseudoparietal cell hyperplasia/hypertrophy
2) parietal cell protrusion
3) FGP-like lesion
などと呼ばれています。(1)は我らが独逸の腫トルテ先生が名付け親ですが、最近私は師を裏切って、(3)FGP-like lesionという言葉をある教科書で見つけたので好んで用いています。

 PPIの服用または高ガストリン血症の際に壁細胞が尖がった帽子の様になるのが特徴的です。以前の早期胃癌研究会でダンディ先生が出された胃炎の症例があり、皆さん好酸球のことばかり言っておられたのですが、壁細胞がそこそこ尖っていたので、ガストリンを調べてくださいと個人的に伝えて調べてもらったところ、かなり高値だったそうです。
 
 PPIといえばcollagenous colitisですが、近いうちにcollagenous colitis, gastritisをアップしましょう。8月号の病理と臨床を読んでくださいね。
コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

手つなぎ癌、横這い癌

2008-08-19 | 胃分化型腺癌
 
胃癌取扱い規約で中分化管状腺癌(tub 2)に分類されるもので、俗に「手つなぎ癌」といわれる診断の難しいものがあります。内視鏡的にも質的診断・範囲診断がしばしば困難であるとされています。これには色々な芸名があって
 ・手つなぎ癌
 ・横這い癌
 ・低異型度完全腸型癌
 ・不規則吻合腺管癌
 ・低異型度中分化型腺癌
などです。それぞれ指すものが微妙に異なることもありますが、粘膜内や粘膜下層で低分化型腺癌に変わる可能性が高い病変です。低分化型に変わらなくても、そのまんま浸潤し進行癌になることもあります。
 鋭角的な分岐融合が特徴で、我々伊賀流一門では手裏剣型分岐と(私が勝手に)言っています。手裏剣が粘膜固有層内を飛び回り、隣接する腺管の基底膜を破壊していくイメージです。
 この形態について、構造異型という先生、粘膜内浸潤像であるという先生色々です。独逸時代のChefであるボルヒャルト先生は、Das ist Invasion.と論文に書いておられますが、残念ながら独逸語であり、日の目を見ておりません。
(写真小は和製手つなぎ癌、写真大は韓式手つなぎ癌です。)
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日韓の診断基準

2008-08-11 | 胃腺腫
 韓国の消化管病理のニューリーダーが1週間私のところに滞在し、胃腺腫と分化型腺癌の診断基準について討論した。彼女の主たる目的は私の胃型(幽門腺型)腺腫(PGA)コレクションをみることであった(4月には加国のリデル先生が来られて、PGAコレクションをみて感激してもらった)。PGAにとどまらず、最近韓国で経験された胃腺腫、早期胃癌、再生異型などの症例を100例ほど持参され、日常業務や外勤を後回しにして、徹底的に討論した。彼女は現在、韓国を代表する企業が経営する巨大メディカルセンターの病理医であるが、その病院には韓国中から胃癌患者が集中し、胃外科切除が昨年度は1800例、ESDも数百例あるようで、その経験数は半端ではない。ESD標本も大変美しい。
 韓国の消化管病理ではこれまで米国の診断基準が普及しているが、彼女のように早期胃癌や腺腫を日本並みあるいはそれ以上に経験しているとその診断基準では間に合わなくなってきているように思えた。たとえば、ソウルでGastric adenoma with high-grade dysplasia (HGD)と生検診断され、1-2年の経過観察後、ESDや外科手術されたものをみるとかなりの確率で粘膜下層に浸潤しているか、少なくとも明らかな粘膜固有層内浸潤が観察できるのである。このような生検標本をノーヒントで多数見せられた(試された?)が、我々の基準ではほとんどが初回生検で分化型腺癌と比較的簡単に診断できた。
 したがって、韓国の消化管腫瘍の診断基準は米国基準からかなり日本基準にシフトしてきている。実際一緒に鏡検していると、「日米良いとこ取り」という感じであった。
 私が採用している胃腺腫の診断基準は、近年箱根を越えて、日本のなかでも「東京基準」でかなり幅の狭いものになってきた。つまり、表面は平坦、直線的管状構造、基底側に配列する細長い紡錘形核、トップダウンの増殖パターンを基本的に全て満たすもののみを腺腫にしている。これを少し外れると癌ということに対しては異論も多いと思うが、実際そのようなものをESDして詳細に観察すると浸潤像に遭遇する確率が、日韓いずれの症例でも高いのである。
 現時点、彼女の診断基準で感じたのは以下の様なことである。
1) 絨毛腺腫の存在をある程度認めている。以前、絨毛腺腫と診断していたものでも、現在は乳頭腺癌と考えるようになった症例も多いようである。
2) 多少核が丸みを帯びていても腺腫と診断する(但しHGDと記載)。しかし、極性の乱れが目立ち始めると癌にしている。
3) 絨毛腺腫やHGDが日本で癌と診断されることはよく知っている。このような症例では、粘膜固有層内浸潤を懸命に探される。
4) 胃型(幽門腺型)腺腫の存在は認めているし、ソウルでも最近多数経験されている(いくつか見せてもらった)。しかし、アブラハムのいう腺窩上皮型腺腫(日本では胃型腺癌と診断されることが多い)も一応認めている。
5) 手繋ぎ癌(横這い癌、低異型度小腸型腺癌)も完全に理解している。
「日韓診断合戦」の症例写真も撮りためたので、今後アップしていきたい。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする