胃生検の小部屋 Cottage for Gastric Biopsy

胃生検からはじまる消化管病理の美しい世界

Crohn's rosary クローンのロザリオ

2009-02-28 | 小腸非腫瘍
 クローン病を診断する上で重要な所見のひとつに「全層性炎症」があります。この用語からは、消化管壁にびまん性に慢性炎症細胞浸潤があるという印象をもってしまいますが、実際のところはリンパ球集簇巣が飛び飛びにみられることがほとんどです。
 欧米の教科書にはCrohn's rosary「クローンのロザリオ」という西洋文化的な表現があり、クローン病を病理学的に診断する上で重要な所見であると記載されています。ロザリオは主にカトリックの方がお持ちの数珠のことです。
 さて、この標本は縦走潰瘍のところにはうまくヒットしていませんが、腸間膜付着側の固有筋層直下に膿瘍(穴のあいたところ)がみられます。粘膜面では浮腫性でプクプクになった絨毛が目立っていると思いますが、上から見ると敷石に見えたりします。
 IBDやその類縁疾患では、潰瘍と血管の関係などをしっかり観察する必要があるので、基本的にはこのように消化管が輪切りになるように切り出してくださいね。
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小腸内視鏡研究会

2009-02-21 | 研究会、学会
 小腸内視鏡研究会が駿台予備学校京都校の近くでありました。貴重例オンパレードで大変勉強になりました。
1) 小腸Granulocytic sarcomaの症例です。小腸では初めて見たという先生方が大多数のようでした。病理ではCD3, CD20, CD10が陰性でMT-1(CD43), CD68が陽性を示していました。HE切片で異型好酸球を見つけるのがコツですが、難しいです。
2) 止血困難な小腸潰瘍で、臨床的には腸結核が鑑別にあがっていましたが、病理では腸結核らしくないとのこと。標本をみると、血管壁の弾性線維が変性し、硝子化したものもみつかり、粘膜下層~粘膜で、血管の異常な拡張がありました。bizarreな間質細胞もあり、放射性腸炎の所見でした。Dr Curryによると本例のようにskipした輪状潰瘍は放射性腸炎にも特徴的な所見であるとのことです。
3) 化学療法後の小腸出血の症例です。肉眼像に一致して、絨毛の萎縮がありました。粘膜下層には浮腫・線維化と毛細血管の増生があります。検鏡すると容易にアポトーシスが見つかり、粘膜には慢性持続性の障害を示唆する幽門腺化生がみられました。また、crypt abscess様の単一腺管レベルの変性、その周囲の線維化もみられました。抗がん剤による粘膜上皮の選択的傷害と虚血性変化が示唆されました。
4) 空腸のlipomatosisです。単発のlipomaでも時々、症例報告されているのに、こんなに多発しているのは初めてみるとおっしゃる先生方が多いようでした。
5) 回腸に潰瘍性病変があり、縦走傾向のある潰瘍や炎症性ポリープの多発、胃には竹の節様外観があり、少しatypicalということですが、多くの先生方はCrohnと思われていたようです。病理医としては、もう少し、しっかりと複数個生検して、deep cuttingなど加えてほしいところです。
6) 小腸の悪性リンパ腫です。Grade Iのfollicular lymphomaでした。肉眼像が十二指腸でしばしば報告されているようなものとは異なっていました。生検でみると、異型性には乏しい小型リンパ球が単調な増殖をしており、絨毛が膨らんでいました。
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大腸疾患研究会

2009-02-21 | 研究会、学会
 大腸疾患研究会が浪速の街でありました。
1) ちょうどバウヒン弁のところにもこもこした多結節状の病変があり、follicular lymphomaとlymphoid hyperplasiaが鑑別にあがりました。病理ではHE切片だけですぐにわかるようなlymphoid hyperplasiaでした。会場の偉い先生方もこのような病変はみたことないとおっしゃっていました。小児ならパイエル板の過形成があって、腸重積の先進部になったりするのですが、患者さんは私より年長者でした。
2) 回腸に長い範囲の狭窄があったのですが、内視鏡が比較的容易に通過する柔らかい腫瘍で、MLが鑑別の一番にあがる症例でした。病理診断もDLBLが最も考えられるとの診断でしたが、非常に経過が早い症例で、DLBLの亜分類と予後・転帰を考える上でも貴重な症例のようでした。
3) 回盲弁に単発の潰瘍があり、出血しており、経過も含めて、キャンピロバクター、サルモネラ、チフス・パラチフス、CMVが鑑別診断にあがりました。simple ulcer, Tbcも考慮すべきとの意見も出ました。遷延化したキャンピロバクター腸炎とのご呈示でした。病理では、急性炎症後の再生・修復像がみられるとDr Harleyが解説されました。
追伸:研究会の後、大阪で盛業中の消化器内科の先生から、このブログをいつも見ています、と声をかけていただきました。また別の研究会でcollagenous colitisの記事を引用してくださるとのこと、ありがとうございます。びわ湖・淀川水系から、隅田川畔に来月異動しますので、この会の出席は今回が最後になります。お世話になりました。
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Intestinal spirochetosis

2009-02-17 | 大腸炎症
 Intestinal spirochetosisも「稀な疾患」ではなくなってきましたね。あるクリニックの大腸生検では10日で3例もありました。見逃していることも多いと思いますが、比較的若い方で下痢と書かれていたので、いつもよりじっくり見たためかもしれません。
 10年以上前、大腸生検の診断で独逸流アルゴリズムを叩き込まれ、その中で
・付着物質をみる(アメーバなどを見落とさない)
・spirochetosisを見落とさない。(アメーバとの組み合わせ、というのもよくあります)
・上皮内リンパ球をみる(lymphocytic colitisやsprueに注意:これは日本にあまりなさそうですね。)
・被蓋上皮の変性所見は?
・上皮下のcollagen bandは?
・・・・・・
という所見をいつも気にして、順序だてて見るようにと若い先生方にも教えているので、私の周りにはぎょうさんあります。
 病原性、治療法などは議論のあるところです。
 最近はT. pallidumの抗体(UKのメーカーから出ている)と交叉反応を起こして、きれいな免疫染色ができることが報告されていますが、濃い目のヘマトキシリンで十分わかると思います。
コメント (6)
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