ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「諸怪志異」諸星大二郎

2018-10-16 07:11:12 | マンガ


実は持ってるのが一、二、四で三が抜けてるのですが、とても面白い話が多いので書いてみます。

なんといっても五行先生と見鬼ちゃんコンビがとても良いのです。五行先生は並外れた霊能力を持つ道士、見鬼はまだ幼いながらに通常の者が見えないものを見る、という能力を持っています。
中国宋時代を中心に舞台とした諸星大二郎オリジナルの聊斎志異風味の短編集です。

以下、内容に触れますのでご注意を。

どれも面白いのですが、特に好きなのは一巻「異界録」からは「異界録」表題にもなるだけに驚きの発想です。人間の体が変化する、というのは諸星さんデビュー時から続くイメージですね。そのことが嫌悪ではなくどこか理想郷とすら思えるのが不思議です。それにしても「裏返る」とは。
人間の表裏、世界の表裏、時間の表裏。不思議なイメージです。


同じく一巻「魔婦」見鬼ちゃんの可愛さが存分に描かれています。
五行先生から「忘れてきた払子と薬用人参を取ってきておくれ」というお使いを頼まれた見鬼ちゃん。一人で町まで行った見鬼ちゃんが出会ったのは義母にこき使われいじめられている少女でした。実はその義母は妖怪だったのです。
正体を見破られた義母の妖怪はふたりを食おうと追いかけます。見鬼は未熟ながらも少女を助けようと五行先生を見習って術を駆使するのですが。
結局、ふたりを助けたものは・・・。
とても怖くて可愛らしくてとぼけた味わいもある大好きな一編です。


一巻「毛家の怪」最もホラーらしいホラー、と言うべきでしょうか。
とても美しくしとやかな毛夫人ですが婿入りをした夫に執拗な愛情を持っています。
仲の良い夫婦ではあるのですが、夫が別の女性に目をやるたびにその女性が犠牲になる怪異がおきてしまうのを、小間使いの小琴が気づき恐れを感じていました。
しかし毛夫人はそういう怪事件が起きた時いつも寝台で眠っているのです。
いったい、怪事件を起こしたものは・・・。
という内容です。絵柄が特に美しく描かれていてしっとりとした情緒があります。


第二巻「壺中天」からは「盗娘子」
これも見鬼ちゃんが主体となったどたばたホラーなのですが、すごく可愛くて。表紙で鶴の背に乗った見鬼ちゃんはいいのですが遠くに五行先生も鶴に乗っているのがなんとも言えない可笑しみがあるのですが、なんでしょう、こういうまじめなユーモアというのは諸星さんの醍醐味です。
仲良しになったワガママなお嬢様の逢引きを手助けするためにまたまた五行先生の術を使う見鬼ちゃん。切り絵に息を吹きかけて本物の姿にみせかける、という魔術なのですが、見鬼ちゃんはまだ切り絵が上手くできないのです。
そのせいでぐにゃぐにゃのへっぽこなトラや怪獣ができあがってしまいます。お嬢様が好きになった男が実は悪い奴で、事態は悪い方向へ。そこへ登場するのが五行先生でした。
未熟な魔法使い、という設定はとても愉快なんですよね。
見鬼ちゃんも五行先生もとても良い人なのが嬉しいです。

二巻から「山都」
すっごいおかしな話です。「山都」という人間の猿の間のようなものがいる、というお話なのですが。
ある男が山奥で道に迷って雨に降られ仕方なく濡れた服を脱いで木の上にある大きな巣のなかで眠っています。「もしかしたら山都の巣かもな」と思っている男が目覚めると本当に山都が男をのぞき込んでいました。
「人間なら虎に食わせてしまおう」と言われとっさに男は「他所から来た山都なんだ」と嘘を言うのですが、気の良い山都たちは男が裸なのもあって信じてご馳走をふるまってくれるのでした。
おまけに男が入り込んだ巣が雌の山都のものだったので男はその雌山都とねんごろになってしまいました。
気の良い山都たちですが、昨今の人間たちの増長に怒りを感じておりついに合体して大きな怪物に変身して人間どもを追い払おうと考えました。(ほんとに合体好きですね、諸星さん)
(余談ですが、「アドベンチャー・タイム」で妖怪(といっていいものかどうかですが)が合体して悪者を倒そうとする、という話があってこの話と重なりました)
むろん、男は変身できないのでそのせいで人間にばれてしまいます。その後、山都は呑行(どんこう)という大きな頭を持つ足に変身して人間を脅します。
(あれれ「アドベンチャー・タイム」でもフィンが足の化け物になるのだった。やっぱりこの話似てる。読んだのか?)
男のせいでそれもばれてしまい、ついに男が人間だということが知られてしまいました。
しかしそのことでやっと男は人間の方へ戻ることができたのです。
その夜、山都たちは小屋で眠る男のそばへ来て「やっぱり人間には近づかないのが一番だ」と言い、おとこと雌山都の間にできた子どもを置いていきました。
子供は普通の人間の姿をしていましたが、山奥へ行っても決して迷わなかったそうです。
これもそうですが、山都という異種が登場して奇妙なのですがそれが悪いわけじゃなくむしろ理想のようにも思えるのですね。ふたりの間の男の子の話も気になります。

二巻から「篭中児」
五行先生と見鬼ちゃんのお話ですが、このシリーズの中で最も恐ろしい話だと思っています。
見鬼は見えないものを見る力のせいで五行先生が気づかなかった道を見つけてしまい、その道を進んでしまうのですが。
飢饉のせいで村人たちはついに子供を篭に入れ闇の中で交換して食うことにする、中には交換しそこなったまま持ち帰って我が子を食ったものもいるという、という話。
以来、村は世の中から切り離らされた場所となり、毎年飢饉に苦しみ毎年子供を取り替えて食うという定めなのだというのです。
毎年食べられてしまう子供の苦しみを感じた見鬼は泣き出します。五行先生は天帝にこの定めを解いてもらえるよう頼むのでした。
その後、親に食べられたという残虐な体験をした子供たちは凶悪な魂となって生まれ変わる、というのが言いようもない驚きでした。過酷な運命を受けたゆえ幸せにはなれない、というこの物語をどう読み解けばいいのでしょうか。
それでも最後の見鬼と思しき男の配慮に少しだけ救われたように感じます。






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