ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「王立宇宙軍」

2018-12-23 07:10:59 | アニメ

初鑑賞です。
実を言うと本作が名作SFだと言われていたことも知らなかったのですよ私は。

TV放送版「エヴァンゲリオン」が嫌いだったこともあって庵野秀明関係作品を見ようという気持ちが湧かなかったのでした。劇場版エヴァンゲリオンは良いと思えたので今は庵野アニメにも興味があります。

というか一番見ようと思ったきっかけは岡田斗司夫氏のニコ生を見るようになったからです。岡田氏がガイナックスの社長というのもそれで初めて知ったというテイタラクでした。
とにかくそこである日「王立宇宙軍」についての話があったんですね。岡田さんが「王立宇宙軍」の企画に絡んでいるとのことや裏話や内容の説明などを聞いているうちにこれは絶対見なきゃ、と思い初の鑑賞となりました。

前置きが長くなりました。では感想を書いていきます。

ネタバレを含みますので、ご注意を。




前に書いた通り、企画の岡田氏の内容に関する説明を聞いていますので、それを確かめていくような鑑賞になりました。それもなかなか面白かったです。

つまりこの作品はアニメで描いている表面的な「ぐうたらで碌な環境にいない無能な男が女の子に出会ったことがきっかけで発奮し(その作品の中において)初の宇宙ロケット乗組員となる」というだけのストーリーではなく、当時の岡田氏をはじめとするアニメーターたちの無謀な初仕事とオーバーラップした内容になっているわけですね。

なのでこの作品をストーリーはありきたりで起伏に乏しく意義がない、どころか彼らにとってはじぶんたちそのものだったということなんですね。
この話で思い出すのは若かりし頃の無名でまだ何者でもないマット・デイモンと親友ベン・アフレックが共同脚本を書いてマットが出演した「グッド・ウィル・ハンティング」です。こちらは数々の受賞をした映画ですが内容もやはり女の子と出会い、田舎でくすぶって才能を腐らせず世界へ飛び出していくべきと自分を見出していく話でした。単純ではありますがやはり若者の成長物語は感動的だということなんですね。いや私も大好きです。

とはいえ、アニメ作品としてはそんな内情や裏話で納得させるものではないのですから、勿論作品そのものがどうであるか、ということではあります。

最も惹かれるのはたぶん庵野秀明の能力だと思うのですが作品全体にあるアニメーションの絵と動き、の魅力です。これはもうこの作品の一番の肝であることは間違いなしです。平易なストーリーとやや平凡なキャラクターであってもアニメーション自体の魅力が全般にあることで夢中になって観れるのだと思います。
そしてこだわり抜いたと思える細かい設定の数々ですね。このあたりは岡田氏がかなり絡んでいるのではないかと思うのですが、(違うかもですが)冒頭から墓石の変わった感じ、使用される言葉や文字の貨幣などの異世界観、王立宇宙軍の軍服のデザインはスコットランドのキルトのよりも軽やかなプリーツのスカートであるためにややごつめの主人公シロツグが着用しているとかなり面白い雰囲気になります。
その主人公シロツグは今のキャラデザと比較すると平凡でしょぼい男という設定としてはかなりがっしりした体格で男っぽい面構えでありますね。今の主人公だともっと少年で体が細く神経質な感じに思えますのでシロツグのモッサリ感は珍しいと言えます。
そしてヒロインであるリイクニ。いろいろな意味で一番謎の存在です。
あえてあまり美少女とは言い難い、というデザインになっているのがむしろ名作としての所以であるのかもしれません。ここも「グッド・ウィル・ハンティング」の主人公の恋の相手が「単純な可愛い女子ではない」のと重なります。しかしあちらがアメリカ的にもう少しわかりやすいキャラであったのに比べこちらはなかなかつかみどころがないのですね。
とはいえ、主人公シロツグの成長物語のヒロインとしてリイクニという頑なな宗教女子を配置した、という設定はとても上手いと思うのですよ。
リイクニは街角に立って布教活動をしていてそのせいでシロツグと出会うわけです。宇宙軍に勤務しているシロツグと少女が出会うきっかけとしてはとても自然で印象的でもあります。そうでなければ酒場や売春の女性としか出会えないような環境にあるわけです。
しかしリイクニは何か働いているようなのですがそれが何かとは描いていないので売春をしているのではないかという勘繰りも働いてしまうのですよね。そうではないらしいのですが、つまり売春をしていたとしてもリイクニという宗教頭脳内ではそれすらも宗教のための奉仕として考えてしまいそうな不思議感が漂っているからだとも思えるのです。まあ、スタッフがそうでないと言っても作品としてその部分がないわけだからそう考えられても仕方ないです。
そしてリイクニという女性がこの作品では主人公シロツグを成長させる喚起材ではあるけど、添い遂げる運命の相手だとか、シロツグが貧しい彼女を救い出す、などという筋書きにしなかった、というのは若い連中が考えたとしては凄いことだと思ってしまうのです。
シロツグははっきり言って「女欲しさ」=やりたい、意識でリイクニに近づいているし、リイクニは宗教だけに一途でシロツグを愛そうとは思っていない。シロツグが物凄い形相で助けに向かってもそのことでリイクニが愛に目覚めるわけでもない、リイクニはリイクニであってシロツグによって変化させられるわけではない、という描き方は潔い。逆にシロツグはリイクニによって変化していくけどそれとともに最初の目的「できるならやりたい」は薄まっていき、それとともに不愛想な女子マナがシロツグに打ち解けていくのは面白い。

岡田氏も説明したのですがシロツグとリイクニの別れの場面はとても良い。ふたりは運命的に出会い、そして理解し合えることも愛し合えることもなく別々の道を進む。互いに笑顔を交わしながら。
こんな風に作品中の男女がきっぱりと自分の道を進むことを描いたアニメ作品はないと思います。若い連中がよく描いたというよりも若いからこそこんなにクールに描けたのかもしれませんが。
(ここに関しては「グッド・ウィル・ハンティング」と違いますな。日米の恋愛観の違いでしょうか)

というわけで初鑑賞の「王立宇宙軍」は思った以上にとても面白く感心する作品でした。
異世界もの、を作ろうとするクリエイターなら絶対一度は見ておくべきだと思います。主人公の成長物語、男女関係を描きたいと思う人も。
ストーリーがそれほど特別でなくても丁寧な作りこみは確かに感動を呼ぶものですね。絵だけではなく、設定としての作りこみも含めて。


鑑賞が今になったことは自分としては却ってよかったような気がしていますけどもね。昔だったら良さがよく判らなかったかもしれません。






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