ガエル記

本・映画備忘録と「思うこと」の記録

「ケサラン・パサラン」山岸凉子

2018-10-06 07:04:13 | マンガ


山岸凉子著「ケサランパサラン」
物凄く面白くて、取り憑かれたかのように繰り返し読みかえしてます(現在も)
あまりに興味深かったので他の人のレビューを確かめたら、えええ???あれれ、多くが「面白くない」「山岸凉子先生がなぜこのようなエッセイマンガを・・・がっかりしました」「もう二度とこの方のマンガは買いません」とまで。
ううむ。これはいったいどういうことか。
私がこれほど楽しく読んで読みまくってるものを他の人は「くだらない」と吐き捨てている。
こんなにも人の評価とは違うものか。
このマンガがいかに面白いか、神髄を書ける気はしませんが、こんなに読み返しているマンガもそんなにないのでとりあえず書き出してみました。

以下内容に踏み込みますのでご注意を。




私が本作に夢中になっているののひとつはやはり「家を建てる」という自分では絶対無理な夢を主人公が着々と実行していくことですね。
これは少年マンガで主人公の少年が体を鍛え修行して凡人には届かない夢のパワーを身に着け、想像も及ばない恐ろしい敵と巡り合い、命がけで人類未踏の戦いを繰り広げていく様と重なります。
この日本において「自分だけの家を建てる」というのはそれくらいの絶対デキナイ感があると思うのですよ。しかも主人公は多分一生独身の高齢女性。マンションではなく、一戸建ての家を建てる、土地を探して、デザインをして家を建てる(建築はさすがに建築家に頼むのですが)というのはHAUNTER☓HUNTERなみの奇跡に近いと思うんですけどね。

このマンガの面白さは「金持ちと結婚して豪邸を作ってもらう」「くじ引きで新築一戸建てが当たりました~」みたいなことじゃなくて、主人公が働いてせっせと貯めた金で土地を探し、これぞと決めた場所を手に入れるために自己のすべての財産(パワー)を使い切り巨大な敵(東京の土地の途轍もない金額)を打ち負かし、さらにミラクルな技を得て(占いのこと)勇者になる(家を建てる)というヒーローものの定石を踏んでいるところなのです。
勇者に必要な頼もしい仲間も姪っ子と編集者としてちゃんと登場しています。

つまり主人公が女性でありながら、「親に買ってもらった~」「家を建ててくれるような男性を探す~」というのではなく自らが勇者になっているところが頼もしいわけですね。

その点、逆にしっかり者の姪っ子ちゃんのほうが彼氏に建ててもらいそうな予感なのがちょっと~ですが、まだ若いのでこれからの話かもしれません。

さて、皆さんがどうしてこの話が退屈でつまらないのかが、わからな過ぎて困るんですが、内容もびっしり充実しています。まあ、何しろ私はこのマンガで初めて国有地、というのを知ったくらいなので何もかもが勉強になった!という有難さでいっぱいなのです。「中身が薄い」「買って損した」とかの逆で「充実した濃い内容」「お値段以上に勉強しました」のマンガです。

まずは、土地探しの時、懸命になりすぎて騙されてしまう可能性の危険を面白おかしく描いてます。土地を案内してくれるというので見知らぬ男の車に乗って見知らぬ土地に連れていかれてしまう、というエピソードです。
主人公の若い女性時代の話になるのでよりこういった危険性というのはあるのでしょうね。これはかなり怖い。

次々に土地を巡ってもなかなかこれという場所に出会えなかった主人公がついに「これ!」という場所を見つけます。これがとんでもない価格らしいのですが、とんでもなさ過ぎて作家が実際の金額を書けないというwここに不満を持った人もいるみたいで、私も知りたかったのですが、まあまあ、とんでもない金額なのでしょうね。
それからのこのお目当ての土地を手に入れるための四苦八苦。とはいえ、一般人は四苦八苦したくらいでは手に入らないですけど。さすがにこれを手に入れるためには勇者も裏技を繰り出すということしかありえなかったという。
ラスボスを倒すためにはそのくらいの技を持っていないと無理なのかもしれません。
それにしてもローンの原理とかも知らなかったです。なにもかもしらないことばかりですなー。

晴れてラスボスを打ち負かした勇者の次の戦いは家を建てること。
戦いの塔の上階に登っていくわけですが、ここで一つとんでもない展開があるのが面白い。

主人公の夢は忍者屋敷のようなカラクリだらけの家を建てることなんですが、ここで思い出したのが「日出処の天子」で厩戸皇子がトリという、カラクリを得意とする少年を重宝する話ですね。厩戸皇子は自分の住む家をトリに設計させるのですが、賊が忍び込んできたとき、隠れ部屋に身を潜めた、という場面があったのですが、本作を読んで山岸さんはもともとそういう話が好きだったんだなと、納得しました。少女マンガにしては変わったエピソードだと当時感心していたものです。

それでそういうカラクリをデザインしてくれる若手デザイナーを見つけ出すのですが、ここから話が突然違った方向へ回りだすのです。わーーーーー!!!



それは。




なんとこれまでの話が全部なかったことになるというとんでもない展開になってしまうのです。

これも冒険譚には有り!の展開です。
勇者の今までの戦いは全部無駄だったのか。
それとも勇者にとって大きな糧となるのか。
それは誰にもわからない・・・わけです。

だけど、勇者はこのことで真実を知ります。

幸福の家を建てた(勇者の夢を叶えた)ということで人は努力をしなくなる。
努力をしなくなるということはもう成長しない、ということ。

神様に問われた時、私は努力をしたと言えなくなってしまう。
そんな人間にはなりたくない。

かくして主人公はこれからも努力し続けることを誓う。

ココの描写、ごくあっさりと描写してしまうのが山岸凉子なのでありますね。


人も羨む王国に城を建てることもできたヒーローが、ひっそりした田舎に目立たない家を建てることに幸福を得た話でもあります。
それでも勇者はいつまでも勇者の心を持ちづけているよ、というところで物語は幕となります。

本作では数々の勉強ができます。
土地・建築・お金のことばかりでなく、人間関係・占い、そしてマンガを彩る美味しそうな食事やファッションまで。
自分としては金額がはっきり書かれていなかったことだけがちょっぴり残念ではありましたが、それはそこまで重要ではないし、時代が変われば変化していくものでもありますしね(だからこそ書いて欲しい気もしますが)

ただ物事の勉強をするだけでなく、マンガの語り口としてとても面白かった作品であります。私としては皆さんにお勧めしたい良作であります。

巻末の「猫・ねこ・ネコ」山岸凉子さんのマンガをよく読んでる方ならおなじみのサビちゃんの悲しいお話と、新しい猫たちのお話。
これも色々と考えさせられるマンガです。人のこだわりと幸福ってなんでしょうね。




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2 コメント

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Unknown (さつき)
2019-11-21 02:03:08
 はじめまして。

山岸凉子さんの作品の解説、とても楽しく読ませて頂きました。

私は世論のレビューなるものは全く知らなかったので、この作品が、そんなに人気がないとは全く知りませんでした。
山岸凉子さんの作品ならでは、で私も面白くて、お得な作品だと思います。

仰るように私も、この作品で知らなかったことを沢山学べた1人です。
語彙力ないので上手く書けませんが、ブログを楽しく読ませて頂きました。

また、お邪魔させてくださいね。
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>さつきさんへ (ガエル)
2019-11-21 04:48:00
はじめまして!コメントありがとうございます。
このマンガが不人気、というのはただ単にネット上にあるレビューのひとつで読んだだけではあるのですけどね。それでもこの面白い本につく批評としてはむしろ不可解でした。
山岸凉子さんの特性が凄く表れている作品とも思います。
ところで、このブログを読んでいただけるのも嬉しいのですが、現在はてなブログに引っ越しております。
もしよろしければ左サイドにも書いておりますしそちらも見ていただけたらと思います。
とりあえず
https://gaerial.hatenablog.com/
です。よろしくです。
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