萩尾望都「バルバラ異界」の面白さを書くのは「バルバラ異界」が複雑ゆえに複雑にならざるを得ないんだけど、それでもどこから書いていいか複雑な思いになる。
というわけで、以下内容に触れますのでご注意を。萩尾望都の他の作品にも触れています。
なんといっても打撃なのは、渡会があれほど追いかけていたキリヤが現実からいなくなってしまったことでしょう。萩尾望都はこういう読者への惨い仕打ちをこれまでも何度もやった人であります。昔「ポーの一族」のアランの消失、「トーマの心臓」でのユーリの別れ。物語としてそれが効果的なのだとしても受ける痛みがどれほどなものか。「バルバラ異界」の結末の寂しさと感動は忘れられない心の傷になっていつまでもじくじくと痛み続けてしまうのです。
キリヤのいかにも少年らしい傷つきやすくてそのくせ他人には冷淡で横柄な態度が魅力的です。一方、大人の渡会のほうがいつもおどおど戸惑い迷い逡巡していて、読む者として共感していけるのですね。
バルバラで何度もジェノサイトが起き、破滅し、青葉の夢によって別のやり方で再生され、繰り返される。
萩尾さんはこのマンガを小松左京「ゴルディアスの結び目」から着想を得たのだそうですが、この繰り返しのイメージは昨日感想を書いた手塚治虫の「火の鳥・未来編」を髣髴とさせるようです。「火の鳥・未来編」で猿田博士やマサトが繰り返し生物を作ったように「バルバラ異界」では青葉が未来を繰り返し作っている。それが夢なのか現実なのか、夢であり現実でもあるのか。
渡会時夫はその名前の通り、時を渡ってバルバラを解明しようとしますが彼が一番欲していたキリヤを失ってしまうという結末はあまりにも惨すぎます。それなのに湧き出てくる感情はなんでしょう。代わりに得た息子タカ。未来に存在するだろうキリヤへの希望。
何度か繰り返し「バルバラ異界」を読みましたが、とてもまだまだ理解したとは思えません。
渡会が何度も夢を行き来し、そのたびに夢が変化し自分の記憶がわからなくなるように、私も何度も「バルバラ異界」を彷徨い続けるでしょう。
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