立春が過ぎたといってもここでは2月いっぱいは冬だ。
静かに春を待つといった風情だが、積雪は少なく、天気が2日もあれば融けて地肌を見せる。
昨日西瓜組合の新年総会が開催され新執行部が了承されスタートした。
いつものことながら、いよいよ始まるのかと喜びと同じほどに不安も募る。
人によっては名人と呼ばれ、いつも高品質のものを育てる事が出来ると云われるが、農業は工業製品と違って、毎年環境が違うのである。
連作を嫌って田畑を替える度に土質も違えば気候も違う、風の通りも地形によって違うし人の手もその時の体調によっては如実に作物に現われる。
そんな事もあって春を迎える頃になると僕の場合はいつも心が落ち着かなく、不安を拭うように大先輩を訪れては色々とお話しを伺うことにしている。
もの作りの世界では一つでも経験の深い先輩はそれだけで尊敬できると僕は思っている。
僕にすれば先輩方の話を伺うことは百科事典を紐解くようなものだ。
経験が深ければ深いほどその話の内容にはこれから自分が進む方向のヒントが示されているのだと思っている。
前にも言ったかと思うが、僕らの仕事は二期作地帯を除いては一年に一度しか同じものを作れないのだ。お米にしたってそうなのだ。
工業製品なら何千回、何万回と作れるかもしれないが、僕らは一年に一回なのだ。 したがってどんなに名人と呼ばれようが生涯にせいぜい50回か60回の世界なのだ。
そんな農業では良いも悪いも経験は決して疎かには出来ないものとして僕は考えている。 だから僕はいつも疑問を持ったり、不安になったりすると大先輩を訪ねる。
必ずしも作物のことばかりとは限らず、色んな世間話の中にも隠されたヒントが山ほどあると思っているからだ。
日中は少しは良くなった首から肩にかけての痛みは夜に入り、寝入る頃になると痛みが増してくる。 実は一昨日から接骨院を替えたのだが、それでも一向に良くならないことに焦りが出てきて、そんな愚痴話でも聞いてもらおうと今日もある大先輩を尋ねた。
先輩夫妻は村祭りで使う米俵のミニチュア作りに励んでおられた手を休め、僕のたわいもない話を四時間にも亘って相手にしてくださった。
話し終え家路に着く頃には 「よし!今年も頑張るぞ」 って気持ちになるんだ。 これって何十年も現役で頑張ってこられた方たちには不思議な力があるんだと僕なりに信じてることなのだ。