有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

日本化学会、論文無料公開へ新方式

2005-06-30 07:43:33 | 記事
http://chemstation.livedoor.biz/archives/26541707.html

「投稿料を多く払えば、あなたの論文を無料公開します」日本化学会は、世界的なオープンアクセスの流れに対応するため、英文論文誌のBCSJ(Bulletin of Chemical Society of Japan)とCL(Chemistry Letters)について、投稿料を約3~4倍支払えば、その論文を無料で誰でもアクセスできるようにする―日本の学会では初めてオープンアクセスに積極的に対応する方針を打ち出した。文部科学省などによると、競争的研究資金の投稿料に対する上限規程はないため、研究費の中から多めの投稿料を支払うことは可能だという。今後、他の学会がどの様に対応するか、利用する研究者はどの位増えるのか、その動きが注目される(引用:知財情報局)。
ケムステニュースより

昨年、BCSJとCLはIDとパスワードで有料公開するようになった。無料公開時と比べて、アクセス数は3~4割に減ったという。しかし、高い投稿料で無料公開することで、より多くの研究者が論文を読む可能性は高い。もし世界の趨勢が投稿者が費用負担するオープンアクセスジャーナルに流れるとしたら、5万円、10万円の投稿料は当たり前になるかもしれない
知財情報局より

考えられるメリット:
(1)世界的なオープンアクセスの流れにのることで、学会誌が有名になる。
(2)多くの研究者に読まれることで、IFが向上して投稿量が増え、化学会の収入増。
(3)IFが増すことで質的に日本の化学の競争力が高まる。
(4)国内オープンアクセスの先駆ということで、他学会が動くときに参考にできる。
     
考えられるデメリット:
(1)投稿料が国内研究者しか考えられてない(科研費)。国内研究者しか投稿しなくなり、長期的に日本国の税金が化学会にまわるだけで、税収として国へ帰ってこなくなる。
(2)一部の研究者しかアクセスできるようにしないため、制度自体の意味がなくなる。(国内研究者でCL、BCSJとってないグループは少数派、高い金払ってアクセス可能にするメリットが研究者にすくない)
(3)アクセス可で投稿をしないことでプレッシャーをうけるくらいなら海外誌に投稿する傾向が増える。

化学会、日本にとって中短期ではマイナス。長期ではプラスといったところでしょうか。
研究者にとってはマイナス要因が増えるので、根付かないうちに右に倣えでオープンアクセスに流れていくと予想します。

・・・・・・・・・・・アフィリエイトなんてどうでしょう?まんまアフィリエイトというわけではないですが、投稿料を値上げして、クリックして論文を購入してくれたら5%が研究代表者に報酬が。特許にだしても報われない基礎研究で、かつ自信のある研究結果が集まる気がします。けれども、法人団体でそんなことやったらお叱りをうけるでしょう。
まず化学会は検索機能の充実とかサイトの利便性をあげてほしいです。
あと知財情報局、「研究費(税金)の中から多めの投稿料を支払うことは可能」 増税だのなんだのと問題になっているときに、懐が痛まないからと好き勝手いいますね。

Chem Lett 2005, 910

2005-06-29 22:55:02 | 新着論文
Synthesis of tetrakis(2-furyl)methane

tetrakis(2-furyl)methaneの合成、またその前駆体であるtris(2-furyl)methylanionの反応。

ずいぶんと苦労した後がみられます。letterにも関わらず反応条件の最適化、観察などが記されきつい実験だったと思われます。
tris(2-furyl)methyl lithiumがかなり扱いにくいらしく、最後のフリル基の導入もエステルを導入したフリル基を用いたりと工夫しています。
Liだと反応性が高すぎるようですからZnやCuへトランスメタル化したらどうなるでしょう?
フランは1,4-ジケトン等価体ですから、酸化してアルドール縮合させてみると、どこで環をまくのか面白いかもしれません。酸化剤の等量でコントロールが効けフランを足がかりとして多環状ののライブラリーができそうです。アニオンを使っていますが、トリチルに対応するトリフリルカチオンはどのような反応性があるのでしょうか? 

花王 糖尿病性腎症患者の栄養指導においてジアシルグリセロール油の有効性を確認

2005-06-29 07:53:21 | 記事
花王株式会社(社長・尾崎元規)・ヘルスケア第1研究所は、糖尿病性腎症(高血糖状態が続くことにより、腎臓の機能が損なわれている)患者の栄養指導において、これまで日常の食生活で使用していた食用油(主成分:トリアシルグリセロール)をジアシルグリセロール油*に置き換えて、6ヵ月間使用することにより、腎機能の低下が抑制されることを明らかにしました。この作用は、体重と血中中性脂肪を減少する効果に加えて、ジアシルグリセロール油の新たな効果として見い出したものです。
 糖尿病性腎症患者における腎機能低下の抑制は、人工透析療法の導入を遅らせることを示唆しており、糖尿病患者に対する食事療法の素材の一つとして、ジアシルグリセロール油の有効性が期待されます。
以上花王のR&Dより http://www.kao.co.jp/corp/rd/topics/topics050624.html

ジアシルグリセロールの研究により花王は健康エコナなどトクホマークの多い商品を出しています。また、ヘルシア緑茶もこのジアシルグリセロールの研究の過程から生まれたそうです。
ジアシルグリセロールの効果すごいですね。
食いたいものを食って、健康にも気遣える、いい時代に生まれたものだと思います

Org Lett. ASAP

2005-06-27 12:29:52 | 新着論文
Microwave-Enhanced Aminocarbonylations in Water

Microwaveを用いたカルボニル源としてMo(CO)6を用いたPd触媒による芳香環の水中アミド化。
Microwave, 低毒性のカルボニル錯体、水中と環境調和という題目の流行の反応の併せ技。水中で行っているのにカルボン酸にならずにアミドができるところが不思議でしたが、アミンをベースで収率を出していました。カルボン酸も10%程度生じてくるようです。
多少データがよく見えるトリックを使っていますが、microwaveはどのように効率をあげているのでしょうか?交換反応なのか、アミンの求核性をあげているのか、それとも溶媒の特異な性質なのか?とりあえずカルボン酸とアミンで煮ると、どうなるのだろうか?

JACS, 2005, 127, 8250.

2005-06-24 07:43:52 | 新着論文
Selective Cleavage of the C-C Bonds of Aminoethyl Groups, via a Multistep Pathway, by a pincer Iridium Complex

PCPピンサーのIr錯体がアミノエチル基から脱水素をおこし、C-C bondへのinsertionを経由して、イソシアニド錯体を生じています。
ピンサー錯体の脱水素や挿入反応を研究しているGoldmanのグループです。錯体の構造決定を1,2,3級アミン全て行っています。アミンから脱水素、生じたイミンのC-Hへの挿入、続くメチルの切断により錯体が生じると反応機構を説明しています。キレートや環歪みを利用しないC-C bond切断を温和におこすという点を強調しています。
北大の高橋先生のチタノセンを用いた反応(J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 9568)も驚きでしたが、今回の反応も錯体の反応性で終わらず、応用の展開が楽しみです。