有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 3488-3490.

2005-06-04 23:49:31 | 新着論文
Regio- and Stereoselective Approach to 1,2-Di and 1,1,2-Trisilylethenes by Cobalt-Mediated Reaction of Silyl-Substituted Dibromomethanes with Silylmethylmagnesium Reagents

コバルトを触媒、もしくはコバルトアート錯体を利用したE選択的なシリル多置換オレフィンの合成法です。ジブロモアルカンから様々なシリル置換オレフィンを合成しています。立体選択性の説明もわかりやすく、面白い反応でした。アルキンへの付加でなく、C=Cbondでビニルシランを持ってくる着眼点も面白いと思いました。(we selendipitiously found... と書いてあるのですが、このタイプのオレフィン合成を過去に行っているので狙ってやっていたように見えたのですが、どうなんでしょう?)。コバルトアート錯体の反応性としても興味深く読めました。

化学者の倫理

2005-06-04 22:59:26 | 目的
「化学者の倫理」Jコヴァック 井上祥平(訳) 化学同人を読んだ。

うちの研究室の助手は、データの捏造とまではいかないが、改竄や証拠もない想像中間体程度のことをやってくれる。おかげで後発で仕事をしているこっちが、以前報告した内容を変えるわけにもいかず論文のイントロや主張したいことを削られてしまったことがある。
まぁ、この手の倫理観欠如はよく聞くもので、
バイオ系曰く、「うちの研究室で育てた遺伝子持ってるマウスでしかやらないし、外にマウスださないから、追試しようがないんだよね。で、先生の頭の中のストーリーと合ってるといいんだけど、いままでのをひっくり返せるデータ出したら、追試しろってことになる。もう4回目なんだけどね」
反応開発曰く、「実験量多くみせるのがうまいやついるんだよ。こっちは収率最低2回やって平均でだしてるのに、一回でやってたりね」
製薬関係曰く、「活性試験する人から、純度が悪いとか言われても、もうできることはやっても言われるから、HPLCの検出波長変えて純度上げたりとかたまにする」
留学生関連で曰く、「結婚目当てで来てるのいるよ」「研究費貰いたいから使えなくても外国人PDとして雇ってる」

制度に歪みがあるのでしょうがないとは思いつつ、このような日常に触れていると自分もおかしくなるという恐れを抱き、手にとってみた。
まず、倫理とはというお話で、眠くなるような学説が並んでいる。
で、次いで専門的職業ー化学者としてどのようなことを規定されるかが書いてある。
結論として、bestな選択はとれないのだから、様々な状況に応じてbetterな選択をしろとのこと。で、そのための判断する手順、思考方法があるのだが・・・ビジネス書のノウハウ本でも書いてある程度のことだった。後半のケーススタディが自分ならどういう選択をするか?と想像力、視点の切り替えができるという意味では面白い本だった。
結局、おかしくなっていく自分への問題に対しての直接の解決にはならなかったが、固定観念を持たずに判断力をトレーニングする意味で役立った。
もう一つ、得られたこととして「贈与の経済」という考え方だ。「人々は互いに助言をし、親切にし、子供にスポーツを教え、審判もする。贈与の経済は人々を結びつけ、相互の義務を作り出す。(中略)最も評価されるのは最も多く与える人である。」 blogの有用性、方向性が少し見えた気がした。

amazonのレビューでも褒めちぎり「業界内でタブー視されがちな話題を真摯に受け止めている好著。決して本や論文からは学び得ない情報を提供してくれるという点では、若い研究者向けともいえるが、業績をあげることに躍起になっている人々に、ちょっと立ち止まって読んでいただきたい。訳者の井上先生は無論ご存命であるが、個人的には遺言として受け取った。野蛮な仕事をしないためにも、心に刻んでおくべき内容が満載である。」  1680円なら安い内容だろうか。
ところでいつも不思議に思うのだが、amazonのレビューに書いている人は、発売されてからレビュー投稿までの日付が短く、本当に読んだり使ったりしているのだろうか?