有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

JACS ASAP

2006-08-31 21:49:37 | 新着論文
Multiple Deprotonations and Deaminations of Phenethylamines to Synthesize
Pyrroles

3分子のphenethylamineから触媒量のPdCl2, 酸化剤としてCu(OAc)2を用いることで、ピロール誘導体を得ている。アミンα位とベンジル位という一分子内の二種類のC-Hの活性化を同時に行っている点が新しいとのこと。

二種の異なるC-H活性化を目的に検討していたところ、ピロールが得られたとのこと。最終的な構造決定はX線結晶構造解析。
条件として、他の二価の遷移金属や酸化剤を試したみたいですが、PdCl2, Cu(OAc)2がベストらしいです。芳香環の立体は関係なく、電子リッチな方が収率が良い傾向とのこと。(31-71%yield) 温度を上げると電子求引基は向上、供与基は減少する傾向とのこと。
詳しい機構はわからない様子で、酸化されて生じたイミンが関与していると推定。

推定機構として、酸化してイミン、アミンが交換して3分子が縮合、それから酸化的にピロールを形成。もしくは2分子の縮合時点でエナミンが酸化されてカップリング。と都合はいいのですが、考えればいいのかなと思いました。
1)ArCH2CHOを2分子、一級アミンを混ぜたら進まないでしょうか?ピロール窒素上のdiverseは広がる気がします。
2)Arは必須なのでしょうか?Baranのエノールの酸化的カップリングのようなパスなら、ベンジル位の酸化でなくとも、エナミンを一電子酸化できれば十分な気がします。

機構の解明と、応用をやっていくとのことなので一般性が広がってくれると面白そうです。

JACS ASAP

2006-08-30 20:21:35 | 新着論文
A Versatile New Monomer Family: Functionalized 4-Vinyl-1,2,3-Triazoles via
Click Chemistry

ポリマー原料としての4-vinyl-1,2,3-triazole類のクリックケミストリーを利用した合成。ポリマーはトリアゾールに由来する高い溶解性とガラス転移点など物性に大きく影響を与えた。


ビニル基をもつトリアゾール合成。トリアゾールの利点として、安定な芳香族性、高い双極子モーメント、1位の窒素上の置換基でのdiverseをあげています。
2通りの合成法を報告しており、1つ目はヨウ化アリールと1-TMS-2-vinyl acetyleneをワンポットでNaN3、プロリン、CuI,TBAFを入れることで系中で無置換エンインとアリールアジドを発生させ、付加を行ってトリアゾールをえています。2つ目は、2-methylbut-3-yn-2-olを用い、トリアゾール合成、続く脱水によりビニルをつくっています。

物性にかなり面白い影響がでていて、今回はガラス転移点の向上、メタノールへの溶解性をあげていますが、1位の置換基によって様々な性質が出てきそうです。

ポリマーを中心に仕事にしていると、やはりWittigや脱水になるのでしょうか?末端ビニルの合成法はいくつかあるので、側鎖にどのよう置換基を選ぶかで新しいポリマーを多数つくれそうな気がしました。

Gadgets to Go

2006-08-27 19:27:56 | 新着論文
「最新お宝情報を企業に紹介」
Forbes 日本版10月号

Inventables

紹介記事

世界中の技術発明や新製品のサンプルを紹介するビジネスモデル。提携先にはモトローラ、ナイキ、P&Gなど100社以上。

面白いですね。学会などで企業の展示や発表を見に行くと、この材料を何に使えるか模索しているというのが多かったです。紹介されるような製品を作ってみたいものです。

JACS ASAP

2006-08-23 20:53:39 | 新着論文
Rate Acceleration in Olefin Metathesis through a Fluorine-Ruthenium Interaction

第二世代Grubbs触媒のカルベン配位子の窒素上に2,6-fluorophenylを導入。触媒活性の向上が見られた。理由としてRu-F間で相互作用(X線構造解析で確認)があり、律速段階のホスフィン乖離をアシストしているとのこと。

Grubbsのグループ。非常に珍しいRu-Fの相互作用とのことです。Clに変えたアナログでは相互作用が強すぎ安定性に問題があり、逆に触媒には不適とのこと。
律速段階のホスフィン乖離をアシストしているという説明はGibbs energyで約10%程の2.6 kcal/molほど低くなっていること。ホスフィンをHoveyda型のオルトイソプロポキシフェニルビニリデンに変更したところ活性が落ちていることからも支持。

グラフィカルアブストを見たとき、立体障害が減っているのにカルベンは安定に出せるのか?なぜこの誘導体を設計したのか?の2点が疑問でした。
カルベンはやはり不安定で、直接脱プロトンでは無理らしく、酸化銀を用いてルテニウムにメタル交換していました。
分子設計の理由はわかりませんが、論文内では電子求引性のF導入で触媒活性が低下するという理論による研究例があったそうです。実験的に証明したくなるのはわかりますが、あえて活性低下を予測している系を試そうとするものでしょうか?上がるのではという予測もあったのでしょうか?


JACS ASAP

2006-08-21 22:57:16 | 新着論文
Phosphorus-Containing Hybrid Calixphyrins: Promising MixedMixed-Donor
Ligands for Visible and Efficient Palladium Catalysts

phosphole, pyrrole, thiopheneの組み合わせでできたCalixphyrins の合成とPd錯体の構造。高活性なHeck反応への応用。

京大俣野先生のグループ。錯体としてかなり面白いと思いましたが、Heckはどうなの?という感じをうけました。
Heckの触媒でphospholeの存在していることで活性が高いのかというのがわかりません。Calixphyrin骨格で0価Pdを十分安定化してたりはしないの?という印象です。温度可変NMRでホスホールPと溶媒がPdへの配位を交換していることをみているのをみると、ホスホールである必要があるの?と思いました。TON 9700-12300でテトラホスホールに比べるとずっとよいとのことですが、そう考えるとホスホールはむしろ触媒毒部位なイメージで見えてきます。
面白い応用を提案していて、この錯体が紫色で(UV-Visスペクトル524 nm ε= 14000)触媒の活性が視覚でわかるとのことです。しかし、Pdの触媒反応は大抵マックロクロスケに取り付かれるのでカラー写真を入れてもらわないと眉唾ですな。

ハイブリッドにした錯体の面白さだけで論文を書いて、触媒反応を出すなら、Heck以外の反応も試した例をだしても良かったかと。Heckもたぶん0/Ⅱのメカで面白くないし

Biの化学を詰めていると思っていましたがphospholeを始めたのでしょうか。ホスホールを組み入れた面白い構造や、ホスホールならではの面白い反応を報告して欲しいです。まさか、この骨格でずーっと既知のPd触媒反応をふる(e.g. ホスファとランのVerkade)なんてしょぼいことはしないと思いますが。