有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

ダマスカス鋼とカーボンナノチューブ

2006-11-30 22:28:06 | 記事
Ancient Steel's Surprise Ingredient
Damascus saber is found to contain carbon nanotubes


「平原にのぼる太陽のごとく輝くまで熱し、次に皇帝の服の紫紅色となるまで筋骨逞しい奴隷の肉体に突き刺して冷やす、・・・奴隷の力が剣に乗り移って金属を硬くする」
という製法が伝えられているダマスカス鋼で作られた刀剣は
“もし絹のネッカチーフが刃の上に落ちると自分の重みで真っ二つになり、鉄の鎧を切っても刃こぼれせす、柳の枝のようにしなやかで曲げても折れず、手を放せば軽い音とともに真っ直ぐになる”

そんなダマスカス鋼の刀剣から多層カーボンナノチューブ(MWNT)が発見されたそうです。Nature 2006, 444, 286.
記録として人類最古のナのチューブだとか


レシピの再現できるようになるといいですね

追記

製造技術が失われていることを書くのを失念していました(^^;
こちらにダマスカス鋼を作ろうとした研究の歴史と発展が詳細に述べられています。
ダマスカス鋼の研究

Wikipedia
MWNTの話題がこちらにも載っていました。

Science, 2006, 314, 1124.

2006-11-30 19:35:15 | 新着論文
Reversible, Metal-Free Hydrogen Activation

phosphonium borateが可逆に水素を貯蔵、放出できることを発見


トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランへbulkyな二級ホスフィンを作用させると、ホウ素上でなく、芳香環のパラ位へ付加すること見出した。
さらにこのphosphonium borateをMe2SiHClで処理することで、過熱によりH2を放出し、H2を吸収するphosphine boraneと可逆反応を起こすことを報告。

時間がなくて読み込めませんでしたが、D2と反応させたり、H2をプロトン、ヒドリドとイオニックに開裂させる機構を検討しているようでした

H-Hがイオニックに切断というのが面白かったです。H-Hだけでなく、C-HやN-Hなども活性化したり、有機合成への応用としても期待できそうです。

JACS 2006, 128, 8754 & Org Lett. 2006, 5097

2006-11-29 20:26:37 | 新着論文
Catalytic Intermolecular Direct Arylation of Perfluorobenzenes


Mild and General Conditions for the Cross-Coupling of Aryl Halides with Pentafluorobenzene and Other Perfluoroaromatics

Pd触媒によるパーフルオロベンゼン(aromatic)のC-H活性化によるaryl化。
反応機構でcarbonateの橋かけ構造を提案。
さらにBuchwaldの配位子を用いることで、立体障害のある系、ArClでも進行することを報告。

Pdの触媒反応で、ArXとNuHという一般式で書き出せば、電子不足の芳香環もNu-Hとして反応できるのではというところが出発点のようです。
驚いたのが、C6F5Hだけでなく、F4, F3でも(収率や位置選択性に問題が多少ありますが)反応が進むということ。
反応機構も検討していて、カーボネートが架橋したC-H活性化を経ているのではとのこと。反応機構を説明するのに、基質のFの数と位置で競争実験を行い、生成物の分布から考察を行っています。機構の検証に使えるんだとちょっと感動。

Org Lettではオルト位の立体障害やClでも進行し、反応条件は温和・・・とbulky&electron rich phosphineのメリットがそのまま適用でした。

適用範囲が微妙ですが、面白い反応だと思います。
触媒毒になる可能性が高いですが、電子不足のヘテロ芳香環で同じような反応ができないでしょうか

Driving a Spike into Viruses

2006-11-24 21:58:53 | 記事
C&EN Nov. 20, 2006, p17.


<記事抄録>
脂質二重層にポリマーを突き刺してウィルスや病原菌を殺す

MITのAlexander M. Klibanov教授のグループが  Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006,103, 17667. にてpolyethylenimine ポリマーでコーティングしたスライドガラスが、インフルエンザウィルスを不活性化することを報告した。ポリマーはスパイクのようにガラス表面から立って配置しており、ウィルスのlipid envelopeに突き刺さると考えている。

Klibanovのグループは以前、このアイデアがバクテリアに有効であることを報告しており、同様にウィルスの脂質膜にも作用すると考えていた。

疎水性ポリマーのlipophilicな性質により、細胞の脂質膜とインタラクションするのだが、そこでカチオン性=アンモニウム構造が鍵となる。ポリマー内の分子鎖が分子間力で丸まってしまうのを、電荷を持たせることで反発させ表面にスパイク構造を構築。

ポリマー薄膜はウィルスやバクテリアがくっつくことで不活性化しても、石鹸水で洗うことで再生可能だという。

記者は、将来ドアのコーティングなどの抗菌剤として使われるかもしれないと述べている。


単純な構造ながら、ポリマーの構造と性質を利用してこんなことができるとは面白い。
ある程度の規則性に気がついたのだが・・・配向膜とかフィルムとかのノウハウ使えねーかな?
日産化学さん、バイオに参入どーですかね? フィルム作ってる会社さんどーですかね?

JACS ASAP

2006-11-23 10:13:39 | 新着論文
Tandem Enyne Metathesis and Claisen Rearrangement: A Versatile Approach to Conjugated Dienes of Variable Substitution Patterns

プロパギルアセテートへenyneメタセシスを行い、得られたジエンに対して、Ireland-Claisenにて多置換共役ジエンを得る。

メタセシスとクライゼン転移の組み合わせ。
環状、非環状の共役ジエンをエンインメタセシスでつくり、従来困難な置換パターンの共役ジエンの合成を可能にしたとのこと。
また、共役ジエンに対してIreland-Claisenを行ったのは初めてとのこと。
4位置換3,5シクロヘキサジエン-ジオールの合成へ応用。

子引きができないんで、文中に出てくるmethylene-free ring synthesisの意味がわからずでした。Ru carbeneのビニリデンのことかなと類推して読み進めましたが?