有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

JACS ASAP

2006-06-28 23:59:33 | 新着論文
Phosphorus Copies of PPV: ð-Conjugated Polymers and Molecules Composed of Alternating Phenylene and Phosphaalkene Moieties

C=CとP=C bondの性質の類似性に着目したPPV[poly( p-phenylenevinylene)]類似のPPP[poly( p-phenylenephosphaalkene) ]・主鎖に二重結合リン原子を導入したポリマーとそのモデル化合物の合成。RP(TMS)2と酸塩化物との反応をP=C構築としている。

P=C bondが反応性が高いので立体的に込み入った状態で保護しなくてはいけないが、共役系に組み込まれるよう立体保護が大きすぎてもいけない、という相反する条件のためorthoジメチルを選択しています。
ポリマーを作る条件として、収率がよい反応を選ばなくてはいけないのですが(構造欠陥を少なくしたり、分子量を稼ぐため)、その問題をクリアするためにP(TMS)2と原料モノマーの反応性を高めています。原料のシリルホスフィン作るのにoverallで20%と改良の余地アリですね。
仕事としては、ポリマーというよりもモデル化合物の構造や反応のE,Z選択性の議論が多い内容でした。ポリマーの性質は溶解性が悪く、結局モデル化合物の構造とUV-VISによる議論だけでπ共役が広がっているとのこと。

作るのが難解ということがあるのでしょうが、もう少しポリマーの物理的性質にメンションがあってもよいかと思いました。(NMRとUV-VisだけというのはPPVのなされている検討からしても足りない気がします)安定性に関してメンションがあってもよいかなという気がしました。

P=Cだけでなくケイ素や他のヘテロ元素ではどうなるのでしょうか?共役系に組み込むのにSi-Arが切れやすいので難しいかもしれませんが。



米富豪バフェット氏、ゲイツ財団に300億ドル相当の寄付を発表

2006-06-28 06:00:13 | 新着論文
米富豪バフェット氏、ゲイツ財団に300億ドル相当の寄付を発表


いやーすごい。日本でも宝くじ当選券を寄付とか数億円の資産を寄付とか美談をよく耳にするがスケールが違う。ビル&メリンダ・ゲイツ基金、以前雑誌で見たとき半端じゃない金額をバイオ分野にも寄付しており、社会貢献のパフォーマンスはマイクロソフト以上への情熱とのことだった記憶があり。


この記事で内村鑑三の「後世への最大遺物」をふと思い出した。
後世に遺せるものとして、お金・事業・思想をあげ、それら以上に価値があり誰でも遺せるものとして高尚な生き様をあげている。
アメリカの大富豪の遺していくものは、お金以上に生き様なのかもしれないと思ったり。

そう考えると、自分も仕事や金以外でやりたいこと、できること、遺せることが沢山ある気がしてきた。スケールはしょぼいかもしれないが頑張ろうっと。


JACS 2006, 128, 7738.

2006-06-26 18:12:14 | 新着論文
The Catalytic Enantioselective, Protecting Group-Free Total Synthesis of
(+)-Dichroanone


不斉アリル化によりベンジル位四級炭素、フェノールの酸化によりキノン構築を鍵とする(+)-Dichroanoneの全合成。

enol allyl carbonateから不斉辻アリル化で四級炭素構築。分子内アルドール、ロビンソン環化によって6,5,6の炭素骨格を構築。aromatization後、ホルミル化、Baeyer-Villigerでフェノール酸素導入。IBXによるオルトキノン経由でC6F5SHの付加でキノン骨格を構築。

11ステップ。つるつるの芳香環を酸化していくところが面白かったです。
別途合成を考えましたが、1,4ジメトキシの芳香環から作ってしまいます。

キノン部位以外つるつるの骨格なのでProtecting Group-Free Total Synthesisという表現はいかがなものかと思ったり。

Nature 2006, 441, 699.

2006-06-24 13:11:16 | 新着論文
Synthesis with a twist

ブリッジヘッドにアミンをもつアミド、2-quinuclidoneの合成と性質についての解説記事。

C&ENで知りました。Nature 2006, 441, 731.の解説記事。アミドの共役安定化が環ひずみによって得られないビシクロ構造にすることで、どのような性質を示すか?
ウッドワードがペニシリンのβラクタム構造の不安定性から興味を持たれていたとのこと。70年めにして、今回非水条件での分子内Schmidt反応によって塩として単離に成功とのこと。

この手法によるラクタム合成法はAubeのグループによって行われています。(Org. Lett. 2002, 4, 2577. JACS 2002, 124, 9974)
骨格は単純ですが無水にすることで捕まえたとのこと。コロンブスの卵ですね。非常に面白かったです。

Nature 2006, 441, 861.

2006-06-23 22:43:08 | 新着論文
Control of four stereocentres in a triple cascade organocatalytic reaction

アルデヒド、ニトロアルケン、α,β-不飽和アルデヒドの三成分をプロリン誘導体触媒により、シクロへキセン誘導体を与える。アルデヒドとのエナミン形成・ニトロアルケンへの共役付加・不飽和アルデヒドから生じたイミニウムへの共役付加・分子内エナミン付加を経たドミノ反応。

凄い!一つの不斉触媒で、3つのC-C bond形成。アキラルな3成分をもちいて、4つの不斉点を構築しています。
C&ENを読んで、知りました。
"I think this is the future of organic chemistry," Enders tells C&EN, "building molecules as Mother Nature does." とのことですが、反応性の差や、中間体の性質を非常にうまく使っていて本当にすごい。

ぱっと見タミフル合成に使えないかな?と思ったのですが、基質の適用範囲から無理でした。残念ながらアロマティックのニトロアルケンしか使えない、収率が25-59%と中程度(3成分カップリングの不斉点4つを考えると決して低くはないのですが)、触媒量が20 mol%や、他の電子不足アルケンへの適用などと改良の余地はまだまだありそうです。future of organic chemistyにふさわしい仕事だと思います。