有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

JACS 2006, 128, 8678-8693.

2006-07-30 21:33:35 | 新着論文
Enantioselective Total Synthesis of Avrainvillamide and the Stephacidins

Stephacidin A,Stephacidin B, とAvrainvillamideの全合成のフルペーパー。その経過において、トリプトファン誘導体からの直接脱水素化、エノールの酸化的カップリング、ヨードアニリン誘導体からのPd触媒によるトリプトファン誘導体の合成、Stephacidin Aの酸化によるAvrainvillamide、Stephacidin Bへの変換 を見出している。

Baranのグループ。全合成に伴う問題の遭遇と、その解決を目指した新規反応、手法の開発が読めて、おなか一杯です。フルペーパーでsupporting infoを見ろがこんなにたくさんあるのも珍しい気がします。
ストーリーとして読んでいて非常に面白いですね。

ペーパーとは全然関係ないのですが、先日読んだある本で「英雄の旅の物語」という、「時と文化を超えてあらゆる神話には同じ基本的な要素が、変わらぬ一般的な手法で盛り込まれている」というものがありました。3つのパートに別れ、旅立ち、新たな世界に入る、帰還というストーリーが本質として組み込まれているとのこと(ハイ・コンセプト-新しいことを考え出す人の時代、ダニエル・ピンク著 p171-176)
全合成のフルペーパーもこの流れなのが面白さの原因なのかなと思いました。ターゲットの重要性なり複雑さから合成を始める動機、レトロ合成、失敗、合成戦略の変更、新反応や手法の開発、全合成達成の後の生理活性への知見と、重ね合わせられる気がします。

JACSASAP

2006-07-30 00:08:00 | 新着論文
Au(I)-Catalyzed Annulation of Enantioenriched Allenes in the Enantioselective Total Synthesis of (-)-Rhazinilam

(-)-Rhazinilamの全合成。鍵反応は、金触媒により活性化されたアレンへの分子内のピロール付加。立体は環状構造により固定されたβラクトンへのSN2'により生じたアレンの軸不斉を利用。

S.G. Nelsonのグループ。sp2 carbonを金属触媒で反応基質にして短段階で全合成を行っています。ピロールC-Hのアレンへの付加ですが、軸不斉とカルボキシルによる配位を利用し、不斉四級炭素を構築しています。

sp2C-Hのアレンへの付加という反応だけでも面白いですが、軸不斉を利用して全合成にも適用しているのがすごい
こういう分子内反応を見ると、分子間はどうなの?と思ってしまいます。ピロール以外やテザーがメチレン以外でも反応は進むのでしょうか?メチレン以外でもできるなら、アロマティック縮合の6員環ヘテロサイクルが色々つくれそうな気がします。


JACS ASAP

2006-07-29 10:53:44 | 新着論文
Strain-Release Rearrangement of N-Vinyl-2-Arylaziridines. Total Synthesis of the Anti-Leukemia Alkaloid (-)-Deoxyharringtonine

(-)-Deoxyharringtonineの全合成。鍵反応はN-aryl-2-vinylaziridineからの[3,3]転移によるbenzazepine骨格の構築。アゾメチンイリドとアルケンの双極付加によるspiroピロリドン骨格の構築。C3ヒドロキシのβラクトンの混合酸無水物とのアシル化。

David Y. Gin のグループ。benzazepine骨格の7員環合成にアジリジンの[3,3]を用い、スピロピロリドン骨格は双極付加でもってきています。アジリジン窒素の歪み、窒素イリドと窒素原子を足がかりにまわりの込み入った三環系をconvergentに構築できて非常に上手いです。
refを見ないとC3のアシル化の困難さが紙の上だけだとイマイチわかりません。stericに混みいっているのはわかるのですが、スキームだけをみると?でした
筆者によるとβラクトンの2,4,6-Cl3C6H2COClを用いたアシル化がかなり画期的で良好な収率で進むとのことです。

別途合成を考えましたが、アミドで7員環を最後にもってくるか、Heckで環を構築するか どちらにしろラセミ合成になってしまい イマイチ

JACS ASAP

2006-07-27 19:55:20 | 新着論文
Combinatorial Synthesis of Benzimidazolium Dyes and Its Diversity Directed
Application toward GTP-Selective Fluorescent Chemosensors

6,7-benzimidazoliumをscaffoldとしたライブラリによる初めてのGTP選択的蛍光センサーの開発。

初めてのGTP選択的なセンサー開発がメインのようです。コンビの部分は、2-メチルイミダゾリウムとアルデヒドの縮合だけでdiverseという観点ではイマイチな印象をうけました。
ヌクレオチドのセンサー開発がどれほど困難かわからないのですが、今回のGTP選択性はそれでもすごいと思います。figureを見ると、GTP以外はブランクと同じようです。GTPのみ、目でわかるレベルでセンシングできるというのは面白いです。
今後、詳細な認識の機構や生物的な応用などへ展開とのことで、どういう相互作用なのか、選択性もクリーンに説明できるものがでてくると面白いと思います。

結論で「GTP Green」と開発した色素を名づけています。そのまんまでセンスねーなーと思ったり。

JACS ASAP

2006-07-25 22:22:53 | 新着論文
Highly Efficient Alkylation to Ketones and Aldimines with Grignard Reagents Catalyzed by Zinc(II) Chloride

Grignard試薬に触媒量の塩化亜鉛(コマーシャリーなれベルで精製が不要とのこと)を加えることで、系中でトリアルキル亜鉛アート錯体を発生させ、ケトンを効率的に(還元やエノール化を抑制し)三級アルコールへ。アルドイミンへの付加も報告。

名大石原先生のグループ。亜鉛アート錯体の低い塩基性に着目して選択的にケトンとアルドイミンへの付加を報告。100mmolスケールでも適用ができて、塩化亜鉛は精製の必要がないというインパクトある仕事です。1,4付加には銅を触媒量入れる手法がありますが、不飽和でない選択性を気にしない、1,2付加で触媒量のadditiveを加えること=今回の仕事がやられていないことにも驚きました。どこかで誰かがやっていてもよい気がしますが。

機構が面白く、亜鉛トリフラートでは効果が無いとのこと。機構は推定で、Mgがケトンを活性化しつつ、亜鉛上のアルキルが六員環遷移状態で付加する機構を提出しています。スペクトルや計算で検討していくのも面白そうな機構です。

理研の内山先生がアート錯体を用いたピナコールカップリングや触媒的還元を報告していたのを思い出しました。配位子の違いで反応性がころころ変わったり、塩基性が非常に弱いなどアート錯体面白いですね。
遷移状態が推定のように固定されているなら、(内山先生が、オレフィンかアルキンのシリル化で、BINOL使っていた系を報告していた気がするので)亜鉛上の配位子を選んで不斉付加ができると面白そうですね。


ケトンへのGrignard付加、還元体が得られることは知識として知っていたのですが、実際に行ったことはなく、ベンゾフェノン-エチルGrignardで70%近くも還元体が生じるのは驚きでした。