有機化学にっき

気になった有機化学の論文や記事を紹介。

Nature 446, 395-403

2007-11-10 14:10:41 | 新着論文
Relativistic effects in homogeneous gold catalysis

金触媒の反応性に関するreview。
Auのユニークな反応性は、相対論効果により収縮した6s軌道により説明がされる。
Auの錯体の構造、Au(I)のソフトなLewis酸性、アルキンの活性化、カルベノイド中間体など。

いくつかメモ。
収縮した6s軌道がAu-L結合の共有結合性を高める。
5d軌道のエネルギーが高いため、銅のように求核性をもたず、酸化的付加を起こしにくく、LR3Auからの還元的脱離も起こしにくい。
Au(I)とエチレン、エチン錯体の安定化は10 kcal/mol程度あり、アルキンを選択的に活性化。



いままでアルキン活性化でしか理解できていなかった金触媒に関して、なるほどなぁと納得できることがあった気がしました。

JACS ASAP

2007-11-10 13:21:13 | 新着論文
Highly Stereo- and Regioselective Synthesis of (Z)-Trisubstituted Alkenes via 1-Bromo-1-alkyne Hydroboration-Migratory Insertion-Zn-Promoted Iodinolysis and Pd-Catalyzed Organozinc Cross-Coupling

purdue大学 根岸先生。

立体選択的多置換ポリエンの合成方法。
1-ブロモアルキンから(1)ヒドロホウ素(2)アルキル亜鉛試薬により発生したボレートの転移(3)トランスメタル化により、(R)(H)=(R')(ZnY)のアルケニル亜鉛試薬を調整。
このアルケニル亜鉛試薬をヨウ素と反応したヨウ化アルケニルから再度調整した亜鉛試薬を用いた根岸カップリングにより立体選択的にトリエン合成。

基質の置換基によって、反応性に大きく差が現れる。今回開発した手法ではスムーズに反応が進行するとのこと。


系中の不純物や亜鉛試薬の反応性が影響しているのでしょうが、なぜ今回の手法が優れているのかが腑に落ちない仕事でした。
後半ではアルケニル亜鉛からのカップリング、ヨウ化アルケニルからのカップリングとdiverseも出しやすく操作が煩雑なのを除けば非常に優れた合成中間体の開発だと思いました。
コンビケムに適用、Zn以外のカップリングの適用範囲の探索あたりで展開ができそうでしょうか。

Angew. Chem. Int. Ed. 2007, 46, 7629 & 7633.

2007-10-26 22:03:06 | 新着論文
Synthesis of Azadirachtin: A Long but Successful Journey
A Relay Route for the Synthesis of Azadirachtin

Azadirachtinの全合成。S.V.Leyのグループ。

conclusionから
"The work reported herein represents the conclusion of a 22-year synthesis journey leading to the first successful preparation of the insect antifeedant azadirachtin."
執念ですな

前半では骨格の合成を、後半では天然物からの誘導とリレー合成を報告。
鍵反応は、1)デカリンフラグメントとピランフラグメントのプロパギルエノールエーテルへのカップリング。2)Claisen転移によるstericな四級炭素の構築。3)ラジカル環化。4)官能基選択的な還元、修飾。

Claisenはマイクロウェーブを使うか、Au(I)触媒を使うかの条件で行っていて、普通の加熱ではどうなるのか。
後半の選択的な脱ベンジルや山口法による酸無水物を用いたエステル化にエノン存在下でのケトン還元は、相当の苦労が伺えます。


やはりconclusionから
"While only a fragment of the total synthesis effort is reported here, the challenge has, over the years, generated new chmistry and elucidated a wealth of information concerning the biological properties of this fascinating molecule. We can only anticipate that this will be the start of other research programs, which one day may lead to alternative compounds for pest control."

JACS ASAP

2007-10-21 18:04:41 | 新着論文
Reductive Cleavage of Sulfones and Sulfonamides by a Neutral Organic Super-Electron-Donor (S.E.D.) Reagent

Sulfones and sulfonamides are reductively cleaved using the neutral and easily prepared organic electron-donor, bis-imidazolylidene 3.


bis-imidazolylideneの強い還元力を利用した、アリルスルフォンやスルフォンアミドの還元。
筆者らは最近、ビスイミダゾリデン骨格の強い還元力に着目し"super-electron-donor" reagentsと名づけた有機還元剤の開発を行っているそうです。これまで、類似骨格の化合物でヨウ化物の還元を報告しているとのこと。

筆者らはメリットとして、1)中性分子 2)試薬の調整が容易 3)電気化学的な調整でない(イミダゾールとジヨードプロパンに塩基)ため、電極を汚したり、特別な電気化学的器具を必要としない。また、温度や濃度の調整も容易。
をあげています。


合成で保護基を選択的にはずすにはちょっと今のままでは強すぎる試薬かなー、というのが印象。一電子移動試薬ということではPowerや関口先生などの典型元素化学の還元剤のチョイスが増えて面白いのかなと思いました。




Nature 2007, 446, 404

2007-03-31 07:14:07 | 新着論文
Total synthesis of marine natural products without using protecting groups

Baranのグループ。(+)-ambiguine H, (+)-welwitindolinone Aの保護基を使用しない全合成。生合性経路に着目し、保護基を用いず、グラムスケールでの全合成。

Baranの論文を見つけたので読みました。
生合成経路を天然物合成で越えるために、保護基を使わずにという信念がみれる全合成です。
この複雑な骨格をわずか数ステップで達成していることに感動です。

よく聞かれる、天然物を作ったからどうなの?供給するなら菌に任せたほうがたくさんできるじゃない?時間と金かければできるんじゃないの? という天然物合成批判を跳ね返せる、すばらしい内容の仕事です。



Lighting Up Azobenzene

2007-02-03 11:58:16 | 新着論文
C&EN 元記事読まず
Chem. Commun. DOI:10.1039/b615966d

窒素二重結合の異性化に吸収したエネルギーが使われてしまい、蛍光を示さないアゾベンゼン。東大川島先生らのグループがホウ素をオルト位に導入することで、NNCCBの5員環で安定化することで、蛍光を発するアゾベンゼン(従来の3万倍の強度)を合成。
アゾベンゼン骨格を利用したセンサー・プローブ・機能性材料の展開が期待できるとのこと。
見た目合成も難しそうではないので、diverseを色々かけられそうです。
solution phaseのコンビでできるでしょうか

Angew.Chem. Int. Ed. 2007, 46, 912

2007-02-03 07:01:23 | 新着論文
C&ENで抄録だけ
元文献当たらず

金触媒によるビニルアレンの置換シクロペンタジエンへの変換反応。

Tosteのグループ。0℃一分ではんのうがしんこうするそうです。
今後の展開として光学活性メタロセン合成を目指しているとか。

テフロン

2007-01-18 22:38:31 | 新着論文
テフロンの耐化学薬品性しか知りませんでしたが、

 テフロンの摩擦係数は非常に低く、氷以上であります。また、動摩擦係数よりも静摩擦係数の方が低く、高荷重、低速ではグラファイト、二硫化モリブデン等の他のいかなる固体潤滑剤よりも低い摩擦係数(0.04)を示します。
 グラスファイバー、固体潤滑剤、酸化物等の併用によって、耐摩耗性も良好となり、オイルレスピストンリングおよびドライベアリング等として優秀な成績をおさめています。

テフロンの低い摩擦係数は充填剤の使用によって更に一段と優れた機械的性質を示します。
 切削性はきわめて良好で、切削加工は容易であります。ただし、温度による膨脹、収縮は金属より遥かに大でありますから、加工の際の寸法公差は使用時の温度条件を基準に考えねばなりません。また、必要以上に小さな公差を附することは、使用時の温度の変化からも無意味であります。

 PTFEは一般の樹脂と同レベルの熱膨張係数を示しますが、23℃付近に特有の転移点が存在し、寸法変化が大きくなるので注意が必要です。


摩擦係数の低さがどのように使われているのか?免震構造の建物とか結構面白そう。

ウェブ人間論

2007-01-06 23:24:55 | 書籍
「ウェブ人間論」 梅田望夫 平野啓一郎 新潮新書

読み終わりました。「ウェブ進化論」に書いてあることと変わりないのですが
対談形式ということで、わかりやすい比喩や体験談として納得しやすかったです。

面白いというか、web2.0で言葉にできなかったことが言葉にされていました。
「ブログを書き始めたとき自分は一体何が好きなんだろう、何についてなら毎日かけるんだろう?(中略)それはおおげさな言い方をすれば、自分で自分を発見したということだったんですよ。(中略)好きなことを一生懸命やって、専門とか自分の好きなことの中に閉じこもっていると、オタク化していく。ネットはそういう傾向を増幅するから(後略)・・・」 
「情報の量がいずれ必ず質に転化する」
「ネットの世界に住んでいるという感覚」

色々と検索してみると
totalsynthetic
molecule of the day

英語ができると世界が広がるなぁと思いました。
 

JACS ASAP

2006-12-21 20:40:39 | 新着論文
Regio- and Chemoselective Silylmetalation of Functionalized Terminal
Alkenes

亜鉛アート錯体と触媒量の銅塩を用いた、アルケンの位置選択的silyl zincation。亜鉛部位は様々な求電子剤と反応してケイ素官能基かされた生成物を与える。

理研内山先生。アルケンへの亜鉛-ケイ素試薬の付加反応。
銅塩を用いたのが鍵で、不思議なのが銅アート錯体では反応がいまいちとのこと。
活性種はどうなっているのでしょうか?

位置選択性もさることながら(80%以上の選択性で末端がシリル化)官能基共存性もすごい。二トリル、エステル、アミド、ホスフィンオキシドなどなど。
さらにelectrophileと反応が可能。形式的にオレフィンの末端シリル化を行いながら、内部にC-C bondを作っています。

内部オレフィンは反応性が低く、ひずみのあるビシクロ環のみ進行とのこと。現在のこのリミテーションも亜鉛上の置換基やadditiveでクリアできるかもしれません。
末端ケイ素も酸化によって官能基変換が可能であることまで示しています。

オレフィンの修飾方法として、かなり面白い反応だと思いました。