THE BOOKハンター!

~〈本の虫〉の痛快読書日誌~

「夕子ちゃんの坂道」(長嶋有/文藝春秋社)

2007年05月21日 | Weblog
 「批判的な自覚とともに、懐かしい小説の魅力を、すっかり新しい日本人を通じて表現した作品」として今月、第1回大江健三郎賞を受賞した本書は、西洋アンティーク骨董店に住み込みのアルバイト青年の視点で周囲の人々との交わりを描いた連作小説集です。受賞の知らせをニュースで知った私は、さっそく近くの本屋に出かけて購入し、丸2日間で読み終えました。
 「猛スピードで母は」で第126回芥川賞を受賞した長嶋有は、その後も独特な感性を発揮した作品を次々に発表し、今の日本文壇をリードする人気作家となっています。本作品も、大江氏が「すっかり新しい日本人を通じて表現した作品」と評しているように、文中の表現や会話から現代の若者の生き方・考え方(=作者の気持ち)がよく理解できます。しかし、主人公の周りにはいつも何人かの人たち(それぞれ「弱み」を抱えた生身の人間なので読者も共感が持てる)がいて、古き日本のものだったと思われがちな「人情」があり、温かな気持ちになることができます。