採集生活

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シャーナーメあらすじ:3.ファリドゥンと三人の息子達

2022-11-22 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

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3.ファリドゥンと三人の息子達
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■登場人物
ファリドゥン:ザハクを倒してイラン王になった。在位500年。
ファラナク:ファリドゥンの母。
サルヴ:ヤマン(イエメン)の王
サルム:ファリドゥンの長男。母はイラン王女シャーナーズ。 Salm
トゥール:ファリドゥンの次男。母はイラン王女シャーナーズ。
イラジ:ファリドゥンの三男。母はイラン王女アルナヴァズ。 Iraj

■概要
ザハクを倒してイラン王になったファリドゥン。
母親からも沢山の財産を贈られます(ザハクからの逃亡生活で、夫も殺されてしまってたはずなのですが、どこに財宝を隠しておいたのでしょう・・・)。
ファリドゥンは、ザハクの後宮に囚われていたイラン王女シャーナーズとアルナヴァズと結婚し、三人の息子たちにも恵まれます。(が、後に・・・。)
この章はではまだ問題は起こらず、三人息子のお嫁さん探しと、息子たちの性格の違いを描いています。

この部分に関する絵は5枚。やはり見開きごとに一枚(右側ページ)、絵があるような豪華な構成です。
クライマックスはやはり龍の場面かな。
ストーリー的な意味はないですが、豪華な品々を羅列した宝物の描写(ファラナクが息子に贈る場面と、ヤマン王がもてなす場面)が、イスラム文学ぽくて好きです。
例える言葉も、「キジのように飾り立てた兵士」など、あまり聞いたことのない比喩があったりして面白いです。

■ものがたり

ファリドゥンがザハクを倒して戴冠したという知らせが、母ファラナクのもとに届きました。
彼女は沐浴し、神の前でひれ伏して、この最も幸福な運命の転機に感謝しました。そしてはじめの一週間、街に貧乏人がいなくなるまで施しに費やし、別の一週間はすべての貴族を饗応し、沢山の草花で庭のように家を飾り、そこで客人をもてなしました。
彼女は隠された宝物庫の扉を開けて、イラン王族として持っていた全ての宝を息子に贈ることにしました。
豪華な錦織の衣服や王家に伝わる宝石、金細工の頭飾りをつけたアラビア馬、鎧、兜、鏑矢、剣、王冠、ベルトを惜しげもなく取り出し、ラクダに乗せ、賛美の声を上げながら息子のもとへと送り出しました。


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●馬の行列




祝いの日には、天使ソルシュが宝石をばらまいてファリドゥンの戴冠を祝福しました。

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●宝石を蒔くソルシュ

 

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●ファリドゥンの戴冠


彼は正義を貫いて政を行い、人類は再び神に立ち返り、世界は楽園となりました。

やがてファリドゥンは三人の立派な息子に恵まれました。
総領と中の息子はシャーナーズの子で、末息子はアルナヴァズの子です。
三人とも糸杉のようにすらりと背が高く、象のように素早く力強く、春のような頬をした息子たちです。ファリドゥンは、彼らを愛するがゆえに、名前をつけて運命を誘惑することを拒み、息子達には名前がないままでした。

息子達が青年になったとき、ファリドゥンは彼らにふさわしい妻を求めました。
王の相談役である有能なジャンダルを呼び出し、そして言いました。
「世界中を回って、私の息子たちにふさわしい高貴な血統の、同じ父と母から生まれた3人の乙女を見つけ出してくれ。」


ジャンダルは、ヤマンのサルヴ王に、真珠のように美しい三人娘がいることを調べだし、使者としてサルヴ王のものを訪ねました。
彼は雉が薔薇に向かって歩くように堂々と王座に近づき、恭しく地面に口づけしてからファリドゥン王の意向を伝えました。

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●サルヴ王とジャンダル




話を聞いたサルヴ王は、水から摘みとられた睡蓮のようにたちまちうちしおれました。
(もしこれらの月が私から奪われ、私が寝椅子の周りで娘達を見ないならば、私の昼は夜に変わってしまう)
彼は大臣たちに相談し、ひとつの試験を考えることにしました。

そしてジャンダルを呼び、次のように答えました。
「娘達と別れることに比べれば、私の両目、そしてヤマンの王座を差し出す方が遙かに耐えられるほどです。
しかしファリドゥン王の願いであれば私はそれに従うしかありません。
娘達と別れる前に、王子達とお目にかかりたい。立派な王子達に直接娘達を託すことができれば、私の日々の暗闇は明るくなることでしょう。」

ジャンダルは、一旦国に帰りました。
王子達が出立するときに、ファリドゥン王は助言を与えました。
「ヤマン王はもてなしの席に王女達を連れて来させるだろうが、年齢の逆順に並ばせるはずだ」と。

ジャンダルと王子達は、ヤマンで豪華な歓迎を受けました。
道中には雉の羽毛のように着飾った衛兵が並び、楽団が演奏し、サフランと麝香を混ぜた宝石が振りまかれ、馬のたてがみは麝香とワインを塗りつけられ、足先には金貨がばらまかれました。
宮殿は楽園のように飾り付けられました。レンガは金と銀で覆われ、壁にかけられたのは、ルーム(広義のローマ。「西方」)の豪華なつづれ織りでした。

王子達はヤマン王に拝謁しました。

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●王子達

そしてヤマン王の娘が次々に宴の席に入ってきました。
王は、どの娘が年上で、どの娘が真ん中、どの娘が年下か王子達に訪ねました。
王子達はファリドゥンの助言の通り、先頭が末娘、真ん中が中の娘、一番後ろが年上の娘と答え、ヤマン王はたくらみが破れたことを知りました。
そして年上の王子の横に年上の娘、中の王子の横に中の娘、末の王子の横に末の娘が座り、互いに頬を赤らめて語り合いました。

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●王子と王女


三組は婚約し、ともに国に帰ることになりました。

道中で出会ったのが、1匹の龍です。これはファリドゥンが変身したものでした。
龍は砂埃をまき散らし、咆哮して息子達に襲いかかりました。

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●龍

長男は恐怖のあまり後退し背中を見せ、「分別のある人間は龍と戦わない」と言い放ちました。

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●長男


次男は弓を引いて威嚇し、「荒ぶる獅子と戦っても、騎兵と戦っても大差はない」と言い放ちました。

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●次男


次に対峙した末の息子は、「失せろ」と叫びました。
「お前たちはただのワニだ、獅子に気をつけろ。ファリドゥンのことを聞いたことがあるなら、私たちと戦う勇気はないだろう。私たちは彼の息子で、それぞれが彼のような戦士なのだから」。

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●三男


ファリドゥンは人間の姿に戻り、宮殿で息子たちを迎え、ついに名前を授けました。
長男は思慮深く安全な場所を探したので、サルム。
二番目は、その勇気が炎よりも熱いので、トゥル。
そして、中庸の道を選んだ末っ子には、イライと名づけました。






■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f038v 38 VERSO  The court of Faridun  ファリドゥンの宮廷  MSS 1030, folio 38  
  39 VERSO  Faridun’s envoy to King Sarv: the first interview  ファリドゥンのヤマンのサルヴ王への使節:最初の拝謁(ジャンダル) Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran 非公開  
f039v 40 VERSO  Faridun’s envoy to King Sarv: the second interview  ファリドゥンのヤマンのサルヴ王への使節:2回目の拝謁(ファリドゥンの息子たち) Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f040v 41 VERSO  Faridun s sons with the daughters of King Sarv  ヤマンのサルヴ王の娘たちとファリドゥンの息子たち  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f041v 42 VERSO  Faridun tests his sons  ファリドゥン、息子たちを試す  Aga Khan Museum, AKM903 / 本※のp121

※画のタイトルは”A King's Book of Kings: The Shah-nameh of Shah Tahmasp" (Stuart Cary Welch) による
※画像リンク先は、基本的には所蔵館サイト。より高画質のものが別にあるばあいはそれも併記した


■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●38 VERSO  The court of Faridun  ファリドゥンの宮廷
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
豪華な戴冠の祝いの様子です。
所蔵のハリリコレクションでは「母ファラナクがファリドゥンに贈り物をする」というタイトルになっています。
空の天使ソルシュが浅いお皿にのせてばらまいているのは宝石的なものかなと思いますが、字面では綺麗ですが、実際には、砂粒や小石サイズのものをまいたら快適ではないような気も。

f41v

馬の首の下に、ふんわりした長い房のようなものをつけています。
これはタッセルネックストラップ(頸総くびふさ)というもので、西アジア独特の馬具(装飾)で、ヨーロッパにはないものだそうです(参考サイト)。
馬の首を少し下げさせ、騎射をしやすくする機能も考えられるようですが、次第に装飾的な目的が主となっていくようです。要するにおめかしするときの飾り(男性のネクタイみたいな感じかな?)。
Zara先生の動画によると、画家はスルタン・ムハンマドとカディミ。


●39 VERSO  Faridun’s envoy to King Sarv: the first interview  ファリドゥンのヤマンのサルヴ王への使節:最初の拝謁(ジャンダル)
イランの近代美術館所蔵のようですが、画像はみつけられませんでした。
Zara先生の動画によると、画家はスルタン・ムハンマドとカディミ。カディミはフサフサした口ひげ・顎髭が特徴で、「髭の画家」とも。

●40 VERSO  Faridun’s envoy to King Sarv: the second interview  ファリドゥンのヤマンのサルヴ王への使節:2回目の拝謁(ファリドゥンの息子たち)
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
息子達は、ひげがあるのが長男でしょうが、次男三男はどちらがどちらでしょう。
庭にはカンゾウ(キスゲ?)やアヤメなど、比較的リアルな花もあります。
背の高い木で、葉っぱの茂み部分から花が4本ぴょーんと伸びているのは、マンガみたいですが、きっと何かこれに近い植物があるのでしょうね・・?
Zara先生の動画によると、画家はスルタン・ムハンマドと若手カシム・アリ。

●41 VERSO  Faridun s sons with the daughters of King Sarv  ヤマンのサルヴ王の娘たちとファリドゥンの息子たち 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
娘達と王子達が仲良く交互に並んでいて、微笑ましい場面です。
ただし、原文には、並んで座ったという表現はなくて、王女は順番のテストが終わったら部屋を出て行ったようでした。今回の文章では、挿絵優先にして、王女と王子が語り合ったことにしてしまいました。
現代のマンガや挿絵ならば、それぞれの王子たちの服は、40v、41v、42vの三枚の絵で、ある程度同じにする(もしくはテーマカラーを決める)ような気がしますが、バラバラです。なので誰が誰か分かりにくいですが、違っている方がリアルといえばリアルだし美しいものを見る楽しみは多いのかもしれません。
Zara先生の動画によると、画家は、スルタン・ムハンマドと若手カシム・アリ。

●42 VERSO  Faridun tests his sons  ファリドゥン、息子たちを試す 
この絵は、アカ・ミラクの細密画の中で最も美しいものの一つである。
作風は大英博物館所蔵の1539-43年のカムセ細密画と似ているため、1530年代末に描かれたものと思われる。有機的でしなやかな構図、形を隠したガラス質の岩、人物や動物の具体的な描写など、細部の表現もアカ・ミラクの作品であることを裏付けている。

アカ・ミラクのドラゴンはサファヴィー朝美術の中で最も生き生きとしており、彼の熊は最も楽しいものの一つである。"

"アカ ミラークの作とされるこの絵は、絵空間の巧みさを示している[1]。
左側の龍の弧は、馬に乗った 3 人の人物の配置によって相殺され、中央下部から右上へと鑑賞者を導きます。このようにして、鑑賞者は、絵の前景にあるライダーとドラゴンの最初の出会いに焦点を当てるだけでなく、他の 2 人のライダーの反応も探ります。それらの違いは非常に明白です。
ファリダンの息子たちの顔には、年齢と性格が反映されています。サームのあごひげは年月を経て相対的に成熟したことを示し、眉を上げて飛び出る目はドラゴンを見て大きな不安を表しています。薄い口ひげをたくわえたトゥールは前かがみになり、剣を振り回して獣を見つめています。イラジのひげのない顔は彼の若さを示していますが、彼の伸ばした手、直立した姿勢、穏やかな顔は、彼の勇敢でありながら落ち着いた性格の概念を強調しています. 各人物と彼の馬は、岩とカスケードの渓流に囲まれた淡いラベンダー ブルーの地面にシルエットが描かれています。ドラゴンが滑空する色とりどりの突き出た岩と、馬のひづめの下の乾燥した芝生とのコントラストは、飼いならされた馬とそれに乗る男性に対するドラゴンの野生の獰猛さを反映しています。AKM165 )、ここの岩自体は隠されたグロテスクな顔と本物の動物 (アイベックス、ユキヒョウ、クマ、ヤマウズラ、そして前景ではウサギ) であふれています。アカ ミラークは、スルタン ムハンマドの作品の要素を、ヘラートの巨匠ビフザドとその信奉者から集められた調和のとれた構成と合成しているようです。

イスファハーン出身のサイイド(預言者ムハンマドの子孫)の家族の子孫であるアカ・ミラクは、「比類のない画家であり、非常に頭が良く、彼の芸術に夢中になり、生き生きとしており、(シャーの) 親密な人物であり、賢者であった」 おそらく彼は、彼の才能を認められ、最終的に彼を王立図書館の主な資料提供者という重要なポストに任命したシャー・タフマスプと年齢が近かった."

〇Fujikaメモ:
この絵は、ホートンがバラして売却後、おそらく誰かの手を経たあと、コレクターでもあるウェルチ博士によって買い取られたようです。(相当苦労した模様)
そして2008年にウェルチ博士が亡くなったあとに、彼のコレクションがサザビーズにかけられて、この作品は予想額の2倍以上、なんと1200万ドルで落札されました(18億円くらい?)。これはイスラム美術の新記録だったとか(参考情報)。
(METに寄贈したりはしなかったのね・・・)
落札直後は落札者の名前は明らかにならないようですが、結果的にカナダのアカ・カーンコレクションで公開されることになり、研究者やファンは胸をなで下ろしたでしょうね。
(競ったのは、アカ・カーンとMETかしら)

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