採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャーナーメ:9.イランとトゥランの戦いの始まり(下)

2023-03-27 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

この後半は、場面があちこち移って、なかなか興味深い展開です。
この後は、ロスタムの馬探しとか、もうちょっとわかりやすい物語が出てきますので、
これに懲りずまた読んで下さい。

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9.イランとトゥランの戦いの始まり(下)
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■登場人物
《イラン側》
マヌチフル:イラン王ファリドゥンのひ孫、イラジの孫。兄達(サルムとトゥール)がイラジを殺した敵をとってイラン王位を継いだ。Manuchehr
ノウザル:マヌチフルの息子 Nozar / Nowzar/ Naudar
カレン:イラン軍最高司令官
トゥースとゴスタハム:武将。ノウザルの息子。Tus  Gostaham/Guzhdaham
ザール:サームの息子でザボレスタンの領主。イラン防衛の要。
ミフラーブ:ザボルの支配下のカボルの領主でザールの義父。一時的にザボルの城代。

《トゥラン側》
パシャン:トゥールの孫で、トゥランの将軍。Pashang。父はザドシャム/ ザダシュム/ Zadashm(トゥールの子)。兄弟に、ヴィセViseh がいる。
アフラシヤブ:パシャンの息子。ここでは長男とした。Afrasiab / Afrasyab
アグリラス:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Agriras 。
ガルシワズ:パシャンの息子。ここではアフラシヤブの弟とした。Garshivaz / Garsivaz 。
ヴィセ:トゥランの武将。パシャンの弟。Viseh 
バルマン:トゥランの武将。ヴィセの息子。兄弟にピラン、ホウマンがいる。

■概要
ノウザル王を捉えたアフラシヤブとヴィセは、バルマンとカレンが戦ったことを知りました。その戦場に来て、大勢のトゥラン兵とバルマンの死を知ったヴィセはカレンに追いつき復讐戦をします。しかしカレン軍は強く、ヴィセ軍は多数の将兵を失い退却します。
一方で、ザボレスタンの都ザボルにもトゥランのシャマサスとカズバランが攻め入ろうとしていました。
ザボル城代ミフラーブの機転により時間稼ぎをし、ザールの軍はカズバランを斃し、シャマサスを退けます。
退却途中のシャマサスは、カレンの隊と出会い、ここでも戦って、這う這うの体で敗走します。

バルマンの死を知ったアフラシヤブは復讐のためノウザルを斬り捨てますが、ノウザルと同行して捕虜になった一行はアグリラスの助言により殺さず、幽閉することにしました。

ザールはノウザル王の復讐戦を企図しますが、捕虜はアフラシヤブの更なる報復を恐れ、寛容なイグリラスと手を結びザールにもその作戦を伝え、平穏裡にザールの軍に引き渡してもらうことに成功しました。
しかしこれを知ったアフラシヤブは激怒し、弟イグリラスを殺してしまいます。

ノウザルの後には高齢のザヴが王位につきました。
干ばつと飢饉で戦線は膠着し、トゥランとイランは講和を結び、トゥランはオクサス川の対岸に戻りました。

ザヴの治世の5年間、そして次の王ガルシャスプの治世の9年間は戦争はありませんでしたが、ガルシャスプの死後、トゥランが再び動きました。トゥラン王パシャンは王子アフラシヤブを再び送り込み、イラン王位奪取を試みます。
防衛の主力となるザボレスタンの領主ザールは、自分の老いのため、息子ロスタムに戦わせることを提案します。そのためにも相応の武具、そして馬を手配する必要があるのです・・・。

■地図
これまで見て見ぬふりができた地名ですが、今回ばかりはこの地名の羅列を何も分からず読むのはあまりにもつらいので、いくつかの資料を見つつ、ざっくりとした位置関係が分かるような模式図マップを作ってみました。
「アフラシヤブ×ノウザル」など対戦者名がある場合は、先に書いた方が北側、後に書いた方が南側のイメージです。(イラン側とトゥラン側、色分けした方がよかったかな?)

https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/b9/ba237d910198efb6d194cd1c67196ce2.jpg
※地名がでてきた場合、それが町・都市と思う(しかない)のですが、レイとパースは、もしかしたら「○○地方」「みちのく」「上方」のような意味かもしれません。(もやは理解には絶望的です)
※今回、アフラシヤブがレイで王冠を頂いたので王都レイ、としましたが、違うかも。
イラン王族の子女はパースにいたようで、レイが政治の中心地?で、パースは、別荘?何? 夏の都と冬の都、とかあるのかなあ。

■ものがたり

9□□息子の死を知ったヴィセとカレンの戦い□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

ヴィセは兵を率いて出発したところ、カレンと包囲軍の闘った場所に来ました。無数のトゥランの戦士が倒れており、息子バルマンもその中にいました。旗は破れ、太鼓は倒れ、胴衣はチューリップのように赤く、顔は血で朱に染まっていました。
[パースまでたどり着いていたカレンは]ヴィセの隊が自分達を追撃していることを知り、早馬をザヴォレスタンに送り、残りの兵と共にパースから平原に出て待ち受けました。砂塵の中から黒い旗が浮かび上がり、その先頭にいるのはトゥラン軍司令官ヴィセです。両軍は互いに前進し、兵の中央からヴィセが呼びかけました。
「イラン王はもはや我らの手にある。カヌジからザヴォレスタンの国境まで、そこからボストとカボルに至るすべての土地もわれらのものだ。どこに逃げていくのかね。」
カレンは答えました。
「私は恐怖や噂のために去ったのではない。私はそなたの息子と戦った。復讐を望むなら、そなたとも闘おう。」

喇叭が鳴り響き、騎馬の戦士たちが駆け寄って、舞い上がった塵で空は薄暗くなりました。戦士たちは激しくぶつかり合い、血しぶきが飛び散りました。最終的に、カレンの軍はヴィセの軍に勝ち、ヴィセは退却しました。多くの部下が殺されましたがカレンは彼を追いませんでした。ヴィセは息子の死を嘆きながら、アフラシヤブのもとへ帰っていきました。


10□□シャマサスとガズバラン、ザボレスタンに迫る□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

アフラシヤブがザボレスタン方面に派遣したアルメニア人の将軍はシャマサスといいました。彼はカズバランとともに3万の軍勢を率いてオクサス川を渡り、[ゴルグザラン、そしてニムルズを陥とし]いま剣とメイスを携えてザボレスタン国境のヒルマンド川まで進軍してきました。
この頃、ザールは喪に服して父の墓を建てており、ミフラーブは彼の代わりに政務を執っていました。
トゥラン軍の接近を知り、ミフラーブはシャマサスに使者を送り、メッセージと贈り物を託しました。

「トゥラン軍の司令官に栄光あれ。
私はアラブ王ザハクの子孫であり、ザールの支配に大きな愛情はありません。私が彼の一族と手を組んだのは、自分の命を守るため、仕方がなかったからです。今、この城とザヴォレスタンはすべて私の手の中にあります。ザールは父を悼んでいるが、私の心は彼の悲しみで元気づけられます。
どうかアフラシヤブ公に早馬の使者を送るために時間をください。同盟したいという私の希望を知れば、手間を省けましょう。私は王にふさわしい贈り物を何でも送ります。拝謁を命じられれば、私は彼の玉座の前に立ち、主権も富もトゥラン王に譲り、彼の戦士たちを煩わせることはないでしょう。」

こうしてミフラーブは、トゥランの戦士たちの心をつかむと同時に、時を稼いで彼らの脅威から逃れる道を探りました。
彼はザールに使者を遣わし、こう言いました。
「鳥のように素早く飛んで行って、ザールに急いで戻るよう伝えよ。豹のような2人の戦士がトゥランからここにやってきて、我々に戦争を仕掛けてきたと。
彼らの軍隊はヒルマンド川のほとりに陣取り、今のところ私が贈った金貨が彼らの足を絡め、進行を妨げている。しかし、もしあなたの対応が遅れれば敵は彼らの望むことを実現するだろう。」


11□□ザール、ザボルに戻り闘う□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

使者からの知らせにザールの心は火のように燃え上がりました。彼は軍を率いてミフラーブのもとに向かい、言いました。
「あなたは賢く行動した。私はあなたがしたことすべてに拍手を送る。
 さて、夜の闇の中で、私は彼らに私の能力を見せに行こう。私が戻ってきたことを彼らはすぐに知るだろう。」

ザールは弓を肩にかけ、その矢の一本一本は木の枝のように重厚でした。彼は敵の陣地を見定めると3つの場所に矢を放ちました。夜が明けると、兵士たちは矢を囲んで大騒ぎしています。この矢はザールのものに違いない、彼以外の猛者はこんな矢を弓で射ることはできない、と。

シャマサスは言いました。
「カズバランよ、もしあんたがそんなに富を求めなければ、今頃ミフラーブは残っておらず、軍隊もなく、略奪する財宝もなく、こうやってあんたを怖がらせるザールもなかっただろうよ。」
カズバランは平静を装って答えました。
「彼は一人の男で、アーリマンでもなければ、鉄でできているわけでもない。心配する必要はない。」

輝く太陽が空に昇り始めると、平原に太鼓の音が鳴り響き、街の中でも太鼓や喇叭、シンバルやインディアンチャイムが鳴り響くようになりました。
ザールは大勢の兵と象を引き連れて平野に現れ、遠くから見ると舞い上がる砂埃で平野に黒い山が生まれたように見えました。

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●対峙するトゥラン軍とイラン軍 f104r


メイスと盾で武装したカズバランがザールに襲いかかり、メイスをザールの胸に振り下ろしました。胸当てが砕け散り、カボルの戦士たちに守られてザールは一旦引き返しました。彼は新しい鎧を身につけ、獅子のように戦いに戻りました。
彼の手には父のメイスがあり、彼の頭は怒りで満たされ、心臓には血が滾っていました。彼は牛頭の棍棒をカズバランの頭に振り下ろすと、地面は飛び散った血しぶきで豹の皮のようになりました。

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●ザールがカズバランに牛頭槌を振り下ろす f104r

ザールはカズバランを投げ飛ばし、無残な姿で放置すると、両軍の間にある平原に向かいました。
彼はシャマサスを呼びました。
「出てきて戦え、臆病者!」
しかし、シャマサスはザールのメイスを見ると、兵の中に身を隠しました。ザールは戦塵の中、弓に矢をつがえて別の戦士、鎧をまとったゴルバドに迫りました。矢はゴルバドの腰と鎧を貫いて、ゴルバドを鞍に釘付けにしてしまいました。
シャマサスは色を失いました。
トゥランの軍勢が無秩序に敗走するのをザールとミフラーブが猛追し、あたりには多くの兵士が倒れて足の踏み場もないほどでした。


[ニムルズに]退却しようとするシャマサスの一行が砂漠にたどり着いたとき、カヴェの息子カレンが遠くに現れました。彼はヴィセの軍隊と闘ったあと、ザヴォレスタンに向かっているところでした。

カレンは、相手が誰なのか、なぜザヴォレスタンに来たのかを知っていました「ヴィセと闘う直前に送った早馬からザヴォレスタンの状況を知ったのです]。
彼は喇叭を鳴らし、両軍は戦闘を開始しました。シャマサスの兵士の多くが負傷し、他の兵士は捕虜となりました。シャマサスは数人の兵を連れ、戦いの埃の中から逃げ出しました。


12□□アフラシヤブによるノウザル処刑とイラン王位の簒奪、捕虜とイグリラスの交渉□□□□□□□□□□□□

アフラシヤブは辿り着いたヴィセから将兵たちの死を知り、怒り狂って立ち上がり、言いました。
「ノウザルはどこだ? ヴィセの軍の仇を討ってくれよう。」
ノウザルはこれを聞いて、自分の命運が尽きたことを知りました。

兵士の一団が噂をしながら彼を探しに来て、両腕を縛ったままアフラシヤブの前に引きずっていきました。ノウザルが近づいてくるのを見ると、アフラシヤブは失った将兵達、そして先祖トゥールの悲憤を思い、言いました。
「自業自得だろうな。」
そして剣を抜き、ノウザル王の首を一撃で切り落とし、その亡骸を地面に投げ捨てました。
このようにしてわずか7年の治世ののちマヌチフルの後継者は死に、イランの王位は空白となったのです。

次にノウザルと共に捕らえられた捕虜たちが連れてこられました。彼らは必死で命乞いをしました。アグリラスは、彼らを弁護してアフラシヤブに提案しました。
「丸腰の捕虜をこれほど多く殺すのは、高貴な行為ではなく、卑しい行為です。私が彼らを鎖につないで洞窟に閉じ込めておきましょう。そこで惨めに死ぬことになるでしょうが、無駄に血を流すことはありません。」

アフラシヤブは弟の求めに応じて捕虜を引き渡し、彼らは泣き叫びながらサリに連行されました。

□□アフラシヤブのイラン支配

アフラシヤブは、デヘスタンからイランの王都レイまで全速力で馬を駆りました。そしてそこでカヤン王国の王冠を頭に載せました。
そして宮廷を開き、イランの宝物庫を開け、自分の手下に金貨を配りました。

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●イラン王を僭称するアフラシヤブ   f105r

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●金を分配するアフラシヤブの手下たち   f105r

[女子供を連れてアルボルツ山脈を越えていた]ゴスタハムとトゥースは、ノウザル王が処刑されたという知らせを受けました。戦士たち、女たちもみな嘆き悲しみました。彼らはザヴォレスタンに向かい、王のことを語り、悼みました。
彼らはザールの宮廷で言いました。
「イランの守護者、国家の支柱、世界の王よ!
我々は剣に毒をつけ、その不当な死を復讐する。ザボレスタンもともに嘆き闘ってください。」
ザールの宮廷の皆、一緒に泣きました。
ザールは言いました。
「審判の日まで、私の剣はその鞘を見ることはない。馬は私の王座であり、足は鐙以外のどこにもなく、冠は私の兜である。私は復讐を果たすまで休むことはなく、川の水は私の流す涙より少ないだろう。」

サリにいるイラン人の捕虜に、ザールとその仲間たちが反撃の準備をしているという知らせが入りました。彼らはこの知らせに動揺し、不安で食事も睡眠もとれませんでした。彼らはアフラシヤブの報復を恐れ、アグリラスにメッセージを送りました。
「公正で善良なる閣下、私たちはあなたの言葉によってのみ生きています。あなたはザヴォレスタンにザールが君臨し、カボルの王ミフラーブ、カレン、バルジン、ケルダド、キシュワドといった戦士たちとともにそこにいることを知っています。彼らはイランの防衛のために躊躇なく力を発揮する偉大な英雄であり、戦場に乗り込むと、長槍の突きで人の目を突き刺すことができます。
もし彼らが反撃してくれば、アフラシヤブはそれに激怒して怒りを我々捕虜に向けるでしょう。もしアグリラス閣下が私たちを解放して下さるならば、私たちは永遠に閣下を称賛し、神の加護を祈ります」。

賢明なアグリラスは応えました。
「それはできません。そのようなことをすれば、兄アフラシヤブに対する私の敵意が明白なものとなり、彼は激怒することでしょう。しかし、私は別の方法で、兄を刺激しないように、あなた方を助けようと思います。
もしザールの軍が攻めてきたら、サリに近づいたところで、あなた方をザールに引き渡し、戦わずにアモルから撤退することにします。私が面目を失いましょう。」

イランの貴族たちはひれ伏して彼に感謝の気持ちを伝えると、サリからザールへの伝言を伝える使者を派遣しました。そのメッセージにはこう書かれていた。
「神は我々に慈悲深く、賢明なアグリラスは我々の同盟者となった。彼は、イランからザールの代理として2人の男が来た場合、戦わず、アモル周辺から撤退し、彼の軍をレイに向かわせると誓っている。もしそうしなければ、あの竜アフラシヤブの爪から逃れる者は一人もいない。」

このメッセージを聞いてザールは言った。
「さあ、我が戦士の豹たちよ、戦で心が黒くなった君たちの中で、この任務を引き受け、太陽に向かって頭を上げるのは誰だ?」
ケシュバドは胸に手を当て志願しました。ザールは彼に祝福を与えて送り出しました。

ザヴォレスタンからアモルに向かって軍隊が出発し、その知らせがアグリラスに届きました。アグリラスは、喇叭を吹かせて全軍をレイに向かわせ、すべての捕虜たちをサリに残していきました。ケシュバドはサリに着くと捕虜たちを解放し、それぞれに馬を与え、一行はザボルへの帰路につきました。ザールは彼らを歓待して都に招き入れ、ノウザルに仕えていたときのように身分を保障しました。 

13□□アグリラス、兄に殺される。ザールの決起□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
アグリラスがアモルから王都レイに到着したとき、アフラシヤブは彼のしたことを知り、激しく叱責しました。
「殺せと言ったはずだ、慎重さや高邁な考えで行動している場合ではないと。知恵など戦士が戦いで栄光を得るためのものではない。」
アグリラスは静かに答えました。
「少々の恥や名誉の精神は場違いなものではないでしょう。勝っているときこそ神を恐れ、無闇に危害を加えないことです。王冠と王帯はあなたのような人をたくさん見てきましたが、長くは続かないものです。」
激昂したアフラシヤブは答えのために剣を抜き、そして弟を腰への一撃で二つに切り裂きました。

ザールはアグリラスに起こったことを聞いて言いました。
「アフラシヤブの幸運は翳り、王座は荒れ果てた。」
彼は漆黒のラッパを吹き鳴らし、太鼓を戦象に括り付け、雄鶏の目のように色とりどりに輝く大軍を率い、怒りに燃えてパース[を経由してレイ]に向かいました。
アフラシヤブはザールが軍を動員したことを知ると、王都レイの防衛に備えました。
両軍の前線部隊は昼夜を問わず戦い、砂塵にまみれて全てが同じ色に変わりました。多くの戦士や首領が両軍で殺されました。
このようにして2週間が過ぎ、馬も戦士も闘いに疲れ果ててしまいました。

ある夜、ザールは指揮官たちと話し合って言いました。
「我ら戦士は十分な勇気と幸運を持っているが、古の伝承に精通している王族のシャーが必要だ。
軍隊は船のようなもので、玉座に座る王は風であり、船の操縦者でもある。
ゴスタハムもトゥスも立派な戦士だが、どちらも王冠と王座にはふさわしくない。幸運に恵まれ、神から王威(ファール)を授かり、知恵のある王が必要だ」。

彼らはファリドゥンの子孫の中から、王位にふさわしい人物を探しました。それはファリドゥンの血筋、タフマスプの子ザヴでした。カレンは、神官や諸侯とともに、王位継承の吉報を彼に伝え、ザヴはそれを受け入れました。


14□□タフマスプの子ザヴの治世□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
ザヴは吉日に即位し、ザールは彼に忠誠を誓いました。ザヴは80歳の老人でしたが、その治世の間に、彼は正義と善意で世界を若返らせました。
軍隊が犯罪を犯すのを止め、軍が勝手に人を逮捕して殺すのを防ぎ、心の中で神と交信しました。
その頃、日照りが続き、地面は乾燥し、植物は枯れ、世界は飢饉に苦しんでパンは金に等しい価値がありました。両軍は8ヶ月間対峙していましたが、飢饉のために戦力が低下しており戦うことはありませんでした。将兵たちは「この災いが天から降ってきたのは、私たちのせいだ」と言い合いました。両軍から飢えの叫びが聞こえ、アフラシヤブからザヴに講和の使者が遣わされました。
「この儚い世界での我々の運命は、苦痛と悲しみだけである。国土を分割し、互いに神の加護を呼び起こそう。将兵たちは戦争で疲弊している。この飢饉は、和平を結ぶのを遅らせてはいけないという意味だ。」

彼らは、心の中で互いに憎しみを抱かないこと、先例に従って正当に土地を分割すること、過去に遡って互いに恨みを抱かないことを誓い合いました。オクサス川を越えて中国とホータンまではアフラシヤブのものであり、ザヴとザールはトゥラン人の天幕が張られている国境を越えず、トゥラン人はイランに進出することはない、と。

ザヴは老いていましたが、彼の統治で世界は一新され、彼は軍を率いて[戦場であったレイから]パースに向かい、ザールはザヴォレスタンに戻りました。
ほどなくして山々の頂は雷鳴に包まれ、小川は水の流れで満たされ、世界は再びの色と香りを取り戻しました。もし男たちが虎のような性質を持たなければ、大地は若い花嫁のように美しく、彼らに手ひどい仕打ちをすることもないのです。
ザヴは貴族たちを集めて神に感謝しました。各地で祝祭が催され、人々は怒りや恨みの心をすべて空にしました。そして、5年の歳月が流れました。ザヴが86歳になったとき、その太陽のような顔は翳り、高潔な男は死に、イランの幸運は失われました。
 

15□□シャー・ガルシャスプの死をトゥランが知る□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 
ザヴにはガルシャスプという息子がいて、王位を継ぎました。彼は威厳と優雅さをもって支配しました。
ザヴが世を去ったという知らせがトゥランに届いたとき、アフラシヤブは好機再来とみて出兵を考えました。しかしトゥラン王パシャンからの沙汰はありませんでした。
パシャンは、アフラシヤブの撤退以来、政をおろそかにし剣を錆びつかせて、イグリラスの死を悲しんでいたのです。アフラシヤブは月々に使者を派遣しましたが、何ヶ月も何年も、パシャンはそれを拒絶しました。一度だけ出した返答はこのようなものでした。
「どんな王子が王位に就いても、イグリラスのような思慮深い腹心がいれば、彼に利益をもたらしたはずだ。私はお前を敵との戦いに送り出したのに、お前は弟を殺し、鳥に育てられたあの野蛮人から逃げ出した。二度と会うことはない。」

こうして、しばらくの間、月日は流れました。
9年の治世の後、ザブの子ガルシャスプが世を去ったとき、「王の座は空位である」という知らせがすべての耳に届きました。
そしてパシャンが投げた石がアフラシヤブに届けられました。
「オクサス川を越えよ。王座が満たされないうちに。」

オクサス川とシパンジャブ平原の間で、アフラシヤブは軍備を整え、壮麗な軍勢は戦場へ向かいました。
アフラシヤブが王位を主張したという知らせがイランに届くと、人々はザールに向かい、厳しい口調で話しかけました。
「あなたの統治はずいぶんと手ぬるかったのではないでしょうか。サーム殿が亡くなりあなたがザボレスタンの王者になってから、私たちは一日も幸福な日を知らない。
軍隊がオクサス川を渡り、私たちに迫っています。この危機を解決する方法があるのなら、それを実行に移してください。トゥランの指導者はすぐにやってくるでしょう。」

ザールは貴族たちに言いました。
「初めて剣帯を締めて以来、私は日夜戦ってきた。誰も私の剣やメイスを振るうことができないほど、比類ない騎士であった。たったひとつを除き恐れるものは何もなかったが、とうとう、それ―老い―により背中が曲がり、かつてのようにカボルの短剣を振り回すことができなくなってしまった。
今、ロスタムは背の高い糸杉のように成長し、栄誉ある騎士章を授かるにふさわしい。彼には軍馬が必要なのだが、アラブ馬よりも遥かに大きな馬を探さなければならない。私はあらゆるところに問い合わせてみるつもりだ。ロスタムに私の計画に同意するかどうか尋ね、彼がトゥールの一族と戦うために生まれてきたことを思い出させる。彼がその任務に耐えられるかどうか、見てみよう。」

イランのすべての都市は彼の言葉を聞いて喜び、ザールは四方八方に使者を送り出し、ロスタムのために鎧を作らせました。

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f102v 104 RECTO  Zal slays Khazarvan  ザールがカズヴァランを斃す MET, 1970.301.15 MET  
f105v 105 RECTO  Afrasiyab on the Iranian throne  アフラシヤブ、イラン王位につく  MET, 1970.301.16 MET 本のp140

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●104 RECTO  Zal slays Khazarvan  ザールがカズヴァランを斃す
〇Fujikaメモ:
ザールとカズヴァランの対戦が中心にあって、わかりやすい構図です。
ザールが、心なしか若いような。この14年後に引退を考えるので、もうちょっと顎髭のある壮年に描いてもいいような。
カズヴァランの着ている濃いグレーの服は、もとは銀色の鎖帷子ではないかと思います。
双方、馬もフルの防具をつけています。

●105 RECTO  Afrasiyab on the Iranian throne  アフラシヤブ、イラン王位につく 
この細密画は、このプロジェクトでは手数の少ない画家E、バシュダン・カーラBashdan Qaraによるもので、この画家の古風で硬い作風の典型的なものです。確かに彼は熱心で熟練した職人であり、その装飾は素晴らしい。しかし、その人物描写には、例えばスルタン・ムハンマドの作品に見られるような活力がない。画家Eの顔は全体的に似ていて、目も焦点が定まっていないように見えることが多い。

〇Fujikaメモ:
アフラシヤブの金色の玉座は、ちょっと装飾が少なめでさっぱりしています。
その分、天蓋の内側のアラベスクとフェニックスの模様が繊細で豪華。天蓋の垂れ布は大柄なのですね。



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