採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャーナーメ:11. ロスタムとカイ・コバド(上)

2023-04-22 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

前回、ロスタムが愛馬ラクシュと出会いました。
そして今回から、ロスタムとラクシュの活躍が始まります。これ以降のロスタムは、ほぼどの絵にも共通して白豹の頭の兜、茶色の虎皮の上着を身につけています(こういう、キャラ独特の衣装があるのはロスタムくらいです)。
この章は、隠棲していたカイ・クバドが見いだされ帝位につき、イラン・トゥランが闘って、和平を結ぶという内容ですが、ちょっと長いので上下2編に分けました。

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11. ロスタムとカイ・コバド(上)
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■登場人物
ザール:ザボレスタンの王。生まれつきの白髪。
ロスタム:ザールの息子。 Rustam
カイ・クバド:イラン王ファリドゥンの末裔。アルボルツ山脈に隠棲している。Kay Kawad / Kay Qobad

アフラシヤブ :パシャンの息子。イラン軍総大将。
パシャン:トゥラン王
クルン:トゥランの戦士。Qulun

 

■概要
イランのシャー・ガルシャスプ(治世9年)の死後、帝国の王座が空位になったのを好機とみて、トゥラン王パシャンが再び息子アフラシヤブをイランに侵攻させます。
迎え撃つザールは、準備万端戦力を整え、戦場で位置につきますが、部隊の要となるシャーがやはり必要だと考えます。
そこで息子ロスタムら騎兵をアルボルツ山脈に送り、予言者の示したカイ・コバドを探させます。
ロスタムは道中出会ったトゥラン兵を難なく蹴散らして進み、アルボルツ山麓の水と緑に恵まれた場所に、楽しげに暮らすカイ・コバドとその朋輩をみつけ、ザールのもとに連れ戻ります。
帰途、トゥラン戦士クルンの率いる軍勢と出会い、ロスタムはクルンを槍で刺して持ち上げるという見事な勝利を収めます。
カイ・コバドは、イラン貴族、諸侯たちの合議で認められ、シャーに即位します。
そしてただちにトゥランとの戦いの準備にとりかかります。

■ものがたり

1□□ザールの出陣

ザールが象の背中から、ザボレスタンの平原の何キロも先まで聞こえるような鬨の声をあげました。太鼓や喇叭、インドの銅鑼、象の嘶きが鳴り響き、まるで大地が死者に「起きろ」と叫ぶ審判の日がやってきたようでした。
ロスタムが先陣を切り、熟練した戦士たちが続きました。彼らが出発したのは春で、世界は花々で満たされていました。

アフラシヤブは、宴と休息の日々から目覚め、小川と葦の間の草原に沿ってレイのカールを目指して進軍しました。

イラン軍は砂漠を出て戦場に向かい、両軍の間は2里だけとなりました。ザールは老練な指揮官たちの会議を招集し、彼らに言いました。
「知恵あるもの達よ、練達の戦士達よ。我々はここに十分な軍勢を配し、有利な条件を備えている。しかし、王座にシャーがいないため、私たちは以前のように心を一つにすることができない。王位につき、権威の帯を締める王家の血筋の者が必要だ。
ある司祭が、そのような王について教えてくれた。ファリドゥンの子孫であるカイ・コバドだ。彼は優雅で気高く、正統な権利を兼ね備えている、と。」

そして、ザールはロスタムに向かい、こう言いました。
「今すぐメイスを持ち、仲間を選び、アルボルツ山脈へ急行せよ。
カイ・コバドを探し、丁重に挨拶し『全軍があなたを求めており、王位を用意しています』と言いなさい。そしてなるべく早く戻るのだ。」

2□□ロスタムがアルボルツ山からカイ・クバドを連れてくる

ロスタムはひれ伏してまつ毛で地面を掃き、ラクシュの背に乗り、仲間とともにカイ・クバドを探しに勇んで駆け出しました。

トゥラン人の前衛部隊が道を堅く守っていましたが、ロスタムは勇敢な部隊を率いて立ち向かいました。
ロスタムは雄叫びを上げて牛頭のメイスを振るい、多くのトゥラン兵を打ちのめしました。
彼らは怯えて逃げだし、アフラシヤブのもとに戻り涙ながらに事の次第を報告しました。

アフラシヤブはこの件を憂い、手練れの戦士クルンを呼び、彼に言いました。
「精鋭の騎兵を選び、その軍勢を阻め。ただし慎重に見張って進むのだ。あの鬼畜のイラン人は不意打ちをかけてくる。」
クルンは手強い敵の行く手を塞ぐため、戦士達と力強い象を従えてトゥランの本陣から出発しました。

ロスタムは新しい王を探しに進みました。そしてアルブルズ山から1マイルほどのところに、水と豊かな樹木がある素晴らしい住処を見つけました。若衆たちのための家です。
川辺には、薔薇水と純粋な麝香で飾られた玉座が置かれていました。
月のような若者が日陰の玉座に座り、色とりどりの衣服を着て腰に帯を巻いた多くの貴人が楽しげで優雅な雰囲気を醸しだし、楽園のような宮廷を形成していました。

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●玉座に座る若者

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●花が咲き乱れる川辺で楽を奏で楽しむ貴人たち 110v

ロスタムが近づいてくるのを見て、彼らはにこやかに挨拶に来て言いました。
「誉れ高い戦士よ、通り過ぎてはいけません。我々はもてなし役であり、貴方は我々の客人です。
下馬して、我らと愉快に歓談しましょう。高名な戦士であるあなたに葡萄酒で乾杯させて下さい。」
しかし、ロスタムは答えました。
「畏れながら申し上げます。私はアルブルズに人を探しに参ったのです。
イランには敵が迫り、民の嘆きは避けられません。急がねばならないのです。私は王座が空白である間は楽しむことはできません。」
彼らは言った。
「もし、あなたがアルブルズへ向かうのなら、誰を捜しているのか教えて下さい。私たちは、その地から来た騎兵であり、貴方を案内できるかもしれません。」

ロスタムは答えました。
「我らがシャーがそこにいるのです。その名はカイ・コバド。ファリドゥンの種から生まれた、正義と繁栄の男です。もし知っているのなら、私を彼のところに案内してください。」

月の若者が言いました。
「私はカイ・コバドのことを知っています。もし、あなたが私たちの宴席に加わって下さるならば、私はあなたをその人のもとに案内しましょう。」

これを聞いたロスタムは風のように馬を降り、水辺に急ぎ、人々が日陰に座っているところに向かいました。若者は金の玉座に座り、ロスタムの手を握ってゴブレットを満たし、「自由に乾杯!」と言いながら飲み干しました。そして杯をロスタムに渡し、こう言いました。
「誉れ高き戦士よ、先程あなたは私に尋ねましたが、コバドについて、その名をどこで知ったのですか?」
ロスタムは答えました。
「イランのパラディンたちが、カイ・コバドを国王に指名したのです。
もしあなたが何か知っているならば教えて下さい。彼を急いで連れて行かなくては。」

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●カイ・コバドについて訊くロスタムと玉座の若者 110v

王座の青年は微笑みながら答えました。
「私がカイ・コバドです。ファリドゥンから続く父祖の名前を、皆言うことができます。」

ロスタムはこれを聞くや、座っていた椅子から立ち上がり、ひれ伏して公式の口上を述べました。
「全ての統治者を統べる者よ。勇者の庇護と長者の滞在よ、イランの王座が貴方の意思を待ち、大象と軍隊が貴方の命を待っています。
汝の右の座は王の中の王の座であり、恩寵と栄光が汝のものでありますように!
領主であり勇敢なパラディンであるザールから、地上の王への挨拶を持ってきました。
もし今、国王がこの奴隷ロスタムに話すよう命じるならば、私はザールのメッセージから解放されます。」

カイ・コバドはロスタムが語る間、席を立ちその言葉に集中しました。
若い王子は胸を躍らせながら「杯を持て」と命じ、ロスタムの健康を祈り、ロスタムも君主の命を祈って葡萄酒を飲み干しました。

楽器が奏でられ、赤葡萄酒が回って、若々しいシャーは頬を上気させてロスタムに言いました。
「かつて私は夢の中で2羽の白い鷹がイランから近づいてきて、太陽のように明るい王冠を持ってくるのを見たのです。彼らは優しく羽ばたいて私のところにきて、頭にその冠をかぶせました。
私はその明るい王冠と白い鷹のおかげで希望に満ちて目覚め、この川辺に王が持つような宮廷を作ったのです。
そして今日、その白い鷹のように、比類なきロスタムが私が戦士の冠をかぶるという知らせを携えてやってきました。」
ロスタムはそれを聞いて言いました。
「その夢は予言だったのでしょう。さあ、立ち上がってイランと指揮官たちのところへ旅立ちましょう。」
カイ・クバドは火のように素早く立ち上がり馬に乗りました。ロスタムもまた風のように武具を身につけて、一行は誇らしげに旅立ちました。

昼も夜も彼らは進み、トゥラン人の前線基地まで来て対決することになりました。

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●トゥランの軍勢 111v

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●イランの軍勢 111v

戦士クルンが彼らの来訪を知り、戦おうと進んできました。
カイ・コバドは戦いの態勢を整えようとしましたが、ロスタムが彼に言いました。
「シャーよ!これはあなたのための戦いではありません。この赤銅のラクシュに跨がってメイスを持った私に、誰が立ち向かえるでしょう?」

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●カイ・コバドを制して進むロスタム 111v


そしてロスタムは拍車をかけ、メイスの一撃で敵のひとりを馬上から突き落としました。
その強靱な手は次から次にメイスを振るい、落馬した敵は頭や首や背中を砕かれ、ひとりは脳みそが鼻孔から流れるほどでした。

メイスを手にし、鞍に投げ縄をつけ、解き放たれたディヴのように駆けるロスタムを見て、クルンは風のように彼に突進し、槍で彼の帷子の留め金を突き破りました。しかしロスタムは、クルンが油断した隙にその槍を掴んでもぎ取り、彼に槍を突き立てました。
そして雷鳴のようなうなり声をあげ、その槍を持ち上げて彼を鞍から宙に持ち上げ、槍の尻を地面に突き立てました。
クルンはまるで串に刺された鳥のように見えました。

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●ロスタムがクルンを串刺しにする 111v

勝利者はラクシュに乗り、彼を踏みつけて死に至らしめました。
トゥランの騎馬隊はクルンを戦場に残し、逃げ出していきました。

ロスタムらは前哨基地を通り過ぎ、丘に向かって急ぎました。
ロスタムは草と水のある場所に降り立ち、夜が明けるまでに、王者にふさわしい衣服、馬、冠を用意し、そうしてからザールにカイ・コバドを紹介しました。

一週間の間、ザールと神官や指導者達は会議をしました。そして「コバドの右に出る者はいない」というのが全員の一致した意見でした。7日間、彼らはコバドと共に喜び宴を楽しみました。

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f110v 110 VERSO  Rustam finds Kay Qubad  ロスタムは(ファリドゥンの子孫)カイ・コバドを見つける  個人蔵 Hollis 本のp145
f111v 111 VERSO  Rustam spits Qalun on his own spear  ロスタム、トゥラン戦士クルンに自分の槍を突き刺す Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran Hollis  

 

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●110 VERSO  Rustam finds Kay Qubad  ルスタムは(ファリドゥンの子孫)ケイ・クバドを見つける 
 この鮮やかな彩色の細密画は、アカ・ミラクの作と推定される。アカ・ミラクは、10年ほど後に、1539-43年の大英博物館のカムセーに、同様のデザインと彩色の絵を制作している。この作品では、スルタン・ムハンマドによるこのプロジェクトのためのスケッチに匹敵する、やや単純化されたスタイルで描かれています。音楽家が演奏する中(左)、歓迎されるルスタム。虎皮の衣の肩には陽と陰のマークが描かれていますが、このモチーフは大英博物館のカムセ(ニザミ)にも描かれており、シャー・タフマスプの廷臣に扮したケイ・クバードの従者(上)が、野外で人生を楽しんでいる様子が描かれています。

〇Fujikaメモ:
清らかな水が流れ、草花が咲き乱れそこここに木陰がある場所で、気の合う若い男性だけで酒を飲み音楽を奏で語らって楽しく暮らす、というのは、イラン的に理想郷のようなものだと思われます(日本でもかな?)。
この絵はそんな理想郷の雰囲気がよく出ている気がします。(ほぼ全員がひげのない若者です)
(カイ・コバドは、晩年、この仲間たちと都に入ったときのことを懐かしみます。)

玉座に座っているのがカイ・コバドで、ロスタムは、そのそばに立つ人物。この絵で初めて、ロスタムのトレードマーク、白豹の頭の兜、茶色の虎皮の上着を身につけています(こういう、キャラ独特の衣装があるのはロスタムくらいです)。

カイ・コバドが名乗った後は、もっとひれ伏している気がするので、その直前、「カイ・コバドを探しているのですが」と言う場面かな、と思いますが、違うかな。
この場面でのロスタムは、本来はまだ初陣前の若い(ひげのない)状態だと思うのですが、この絵ではヒゲをもった成年に描かれています。(次の絵ではヒゲがなくなる)
描かれている食べものは、小姓が掲げているザクロ(コバドの左手側に座る貴人達の前にも)、そして画面右下で焼いている、鶏?の丸焼き、でしょうか。鶏丸焼きのそばでは、配膳係?が青花模様の磁気の皿とフタを持って控えています。
玉座の足許付近の地面、ザクロをかかげている青年の前方に、大きなお盆があって、白い三角形の山盛りのものが3つ?ありますが、これは何でしょうね。

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●111 VERSO  Rustam spits Qalun on his own spear  ルスタム、イラン戦士クルンに自分の槍を突き刺す
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
前景には銀(いまは黒)の小川と密に生えた草花、その後ろは砂色の地面に、ぽつぽつと花。
これを背景に、白豹の兜、虎皮の鎧に身を包んだロスタムがクルンを槍に刺して持ち上げています。
(ここでのロスタムは童顔)
その後ろにはイラン、トゥランの両軍。
どちらがどちらかよく分かりません・・・。一応、右側のロスタムの後ろ(赤い旗)がイラン、左側のクルンの後ろ(黒い旗)がトゥランとしましたが、逆かも・・。

ところで、右側の軍勢の中に変わった風貌の人が。

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この絵の中央左。顔色が薄紫色1? 顔の形もゴツゴツして他のひととは違ってるし(妙にエラが張ってる?)、画像が悪いせいかもしれませんが目もよく分かりません。
この人だけ、ある民族の人をリアルに描いたのかもしれませんが、それにしても顔色が紫・・。

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