採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャーナーメあらすじ:4.イライの物語

2022-12-19 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

年末の掃除とかはうっちゃって、ちまちま書き進めてみました。
楽しんで頂けますかどうか・・・。

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3.ファリドゥンと三人の息子達
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■登場人物
ファリドゥン:ザハクを倒してイラン王になった。在位500年。
サルム:ファリドゥンの長男。母はイラン王女シャーナーズ。 Salm
トゥール:ファリドゥンの次男。母はイラン王女シャーナーズ。Tur
イライ:ファリドゥンの三男。母はイラン王女アルナヴァズ。 Iraj
マー・アファリド:イライの後宮の女奴隷のひとり。イライの娘を産む。
パシャン:ファリドゥンの兄弟の息子
トゥラン(地名):トルコおよび中央アジアの古称 Turan
ルーム(地名):広義では西方。ビザンチン、もしくは更に西のローマまでを指す。Rum
チン(地名):中国および東方  Chin

■概要
シャーナーメ全体を通じて存在するのが、イランとトゥランの王国間の対立構造(戦争)です。
その因縁の始まりとなったのが、このイライの事件。あらすじにしてしまうと箇条書き4行で終わるのですが、原文はたっぷり長さをとってあり、折角なのでそれに近い感じにしてみました。
(なお、イライの子孫を産むのは、前回ヤマンで貰ってきたお嫁さんではありません。)
この話の中で、何度もメッセージのやりとりが行われますが、手紙を託して本人に渡す(読んでもらう)という場合もありますが、使者が内容を暗記して、相手の前でそれを語る、というのが結構あるようです。そしてメッセージは、冒頭には麗々しい挨拶があり、内容も、今回日本語にしてみた分の2倍くらいの長さで凝った表現が。大仰で「英雄の時代」らしいし、イスラム的文化も感じられるのですが、だいぶ省略しました。(韻文だとくどくどした長い表現もまた耳に快いのかもしれませんが)。
怒りの表現として、日本語だと「頭」に血が上ると言ったりしますが、イランでは「肝臓」を使うようです。日本語の「腸が煮えくり返る」に近いかな。
この部分の挿絵は、見開きごとに1枚ずつあって、7枚。本の冒頭からずっと、ページを繰るごとに挿絵がある形です。(ペルシャ語は横書きですが右から左に進むので、本の構造は日本語の縦書きの本と同じです。そしてこのシャーナーメは、これまでのところ見開きの右側が絵になっています。)


■ものがたり

□□□□

ファリドゥンは息子達の運勢を占い、末息子イライの未来に陰りがあることを知りました。
そのため王国を分割して悲劇を回避しようとしました。

ルームと(ビザンチン)西方一帯は長男サルムのものとしました。
トゥランとチン(中央アジアと東方全体)は次男トゥールに与えられました。
イランとヤマンは末息子イライのものとしました。そして、王冠と剣、印璽と象牙の玉座は、イラン王である彼に与えました。
三人の王子はそれぞれの王座に座り、時は流れました。

□□□□

やがて偉大なファリドゥンは年をとってきました。父が衰えるにつれ、息子達の威勢は増していきます。
サルムは次第に傲慢になり、父から与えられた分与と、輝かしいイランの王座が末弟に与えられたことに不満を募らせるようになりました。
彼は怒りにゆがんだ顔で、拳を震わせて言伝を語り、弟であるチンの王トゥールのもとへ特使を急がせました。
メッセージは、彼の長寿と幸福を祈り、こう続きます。
「我々は受け入れがたい不当な扱いを受けた。
私たちは3人の兄弟で、みな王位にふさわしい者ばかりだったが、その中で何故か一番若い者が幸運に恵まれた。
私が一番知恵にすぐれ、年も上なのだから、その資格は私にあるべきだ。
王冠、王座、王権がもし私から離れたとしても、それは次男であるあなたのものであるべきではないだろうか? 父王は英雄の国ペルシャとヤマンをイライに、西域を私に、そしてトゥランとチンをあなたに与えた。一番若いものがイランを統べるなんて、父は頭がおかしかったにちがいない。私たち二人は、父の決断を悲しむべきなのだ。」

使者から兄の言葉を聞いた勇ましいトゥランは、怒れる獅子のように躍り上がって言いました。
「お前の主君にこう伝えよ。
『正義の主君よ、父は息子たちが若かったのをいいことに我々を欺いたのだ。これは彼の手で植えられた木であり、果実は血で、葉はコロシント(瓜。苦い薬)だ。我々は会ってこのことについて話し合い、行動方針を決め、兵を挙げようではないか。ぐずぐずしている場合ではない!」

使者はこのメッセージを持ち帰りました。
かくして蜜に毒が混ぜられ、東方と西方の2人の兄弟は一緒に会い、どう行動すべきかを議論しました。

□□□□

彼らは、聡明で洞察力があり機転のきく神官を選び出し、使節にしました。
そして父ファリドゥンへのメッセージを覚えさせました。

「聖なる神は父上に世界を授けました。しかし父上は神の命令に耳を貸さず、気まぐれな行動を選び、正義の代わりに軽蔑と詐欺で息子たちに報いたのです。
父上には、かつて賢く、勇敢で、若い三人の息子がいました。どの一人にも他の者がひれ伏すほどの卓越性は見られなかったのに、上の二人を粗末に扱い、末息子に冠を授けました。彼は今、父上の寝椅子に寄り添いますが、彼と同じ程度の生まれである我らは王位に値しないとされたのです。
この世界の公正な裁判官と君主よ。
このような正義が決して祝福されることがありませんように。 
もし、彼の無価値な頭から冠を下ろし、世界が彼の支配から救われ、あなたが彼に、我々が苦悩と忘却の中に座っているような世界の一角を与えるのでなければ、我々はトルクマンの騎兵とルームやチンの勇敢な戦士、メイスの使い手の軍隊を、イランとイライへの復讐のために連れてくるでしょう」。 

この厳しいメッセージを聞いた神官は、地面に口づけをすると、風に乗って火のように素早く出発した。

フェリドゥンの城に近づいてみると、それは山のようにそびえ立ち、頂きは雲間に隠れるほどでした。
門の前には廷臣が座り、幕の向こうには最高位の者、一方にはライオンやヒョウがつながれ、他方には猛々しい戦象がいました。立派な戦士の一団から上がる声は獅子の咆哮のようで、使者は、「ここはまるで宮廷ではなく天国に違いない」と思いました。「周囲の軍隊は妖精の軍勢だ!」


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●ファリドゥンの宮廷のライオンと豹

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●ファリドゥンの宮廷の戦象

 

馬を降りて宮廷に入り、ファリドゥンの顔を見た使者は、シャーに魅了され、ひれ伏して地面に口づけしました。
身体はすらりとして糸杉のよう、その顔は太陽のよう、その白髪は樟脳のよう、その頬はバラ色、その微笑んだ唇、慎ましい表情、そして王家の口は、優雅な言葉を口にします。

王は彼に、立ち上がって彼にふさわしい名誉ある席に座るよう命じ、まず高貴な二人の兄について尋ねました。
「彼らは健康と幸福を楽しんでいますか?」
そして次に使者自身について。
「丘や平地の長旅で疲れたのではないでしょうか?」

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●ファリドゥン


使者は答えました。
「陛下!私は奴隷に過ぎず、この身の主人ではありません。
私が携えた陛下への伝言は、怒りに満ち苛烈なものですが、これは私の落ち度ではありません。もし、陛下が命じるなら、私は2人の無分別な若者が送った伝言をお伝えいたします。」
王は彼に話すように命じ、使節が一語一語伝えるのを聞きました。

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●サームとトゥールからの使節

ファリドゥンは怒りに燃えて言いました。
「 二人の愚か者にこう告げよ。
 『お前達の本性をこうして明らかに知ることができてよかった。そしてそういうお前達にふさわしい挨拶を送ろう。
息子たちよ、お前達は私が与えた忠告を忘れ、知恵の痕跡も残っていないようだ。かつて私の髪は漆黒のごとく、背筋は糸杉のごとく、顔は満月のごとく輝いていた。しかし、空は回り、私の背中を曲げた。時はお前達の背中も曲げるだろうし、またその時すらも永遠ではないのだ。

私は神の名において、大地、太陽、月、王冠、王座に誓う、私がおまえ達にしたことは正当であった。私は、星々を知り空を理解する賢者達を会議に召喚し、長い年月をかけてあなたの価値を測り、地球の国々を割り当てた。公平であり悪意などなかった。なのにアーリマンがお前の心と頭を満たしている。
今、自らに問うてみよ。 神はお前達が立てた計画を受け入れてくれるだろうか?
覚えておきなさい、お前達はいずれ自分がまいた種を刈り取ることになる。このはかない世界は、私たちが永遠に住むように運命づけられている世界ではないのだ。
妄執や野心から解放された心にとっては王の財宝も塵のようなものだ。お前達のように、価値のない塵のために兄弟を売る者はどうなるか分からないのか。
世界はおまえ達のような人を沢山見てきたし、これからも見るだろうが、誰一人報いを免れたものはない。お前達にできるのはただ神に立ち返ることだ。』」

使者はその言葉を聞くと、地面に接吻して背を向け、風のように素早くファリドゥンの宮廷を後にしました。そして帰国し、サルムとトゥールにその言葉を伝えました。

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●戻ってきた使者の話を聞くサルムとトゥール

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●ファリドゥンからの伝言を伝える使者


サルムの使者が去った後、ファリドゥンはイライを呼び寄せ、何が起こったかを告げました。
「地の果てより、我が二人の息子は戦争を宣言した。もし戦う用意があるならば、宝物庫を開き、兵を備えよ。」

イライは、父を見つめながら言いました。
「報復は王の道ではなく、何があろうと私は悪を行いません。 王冠と王座が私にとって何の意味をもちましょうか? 武器を持たずに行って兄達に挨拶し、恨みを忘れるように言いましょう。 穏やかな対話は、怒りや敵意に満ちた報復に勝るでしょうから。」

ファリドゥンは答えた。
「私の賢い息子よ、私は、月が月光を放つことに驚いてはいけないという言葉を思い出す。お前の答えは高潔で心は愛で満たされている。
しかし、わかっていながら竜の口の中に頭を入れる者はどうなるだろうか。きっと毒が彼を滅ぼすだろう。それが龍の性質なのだから。我が子よ、これがあなたの決断なら、覚悟を決めて、あなたの軍隊から数人の仲間を選んで同行させなさい。哀しみの中で私はお前の兄たちに手紙を書こう。お前が安全に帰還し私の目を喜ばせることが出来るように。 」

□□□□

王はルームの王とチンの王に手紙を書きました。彼は、永遠の神への賛美で始まり、こう続けました。
「この手紙は、天を照らす二つの太陽、二つの戦の主、王の中の二つの宝石に助言するもので、世界を経験し、その秘密を解明し、夜を昼に変え、メイスと剣を振り回し、あらゆる困難を克服した者からのものである。
私はもう王冠をかぶることも、財宝を集めることも、王座を占めることも望んでいない。私はもう十分に苦しんだし、ただ3人の息子の幸せだけを願っている。
あなた方の弟は、あなた方への敬意と愛のために王権を辞し、今、玉座ではなく鞍に座って、末の弟として兄たちのもとに駆けつけている。
どうか彼を大切に扱い、数日一緒に過ごしたら、無事に私のもとに返してくれ。」

その手紙に王の印が押されるや、イライは宮殿を飛び出していきました。必要最小限の仲間を連れての旅でした。
イライたちが到着すると、サルムとトゥールの軍勢が出迎え、兄王たちのところに案内しました。
見つめ合った三人のうち、二人の顔は憎しみ満ち、一人の顔は慈愛に満ちていました。
三人は司令官用の天幕へと向かいました。

軍勢の目はイライに注がれ、彼が王位と王冠にふさわしい人物であることを隊員たちは見抜きました。若い皇子の気高い姿に心を動かされた彼らは、「イライ殿こそ皇帝にふさわしい、彼以外が治めてはいけないと」、互いに噂し、賛美し合っていました。

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●(イライを賛美して噂する)サームとトゥールの兵士達

それを盗み見ていたサルムは、兵士たちの反応に腸が煮えくり返る思いでした。憤怒に満ちて馬に乗り、肝臓には血が上り、眉間には深いしわがありました。
彼は自分の天幕にトゥールを呼び、相談しました。
「我ら両軍の兵は、帰ってきたとき、イライを迎えに行ったときとは違って、ずっと奴を見つめている。彼らは今後、イライ以外を王と呼ぶことはないだろう。
今、この成り上がりを根絶やしにしなければ、 イライは私とあなたを王座から引きずり下ろすだろう。」
二人は決心し、夜通しその方法について話し合いました。

□□□□

ベールが太陽から取り除かれ、夜が明けて眠りが過ぎ去ったとき、二人の心は決まっていました。
そして、自分たちの天幕からイライの天幕に向かって大股で歩いて行きました。イライは二人が近づいてくるのを見て、優しさに包まれ、駆け寄って二人を出迎えました。三兄弟はイライの天幕に入り、会話を交わしました。

トゥールは言いました。
「お前は私たちより若いのに、なぜ一番重要な王冠を与えられたのか?お前はイランとその富、王国の王位と王冠を手に入れたのに、私はトゥラン人を支配して苦労し、兄上は西方で苦難を強いられているのだ。」

トゥールの言葉を聞いたイライは、曇りない口調で答えました。
「栄光ある兄上、あなたの心に平安が戻りますように。
私はイランも、ルームも、チンも、世界のどこの国の権威も欲していません。
どのような栄華を極めた人も最後には、煉瓦を枕にすることになるのですから。
私はイランの王位にありましたが、もはや王冠にも王座にも畏れを抱いており、この両方を兄上達に譲ります。どうか私を憎まないで下さい。私は兄上の臣下であること以外には何も望みません。」

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●語り合うトゥールとイライ

トゥールはこの言葉を聞きましたがほとんど気にかけませんでした。
そして叫びながら立ち上がり、突然前進して自分が座っていた金の椅子を掴み、イライの頭上に打ち落としたのです。

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●椅子をふりあげるトゥールとそれを見るサルム


イライは必死で命乞いをしました。
「兄上、あなたは神を恐れず、父上をも敬わないのでしょうか。どうか私を殺さないでください。自分を人殺しにしないでください。私はもう二度と兄上にお会いしませんし、世界の片隅でひっそり暮らしていきます。
弟の血を流し、父上の心を苦しめるような罪を犯してまで、あなたは世界を手に入れたいのでしょうか? 既に全てを持っているのに。これは神に逆らう行いです。」


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●凶事が行われている天幕のそばで咲き乱れる花


トゥールはその言葉を聞きましたが、何も答えません。 彼は隠し持っていた短剣を抜き、イライの頸を切りつけ、その体は血の衣に包まれました。鋭い刃は胸を貫き、すらりとした糸杉は倒れ、花蘇芳の顔に血が流れ、こうして若い王子は死んだのです。

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●トゥールに斬られるイライ

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●驚く家来たち

トゥールは短剣でぐったりした王子の頭を切り落とし、樟脳と麝香を詰めた筺におさめ、老いた父にこのようなメッセージを添えて送りました。

「あんたの愛する者の首を見ろ。先祖の王冠を受け継ぐ者。王冠も王座もお望みのままに。」

そして二人の不義の兄弟は、一人はチンに、一人は西方に、怒りを胸に抱いたままそれぞれの国へ帰っていきました。

□□□□

ファリドゥンは道を見張り、軍隊は彼と一緒に若い王の帰還を待ち望んでいました。父はトルコ石の玉座と宝石をちりばめた王冠を用意し、酒と楽人を用意し、太鼓を象に乗せ、町中を飾り立てて歓迎の用意をしていました。
ファリドゥンたちがその準備に追われていると、道の上に土煙が上がり、その中から一頭のラクダが現れ、そのラクダには嘆き悲しむ使者が乗っていて、その脇には筺が括りつけられていました。この男は、ため息をつきながら、泣きながら、そして灰にまみれた顔でファリドゥンの前に現れました。

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●イライについて報告する従者たち


その言葉と態度に愕然とした王は、筺の蓋を開けて中の絹の布を引き寄せると、そこには切断されたイライの首が現れました。ファリドゥンは砂塵に倒れ、兵士たちは悲しみのあまり服を引き裂きました。このような形で帰って来た皇子のために歓迎の宴は乱れ、旗は破れ、太鼓は逆さになり、貴人達の顔は黒檀の色に変わりました。
象や太鼓には黒い布がかけられ、アラブの馬には深い青が塗られました。 王は悲しみのあまり泣き崩れ、後宮の女たちも自分の髪を引きちぎり悲痛な叫び声をあげました。

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●嘆く後宮の女たち

ファリドゥンは、幼い息子の頭を胸に抱いて、泣きながら庭に入りました。王座、そして二度と王冠を被らない息子の頭、澄んだ水が溢れる庭の池、花咲く木々、そよぐ柳、花梨の木を眺めながら、彼はこの祝宴の場を見ました。
彼は涙にくれて、薔薇の花壇を破壊し、庭に火を放ちました。

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●燃える庭

ファリドゥンは天を仰いで言いました。
「正義の主よ、この屠られた罪なき者、短刀に首を切られ、獅子に胴を食われた者を見よ。
彼の二人の不正な兄弟の心を焼き、彼らの人生には悲しみしかありませんように。内臓を焼き、野獣が哀れむほどの苦しみを味わわせよ。
神よ、私の願いはただ一つ、あと少しの時間だけです。私がイライの種から、復讐のために帯を締める子供を見るまで。それを見ることが出来れば、私は地面にあけた私の身長と同じ長さの穴に横たわりましょう」。



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●嘆くファリドゥン

彼はあまりに長く泣いたので、草は彼の胸まで伸び、地べたは彼の寝床、埃は彼の枕となり、彼の前に明るい世界は薄暗くなりました。

□□□□


時は流れ、ファリドゥンは、イライの後宮でイライがこよなく愛したマー・アファリドという女が身ごもったのを知りました。ファリドゥンは、その子が息子の死に対する復讐の手段になることを願い、喜びました。そして時は満ち彼女は一人の女の子を産み落としました。
その子は皆から大切に育てられました。 成長するにつれ、チューリップの頬をしたその可愛らしい女の子を見た誰もが「頭から足先までイライそのものです」と言うほどでした。

彼女が大人になると、髪は漆黒のようにつややかで、明星のように美しい娘となりました。
祖父は自分の兄弟の息子、パシャンを彼女の配偶者に選びました。パシャンはもちろん偉大なるジャムシードの家系、高貴な血筋の若者でした。
結婚した二人は幸せな時間を過ごしました。




■翻訳の参考資料
(2)をベースに、(1)も見比べつつ、時に混ぜ合わせてなるべく簡潔に短縮しています。
短縮するために原文にない言葉を補う時もあります。また絵と文章が矛盾するときは絵にあわせています。
これらはどうも底本が違うようで、細かい表現で結構違いがあります。

(1)ワーナー&ワーナー ペルシャ語からの全訳 全九巻
Arthur George WARNER and Edmond WARNER. ロンドン、1905
ペルシャ語韻文からの英語韻文への全訳。
Internet Archiveで全巻閲覧できます。
第1巻 第2巻 第3巻 第4巻 第5巻 第6巻 第7巻 第8巻 第9巻
こちらのサイトに前半の一部が転載されていて、htmlになっているのでブラウザ翻訳機能も使えます(改行が多いので翻訳がやや変)。

(2)デイヴィス 全3巻 ペルシャ語からの翻訳で基本散文、部分的に韻文。カラー挿絵多数
Dick Davis. The Lion and the Throne/Fathers and Sons/Sunset of Empire: Stories from the Shahnameh of Ferdowsi. 1998
第1巻:獅子と玉座  The Lion and the Throne  Amazon
第2巻:父と息子たち Fathers and Sons   Amazon
第3巻:帝国の落日  Sunset of Empire   Amazon





■シャー・タフマスプ本の細密画

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
非公開 43 VERSO  Faridun divides his kingdom  ファリドゥン、王国を分割する  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran 非公開  
f044v 44 VERSO  Faridun receives a message from Salm and Tur  長男サームと二男トゥールからのメッセージを受け取る父王ファリドゥン  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f045v 45 VERSO  Faridun replies to the threat of Salm and Tur  ファリドゥンがサームとトゥールへ返信する  個人蔵  
f046v 46 VERSO  Iraj offers to visit his brothers  末弟イライ、兄達を訪ねる  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f047v 47 VERSO  Iraj begs Tur for mercy  次兄トゥールに慈悲を乞う末弟イライ Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f048v 48 VERSO  Tur decapitates Iraj  トゥール、イライの首を切る  Cincinnati Art Museum, Cincinnati (Hamilton county, Ohio, United States) (inhabited place) 1985.87 / 『私の名は紅』(藤原書店)p482, p542
f049v 49 VERSO  The lamentation of Faridun  ファリドゥン王の嘆き  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  


■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)
●43 VERSO  Faridun divides his kingdom  ファリドゥン、王国を分割する 
〇Fujikaメモ:
これはweb上で見られるようなものがみつかりませんでした。
テヘラン(イラン)の現代美術館に所蔵されているようです。
なぜ古い写本が「現代」美術館に、と思いますよね。この写本のめぼしい絵は所有者ホートン氏が税金対策のためオークションで売りさばいたのですが、彼の死後、文章だけのページや118点の絵など残り部分は一式、行き場を失っていたようです。イスラム圏の富豪に売ろうとしたけれども売れなかったり。
で、1994年、ある画商が、テヘラン近代美術館所蔵の西洋現代絵画(ウィレム・デ・クーニングの絵画「女 III」)とこの写本を交換する交渉をし、話がまとまって、近代美術館に所蔵されたとのこと。 クーニングの絵は現代美術コレクターでもあるイラン皇后が1970年代後半に買ったものですが、1979年のイラン革命後、共和政府の検閲で展示できなかったものだとか。
(クーニングのこの絵は直近(2006年)の取引で1億3750万ドルの値がついたお高い品物らしいですが、私の個人的な見解ですが、こんなゴミ作品よりイランにあるべきは『シャー・ナーメ』だと思います)


●44 VERSO  Faridun receives a message from Salm and Tur  長男サームと二男トゥールからのメッセージを受け取る父王ファリドゥン 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
ファリドゥンの宮廷の様子。使者が感嘆した豪華さが表現されています。ライオンや豹、象もいて、多数の戦士達もいて盛りだくさん。ファリドゥンの玉座は金色の装飾で飾られて、豪華。鷹匠も描かれています。

●45 VERSO  Faridun replies to the threat of Salm and Tur  サームとトゥールの脅しに答えるファリドゥン 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
今度は、サルムの側の宮廷の様子。こちらも人物が沢山盛り込まれています。ページ上部も余白に柳のような優雅な枝振りで細い葉の木が描かれていて、木に登っている若者がふたり。物語には関係ない気がしますが、ページ全体の美しさの要素になっていると思います。
食べ物としては、山盛りのザクロが二皿。草地はぺったりした緑色に、花ではなく黄色い葉っぱの草が生えています。

●46 VERSO  Iraj offers to visit his brothers  末弟イライ、兄弟を訪ねる 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
これもやはりサルムの陣地で、イライが兄のもとを訪ねてきた場面です。
メインの天幕の後ろには、座っている兵士達、立ち並んだ兵士達が。
45vとは少なくとも地面を描いた画家が違うようで、こちらは草地にいろいろな花が咲いています。
イライと兄が話しているすぐ右側では、髭の兵士が若者にちょっかいを出して手を握ったりしているような・・・。この後に起こることを知らなければ色とりどりでのどかな絵です。

●47 VERSO  Iraj begs Tur for mercy  次兄トゥールに慈悲を乞う末弟イライ
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
イライの滞在している天幕にて、次兄トゥールが椅子をふりかざしたその瞬間の絵。
空は金色(昼)、地面は(45v、46vとも違って)白(砂もしくは岩)。濃い青の天幕内部に自然に視線が集まるようになっています。
人物の顔や体は44vに近いかな?
44v、45vよりもやや素朴な感じですが、「まさか、何故!」と混乱するイライの表情が印象的です。 

●48 VERSO  Tur decapitates Iraj  トゥール、イライの首を切る 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
遂にクライマックスシーン。イライが次兄トゥールに切られてしまいます。文章では、ブーツからナイフを抜いたとあったのですが、絵をみるとトゥールは裸足!? (この前の椅子をふりかざすシーン47vでは短靴?を履いているみたいだけど) で、この文章では長靴というのを省きました。
背景は薄紫で植物なしの岩山、テントは白が基調で、殺人シーンに視線が集まるようになっています。背景があっさりな分、前景の小川と花の描写がとても緻密で綺麗。

●49 VERSO  The lamentation of Faridun  ファリドゥン王の嘆き 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。 
ファリドゥン王が、衝撃のあまり冠も落としてイライの首を抱き、天に向かって嘆いているところ。ファリドゥンはもはや玉座にはいなくて、その前の地面に座り込んでいます。手前の、黒い布を方にかけた数人がイライのお供達で、喪服で彼を連れ帰ったのだと思います。右に並ぶひとたちは、本来ならば歓迎の祝いをするはずだった貴人達。
現代のマンガやイラストならば、ファリドゥンの玉座は44vと同じにして現実的に一貫性をはかるのではないかと思いますが、この時代の挿絵は、ページごとに目を楽しませるようにわざと違えているのかもしれません。

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