採集生活

お菓子作り、ジャム作り、料理などについての記録

シャー・ナーメあらすじ:5.マヌチフルの復讐

2022-12-28 | +シャー・ナーメあらすじ(挿絵付き)

前回のイライの事件があって、もう話は読めているかと思いますが、その復讐の戦争です。
これの次から、シャーナーメの英雄編で一番有名で面白いパートに入っていきます。


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5.マヌチフルの復讐
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■登場人物
ファリドゥン:イラン王。在位500年。
サルム:ファリドゥンの長男。西方(トゥランとルーム/ビザンチン(ローマが語源))の王。 Salm
トゥール:ファリドゥンの次男。東方(チン/中国、トゥラン)の王 Tur
イライ:ファリドゥンの三男。イラン王位を継いだが兄達に殺された Iraj
マ・アファリド:イライの後宮の女奴隷。イライの娘を産む。
パシャン:マ・アファリドの娘の夫。マヌチフルの父。
マヌチフル:イライの娘の子。ファリドゥンの曽孫。
カレン、アンディアン、シルイ、シャプール、サーム、ガルシャスプ、クバド:イランおよび同盟国の武将
サルヴ:ヤマン(イエメン)の王。イランの同盟。

■概要
前回イライが兄二人の嫉妬によって殺されてしまいました。その後、孫にあたるマヌチフルによる復讐の戦争です。
あらすじとしては箇条書き1行くらいなのですが、文学としては戦闘シーンが味わいどころなのでしょうか。
日本でも男子中高生は三国志にはまったりするし、こういう戦闘シーンは男性の読み手には受けるのかな。武将の名前が複数出てきますが、短縮する前でも、役職はともかく各キャラの性格の違いはあまり明確ではありませんでした。原文ではいくつか地名が出てきましたが(日本人には)なくても変わりないなのでだいぶ省きました。
司令官が檄を飛ばし、兵士達が恭順の宣言をする部分も多くありましたが、ほとんど省きました。戦闘シーンでも血なまぐさい表現が沢山あって、現実に戦争が起こっている今なので、どうにもつらかった。。。(人類もそろそろ、武器をもって戦うのは、ゲームとか文学の中のことだけにしてほしいです)
挿絵は、50v~60vの11枚。見開きごとに絵が続きます。

■ものがたり

□□マヌチフルの誕生

時が満ちて、マ・アファリドの娘とパシャンの間に男の子が生まれました。
王冠と王座にふさわしい、そして祖父イライにそっくりなその子はマヌチフルと名付けられました。
曾祖父ファリドゥンはマヌチフルをとても大切に育てさせ、世話係の乳母は、地べたを歩かず、足は麝香の上を歩き、絹の日傘をさしていました。
ファリドゥンは、彼に王としての心得を教え、イライの死後うち沈んでいた彼の心は、マヌチフルの成長とともに蘇りました。
マヌチフルが成年に達したとき、ファリドゥンは王室の宝物庫の武器や宝物をマヌチフルに与えるのが適当と考え、この若者を未来の王として讃え、その冠にエメラルドをかけるために、軍の覇者や国の貴族を自分の前に呼び寄せました。盛大な祝宴が開かれ、鍛冶屋カヴェの子孫、カヴィアニ一族のカレン、軍司令官のシルイ、アンディアンらが集まり、マヌチフルに忠誠を誓いました。

f50v
●亡き祖父イライの跡継ぎ、マヌチフル

f50v
●マヌチフルを歓迎する将軍たち

□□サルムとトゥールがマヌチフルのことを知る

サルムとトゥールのもとに、再びイランの帝冠が輝いたという知らせが届きました。この知らせに、彼らは星が自分達に敵対し、暗雲が立ち込めていることを怖れ、話し合いました。

何とかしてこの状況を打開しなければならないとの結論に達し、ファリドゥンに過去の行いを詫びる使者を送るしかありませんでした。そして贈り物も。
ルームの宝物庫を開き、この古来の蔵から黄金の冠を選びました。象に豪華な鎧を着せ、戦車に麝香や琥珀、金銀の銭、絹、毛皮を満載し、全ての準備が整ったところで使者は旅支度を整えて彼らの前に姿を見せました。

f51v
●贈り物の象や宝物

そして兄弟はファリドゥンへのメッセージを語りました。
「この二人の罪人の目は、父の前で恥辱の涙で満たされ、心は後悔で燃え上がり、許しを請います。しかし、かつて起こったことは運命に書かれたことであり、我々の行動は書かれたことを実現させたに過ぎないのです。あのときは邪悪で大胆な悪魔が、私たちの心から神への恐れを消し去り、私たちの心を住処にしたのです。
しかし、私たちは、たとえ罪が大きくとも、王が私たちを赦し復讐を忘れててくれることを望みます。マヌチフル王子がこちらを訪ねて来てくれれば、我々は父上とマヌチフルの前に、奴隷として跪きます。
この憎しみから育った復讐の木を、私達の目の涙で洗い流すことができますように。
誠意の証として宝物を送ります。」


f51v
●贈り物を携えた使節を送り出すサルムとトゥール


□□サルムとトゥールの手紙が父王ファリドゥンの宮廷に届く

韻も理もない言葉を胸に秘め、象と財宝を従えて、使者は麗々しく宮廷にやってきました。
彼は絢爛豪華な玉座のファリドゥン王に近づき、頭を下げて地面に口づけしました。王は彼に微笑んで歓迎し、使者は嘘で真実を偽るサルムとトゥールの伝言を繰り返しました。
使者はまた、マヌチフルのサルムの元への訪問を提案しました。そうすれば兄弟は奴隷として彼を歓迎し、彼らの王冠と王座を彼に譲り、絹と金、王冠、王帯で彼らの父親に対する血の代償を支払うでしょう、と。

□□ファリドゥンの息子たちへの返信

世界の王は、非道な息子たちのメッセージを聞くと、使者に答えて言いました。
「太陽を隠すことができないように、お前たちの邪悪な企みは明らかだ。
イライを殺し、今度はマヌチフルを始末したいのか?
あのとき、我々はイライのために復讐を行わなかった。それは時が熟さなかったためだ。老いた私が二人の息子と戦うのは適わなかっただろう。しかし今、根こそぎにされた木から立派な枝が芽生え、勇敢な獅子マヌチフルとその武将たちが彼の祖父の死に対する復讐を行う。
『かつての行いは天の仕業だから復讐の念を心から洗い流し許すべきだ』などという要求には呆れる。神の前に恥を知らないのか。人の世でも神の世でも、お前達はこの悪のために罰せられるだろう。
象牙の玉座、戦象、トルコ石をちりばめた王冠の贈り物で私が復讐をあきらめると、老いた父親が息子の命で金貨を購うとでも思うのか?
お前達のこの贈り物は私には必要がなく、これ以上話しても意味がない。この父は生きている限り、復讐の念を絶やすことはない!」
そして、使者に向かって言いました。
「これを一文一文、彼らに綴りなさい。さあ、行け!」。

f50v
●返信を語るファリドゥン

この恐ろしい言葉を聞いた使者は、玉座のマヌチフルをちらりと確認しました。彼は恐怖の余り、震えながら立ち上がり、即座に鞍に飛び乗って出発しました。
この使者は、これから起こるであろう運命の全てを心に刻み、天がトゥールとサルムに牙を剥くまでそう時間はかからないと思いました。彼は風のように疾走し、頭の中は王の答えでいっぱいになり、心は不吉な予感でいっぱいになりました。

f52v
●帰路につく使者

西の方角に着くと、平原に絹の天幕が張られていました。

f52v
●兄弟の天幕と水を汲む従者たち

二人の王が彼を待っていて、王冠と帝位、ファリドゥン王とその軍勢、集まった戦士達、国の様子などを使者に問いかけました。宰相は誰なのか、国庫はどうなっているのか、財務官は誰なのか、騎兵は何人集まっているのか、その指導者は誰か、軍司令官は誰なのかなどを知りたがりました。

f53v
●使者の言葉を聞き議論するサルムとトゥール

使者は言いました。
「ファリドゥン王の宮廷は春のような喜びの場所、天国です。世界中の人々が彼の幸運の前に頭を下げています。
宮廷では、月のように輝くファリドゥン王の右側に、糸杉のように背が高く優雅で、心も言葉も王者のようなマヌチフル王子が座っていました。
戦士のカレンは彼の前に立ち、彼の左側にはイエメンの王で宰相のサルヴがいました。無敵のガルシャスプは彼の会計係であり、彼の宝庫にあるような富を見た者は誰もいない程です。
宮殿の壁には二列の戦士が並び、黄金の棍棒を持ち、黄金の兜をつけています。カレン、アンディアン、獅子の破壊者シルイ、そして怒りに燃える戦象のようなシャプールがその指揮官です。もし彼らが我らを攻めれば、我らの山々は平地のように平らになり、平地は山のように塞がれてしまうでしょう。」

f53v
●ファリドゥンのメッセージを伝える使者

彼は、自分が見たこと、ファリドゥンから聞いたことをすべて話した。二人の罪人の心は苦悩し、顔はラピスラズリのように青くなりました。二人は座り込んで、何か解決策はないかと探しましたが、その言葉には頭も尻尾もありませんでした。

やがてトゥールがサルムに言いました。
「もはや平和はあきらめよう。あの仔獅子の牙が太く鋭く育ってもらっては困る。ファリドゥンが師匠なのだから、才能がないわけがない。祖父と孫が共謀すれば、何かとんでもないことが起こるだろう。我々は戦争の準備を急ごうではないか。」
彼らはチンとルームから軍を集め、騎馬隊を率いて出陣しました。世間は噂で持ちきり、人々は彼らの旗に群がりました。彼らの軍隊は無尽蔵でした。

□□サルムとトゥールがファリドゥンに向かって進軍する

ファリドゥンは、彼らの軍がジフン川を渡りペルシャに近づいているという知らせを受け、マヌチフルに軍を平原に出すように命じました。

戦士達は見渡す限り隊を組んで進み、平野や山々はうねり盛り上がる海の波のようでした。砂塵が太陽を覆い隠し、明るい日差しは暗くなり、鬨の声が四方から聞こえ、アラブ馬が嘶き、太鼓が鳴り響きます。
二列に並んだ象の列は陣地から2マイルに渡って伸び、そのうち60頭の象は宝石をちりばめた黄金のハウダ(象駕籠)を背負い、300頭は荷物を満載し、300頭は目だけが見える鉄の鎧に覆われていました。
王の天幕が打たれ、王旗がはためき、勇猛なカレンを先頭に、三十万の鎧騎兵が、それぞれが荒ぶる獅子のように、イライの死の復讐に燃えて、カヴィアニの旗を掲げ、拳の中に鋼鉄の青い剣を光らせていました。

軍勢は平原に出ました。マヌチフルは軍の左翼をガルシャスプに与え、右翼には勇敢なサームが偵察隊を率いるクバドと共に戦列を整え、カレンと王子そしてサルヴは中央に位置し、そこから月のように、あるいは高い丘の上の太陽のように輝いていました。

サルムとトゥールの軍勢もまた、この平原に現れました。

偵察隊のクバドが前進してきたところ、トゥールはそれを見て風のように出てきて、彼に言いました。 
 「マヌチフルのところに戻って言え。
『私生児がシャーになったようだな。イライの娘だか知らないが、お前に王冠、王座の資格があるのかね?』」

「言葉通りに伝言を伝えましょう。」クバドは答えました。
「しかしあなたはいずれ、我々の軍勢を見てこの愚かな言葉を後悔することでしょう。」

f54v
●トゥール(左)とクバド(右)の応酬

クバドはマヌチフルのもとに戻りこれを伝えました。
マヌチフルは笑い捨て、開戦前夜の宴の用意を進めさせました。

□□マヌチフルがトゥールの軍を攻撃する

日が暮れると、カレンはイエメン王サルヴと共に軍隊の前に立ち、彼らに向かって檄を飛ばしました。
「王に忠実な貴族と獅子たちよ、これはアーリマンとの戦いであることを知り、心の準備をし、神の守護を確信して生きよ!
夜が明け、時を告げる喇叭の音がしたら自分の棍棒と剣を用意するのだ。隊列を組んで、誰も他の者より先に足を進めることのないようにせよ。」
隊長達は王の前に整列して声を揃えて言いました。
「私達はあなたの奴隷です。王のために、この平原を血のオクサス川としましょう」
そして、各自が自分の天幕に戻り、来たるべき戦いに思いを馳せました。

夜が明けると、王子は鎧、剣、ルームの兜を身にまとい、軍勢の中央に陣取りました。
兵士たちは槍を高く掲げて鬨の声を上げ、全軍は進み始めました。
平原は軍勢で覆われ、海原の波のようにうねっています。
笛や太鼓、喇叭の音が響き渡り、これを耳にしたものは「祭りだ!」と言うかもしれません。

f54v
●軍楽隊のラッパと太鼓54

f55v
●総司令官マヌチフルと戦象54

雄たけびを上げる軍隊は、山が動くようにうねり、ぶつかり合います。
やがて平原は血の海になり、赤いチューリップの群落が一面咲いているようになりました。
巨大な象は珊瑚の柱のように血の中に立っていました。
彼らは夜まで戦い、ミヌチフルが勝利を得ました。

□□マヌチフルがトゥールを殺す

トゥールとサルムは策略を巡らせ、夜闇を待って奇襲をかけることにしました。
しかしイランの斥候はその情報を入手し、ミヌチフルのもとへ駆けつけ、兵を配置するよう伝えました。彼は戦士3万人を率いて、自ら待ち伏せした。
トゥールは夜、十万人の兵を率いて密かに戦いに臨みました。
しかし、マヌチフルの軍は旗を翻して戦闘の準備をしており、トゥールはこの戦いが自分の最後の決戦であることを知りました。
鬨の声は軍勢の中心から上がり、騎兵は土埃を巻き上げて空気を塵に変え、鋼鉄の剣は稲妻のように光りました。ぶつかり合う刃の火花はダイヤモンドの炎となり、塵の雲の中には焦げる匂いが漂いました。

トゥールは自軍の絶望的な叫び声の中、手綱を引いて逃げようとしました。
マヌチフルは急いで彼を追いかけ、間合いを詰めると、彼の背中に槍を突き立て、彼を鞍から持ち上げて地面に投げつけました。
その場で彼の首を切り落とし、その体は獣に食わせるために残しておきました。

f55v
●マヌチフルがトゥールを槍で刺して持ち上げる


f55v
●主を失ったトゥールの馬55

□□マヌチフルからのファリドゥンへの手紙

マヌチフルファリドゥン王へ戦況を知らせる手紙を書きました。
そして最後に、
「トゥールの首を送ります。かつて彼がイライ王子の首を黄金の筐に入れて送ったように。そしてこれから私はサルムに対処します」と。

ファリドゥン王のもとに急ぐ使者は、頬を紅潮させ目に涙を溜めて、この首をどうやってペルシャの王に見せたものかと思いました。例えどんな悪人の息子でも、このような有様を見れば父親の心は揺さぶられるからです。しかし、彼は果敢にも王の前に進み出て、トゥールの首を王の前に下ろしました。
ファリドゥンは、手巾を握りしめ、動揺を押し隠して、マヌチフルへの正義の神の加護を呼びかけました。
廷臣の中にも痛々しさに目を伏せるものもいました。

f56v
●マヌチフルからの手紙を受け取り、トゥールの首を見るファリドゥン56

f56v
●トゥールの首を見せる使者56

f56v
●目を伏せる廷臣

□□カランがアラン族の城を占領する

失敗に終わった夜襲と、月を覆い隠す闇の知らせがサルムに届きました。サルム軍の後方には険阻な地形を利用した難攻不落のアラン族の城があり、彼はそこに撤退して様子を見ることにしました。
もしサルム達がこの城に立てこもれば、この城はあらゆる富を蓄え、花崗岩の城壁は海から突き出て雲まで達し、攻め入ることば難しい場所です。
カレンの計略で、トゥールの印章の指輪を携え、戦士ガルシャスプ、シルイらと共にこの城に向かいました。
軍勢は城の近くで待機し、カレンは前に出て城の司令官にトゥールの印章環を見せました。そしてこのように申し立てました。
「私はトゥール王の使いで来ました。王は私に、昼夜を問わず旅を続け、この地にたどり着き、あなた方と共に城の防衛を引き継げと言ったのです。イラン軍が攻めてきたらここで闘えと。」
この言葉を聞いた城の司令官は、トゥールの印章環を見て、その言葉を信じ、何の策略も思い至らずに城門を大きく開けてしまいました。
夜が明けると、カレンは隠し持っていたイラン王旗を広げ、鬨の声をあげてシルイとその軍勢を呼び寄せました。

f57v
●アランの城に入ったカレン

f57v
●堀を渡ってなだれ込むイラン軍

シルイは城門に向かい、守備隊を攻撃して血の冠を授けました。一方はカレン、他方にはシルイ、上は剣の炎、下は海の水、太陽が天の頂に着く頃には城は騒然となり、司令官の姿は見えなくなっていました。このようにしてアランの城は陥ちたのです。
日が落ちる頃には城は焼け落ちて周りの平野と見分けがつかなくなりました。敵は1万2千人殺され、真っ黒な煙が立ち上りました。海はタールのように真っ黒になり、平野は血の川となりました。

□□ザハクの孫カクイによる攻撃、サルムが逃げ、マヌチフルによって殺される

サルムは、ザハクの子孫カクイと同盟を結び、ともに戦うことにしましたが、総大将カクイは死闘の末マヌチフルに討たれてしまいました。

もはやサルムは復讐の念を捨て、敗走していきます。
マヌチフルの軍勢が追いかけていきますが、死傷した戦士で道がふさがれていて、なかなか前に進めません。白い馬に乗った若い王は怒りに燃えて、馬の鞍を投げ捨ててスピードを上げ、裸馬に乗って退却する軍勢の砂塵の中に馬を追い込みました。

彼は西方の王に迫り、
「弟を殺し、弟の冠を欲しがった不届き者よ、その冠を持ってきてやったぞ」
と叫ぶと、剣で首を打ち据えました。

f58v
●マヌチフルがサルムを斬る

剛力によりサルムの首は切断され、その首は槍に刺し天に突き上げて手下共に示されました。
サルムの軍はその腕力に驚き、羊飼いのいない群れのように散り散りになってしまいました。武将達は恭順の意を示して降伏し、マヌチフルは慈悲を示して命を助け彼らをもてなしました。彼らは武器、鎧、兜、矛、インドの太刀、馬用鎧などをマヌチフルの所に持って行き、山のように彼の前に積み上げました。

□□マヌチフルがファリドゥン王に手紙を書く

マヌチフルはサルムの首を持たせて使者を派遣し、ファリドゥンに事の次第を報告しました。
そして戦士シルイに命じて戦利品を一ヶ所に集めさせ、象に積んで全てファリドゥン王のもとに持って行かせました。

行列が祖父の待ち受ける場所に近づくと、太鼓を叩き喇叭を鳴らし、絢爛たる行列が賑々しく進みました。象にはトルコ石の玉座、中国の錦をまとった黄金の象駕籠、旗、高級品などが積まれ、辺りは緋色、金色、紫色に輝いています。馬を連ねた軍勢は動く黒雲のようで、その鞍、盾、帯は金、鐙(あぶみ)は銀でできていました。

f59v
●楽隊と象

f59
●騎馬の軍勢

ファリドゥンが現れると、マヌチフルは馬から降りて地面に接吻しました。
ファリドゥンは彼を立ち上がらせ、優しく抱擁し、口づけをし、手で彼の顔をなでました。

f59v
●マヌチフルを抱擁するファリドゥン

それから顔を天に向けて言いました。
「神よ!あなたは私の望みをすべてかなえてくださいました。さあ、私をあの世へ、この世よりも良い世界へ連れて行ってください。」

またシルイに戦利品を宮中に運ばせ、全て兵士達に惜しみなく分配するよう命じました。
王宮を訪ねてきていたシスタンの領主サームにマヌチフルの支援を頼み、そして最後に、自らの手で若い王子に冠を授けました。

f60v
●マヌチフルの戴冠

これが行われると、偉大な王の木の葉は枯れてゆきました。
ファリドゥンは王位と玉座を辞し、残りの生涯を喪に服し祈りの日々を過ごしました。
偉大な王は泣きながら言いました。
「私の心の喜びであった息子たちが私の昼を終わりのない夜に変えた。
息子たちはの無残な死は、私の行いがもたらしたのだろうか。」 
そして 悲嘆に暮れ 過去を嘆き悲しみ、ついに死が訪れるまで苦しみの中で生きたのです。

 

 

 

■シャー・タフマスプ本の細密画

 

サムネイル ページ番号 画のタイトル※ タイトル和訳 所蔵館と請求番号 画像リンク先 備考
f050v 50 VERSO  Manuchihr at the court of Faridun  ファリドゥン宮廷でのマヌチフル Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f051v 51 VERSO  Faridun and Manuchihr receive an envoy from Salm and Tur  ファリドゥンとマヌチフルはサルムとトゥールから使者を受け取る  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f052v 52 VERSO  The envoy returns to Salm and Tur  使者、サルムとトゥールのもとに戻る  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran /  
f053v 53 VERSO  Salm and Tur receive the reply of Faridun and Manuchihr  サルムとトゥール、ファリドゥンとマヌチフルの返事を受け取る  Aga Khan Museum, AKM495  
f054v 54 VERSO  Tur taunts Qubad / Manuchihr leads his army to fight Salm and Tur トゥール、クバドを挑発する  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran / /  
f055v 55 VERSO  Manuchihr raises Tur on his lance  マヌチフルはトゥールを槍で突き刺す  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f056v 56 VERSO  Faridun receives the head of Tur  ファリドゥンはトゥールの首を受け取る  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran /  
f057v 57 VERSO  Qaran captures the castle of the Alans  カランはアラン族の城を占領する  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f058v 58 VERSO  Manuchihr kills Salm  マヌチフルはサルムを殺す  Tehran Museum of Contemporary Art, Tehran, Iran  
f059v 59 VERSO  Faridun embraces Manuchihr  ファリドゥンはマヌチフルを抱きしめる  MET, 1970.301.5  
f060v 60 VERSO  Manuchihr enthroned  マヌチフルの即位  Farjam Foundation, Dubai, Dubai, United Arab Emirates  

 

 

■細密画解説(本や所蔵美術館の解説より適宜抜粋)

●50 VERSO  Manuchihr at the court of Faridun  ファリドゥン宮廷でのマヌチフル
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
マヌチフルがファリドゥン王より一段高いところに座っています。
原文では「冠を授ける」というような表現ですが、戴冠ではなく、(成人の)お披露目みたいなものかなと思いました。
マヌチフルは丸くひげのない顔で、いかにも若い王子のように見えます。
これまで読んできて、権力者の財産とは、所有する軍隊および軍備、武器類のことかとようやく分かってきました。子供の頃ヨーロッパのお城博物館で甲冑や剣など武具が沢山あったのを見て「たかが鉄のこういうものより宝石とか金の方が価値がありそうなのに何故かなあ(つまんないの)」と思っていましたが、武器というのは実用的な財産だったのですね。(中には保管している間に時代遅れになってしまった武具もあったかも・・・? でもちゃんとしたお城なら、管理係が買い換えたり鋳造しなおしたりしてアップデートするのか。21世紀の今もそうだものな・・・)


●51 VERSO  Faridun and Manuchihr receive an envoy from Salm and Tur  ファリドゥンとマヌチフルはサルムとトゥールから使者を受け取る 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
平原に野営しているサルムとトゥールがファリドゥンへの贈り物(象その他)を準備しているところのようです。象には黒人の象使いが乗っています。
人物はほぼみな髭を蓄えた大人の男性。みんなの来ている服に金色で細かい装飾が描いてあって綺麗です。

●52 VERSO  The envoy returns to Salm and Tur  使者、サルムとトゥールのもとに戻る
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
徒歩の小姓?に先導されて、ファリドゥンのところから使者一行がてくてくと帰ってくるところ。
珍しく?砂漠が砂漠らしい薄茶色です。
左奥にはサルムとトゥールの天幕が。天幕は、いつも思うのですが、必ずロープがきちんと描かれています。
天幕の手前に水が流れていて、水を汲む人々がいたり、綺麗な草花が咲いていたりします。

 

●53 VERSO  Salm and Tur receive the reply of Faridun and Manuchihr  サルムとトゥール、ファリドゥンとマヌチフルの返事を受け取る 
使者はサルムの野営地に戻り、ファリダンからの拒絶と戦意のメッセージを伝えてサルムとトゥールの顔を「ラピスラズリのように青く」した。
この絵はアブド・アル・アジズAbd al-'Aziz の作とされる。アブド・アル・アジズは、イライの孫であるマヌチフルが祖父の殺害に復讐する準備をしていることをトゥルと兄のサルムが知った瞬間をとらえています。彼は王子たちに青い肌を与えませんが、左の兄弟の手のジェスチャーと彼らの前にひざまずく特使、そして彼らのテントの最も近くに座っている廷臣によって、彼らの議論の激しさを伝えます。Salm と Tur を囲んでいるテントは少し中心から外れて配置されており、背景にある 2 つの小丘とその背後にあるテントと人物は、2 人の兄弟の陣営がこの会議に参加したという感覚を広げています。このテーマは、左側のグループの女性と男の子が、丘の切り欠きで右側の従者に大皿料理を提供することで表現されています。

アブドゥルアジズは、「カユマールの法廷」やその他の記憶に残る絵画をシャータフマースシャーナーメで作成したスルタン ムハンマドの指揮の下、この絵を制作したと考えられています。スルタン・ムハンマドのスタイルに合わせて、このフォリオには構成に付随する多くの小さな人物が含まれています。また、スルタン・ムハンマドの他のシャーナーメの絵画でおなじみの人物も含まれています。たとえば、ページの端に立っているひげを生やした男で、両手を杖の上に置いている人物や、右上に顎が突き出ており、ヒョウの皮の帽子をかぶっている人物などです。

シャーナメのほとんどのイラストと同様にShah Tahmasp のこのフォリオには、16 世紀のイランの物質文化への洞察を与える多くの詳細が含まれています。メインテントは観客用に設計されており、片側が開いているため、青と金の裏地のパネルが見えます。 現存するサファヴィー朝のテント パネルはベルベットで作られていますが、オスマン帝国では綿、麻、絹が使用されており、サファヴィー朝のテントでもそうであった可能性があります。テントの後ろに建てられた日除けは、テントから直射日光を遮断し、時には王や王子を日陰にするために使用された可能性があります. 中央のシーンの左端には、平らな屋根を持つ小さな長方形のテントがあります。これは便所であり、使用者が使用後に自分を洗って乾かすのを助けるために使用人が立っていた. アーティストは、トゥールによって支配されたトゥーランのテントの種類を区別していませんが、そしてルーム、アナトリア、そしてサルムによって支配された西部のものは、地平線に沿っていくつかのバリエーションが現れます. テントのような実用的な物が無傷で残っていることはめったにないため、この絵はサファヴィー朝の野営地の特徴のいくつかを示す有用な資料です。

〇Fujikaメモ:
テントの柱に、ちょっと太くなっている部分があります。
何かで見たのですがこの部分は金属製で、その上下の木製ポールをつなげる接手部分に相当するようです。金属なので考古遺物として残っているものです。
(確かに、移動の際、ポールは長すぎない方が便利ですよね)

●54 VERSO  Tur taunts Qubad  トゥール、クバドをなじる
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
鮮明な画像があってうれしいです。
このときトゥールが乗っている馬(黒馬?)の鎧が、この後も出てきますのでご注目。
白地にブチのものは、白豹の毛皮ではないでしょうか。それぞれパネル中央にはめ込まれた丸いものは鏡では? 角度によってピカリと輝いて綺麗なのかも。馬の顔部分には、金色の金属製保護部も見えます。
クバドの後ろ、象の左に見えるひげのない若者がマヌチフルではないかと思いました。
太鼓には二種類あって、小さい太鼓は、先端が細いドラムスティック(しかも象嵌つき?)で叩いていて、大きい太鼓は、先端が大きく丸くふくらんだもので叩いています。

●55 VERSO  Manuchihr raises Tur on his lance  マヌチフルはトゥールを槍で突き刺す 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
トゥールがやられるシーンなのですが、構図は込み入っていて、トゥールのすぐ後ろでもイラン武将が敵の誰かの首をすぱんと切り落としています(で、首が真後ろに落ちかかっている)。
トゥールの馬は、さきほどと同じ白地にブチの鎧を着ています。前の絵では見えている部分はみな黒かったですが、今回は、喉元や首前面は黒ですが、おしりと後足は茶色です。

この絵ではマヌチフルの馬も黒字に金模様の総鎧で身を固めています。こちらも鏡?がはめ込まれていますね。

●56 VERSO  Faridun receives the head of Tur  ファリドゥンはトゥールの首を受け取る
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
これも鮮明な画像があって有り難いです。
ファリドゥンの握りしめる布に、動揺が表現されていると思いました。
背後の庭園と花がいっぱいの木が、とても綺麗。

●57 VERSO  Qaran captures the castle of the Alans  カランはアラン族の城を占領する 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
ここで、橋の右側の突入するイラン軍の中に、トゥールのものだった白地にブチの鎧をつけた馬が見えます。今度は馬の見えている部分は全部が薄茶色。トゥールをやっつけたあと、馬ごと、もしくは鎧のみ分捕って、イランのものにしたのかも?
なお、このような、馬全体を覆う鎧は、西アジア特有のもので、ヨーロッパ世界では使われなかったものだそうです。

●58 VERSO  Manuchihr kills Salm  マヌチフルはサルムを殺す 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
全体図はとても不鮮明な画像しかなかったため、鮮明な部分と全体図を合成しました。
このシーンは、マヌチフルが馬の鞍を捨てて裸馬にまたがり速度をあげてサルムに迫るという、当時のイランの男性読者には手に汗握る名シーンなのではないかと思いますが、この不鮮明な画像では、鞍があるのかないのかはよく分かりません(あるように見えるかも・・)。

●59 VERSO  Faridun embraces Manuchihr  ファリドゥンはマヌチフルを抱きしめている
戦争が終わった今、マヌチフルの軍隊はルームとトゥランからすべての戦利品を集め、イランに向けて出発する前に象に積み込みます. その間、ファリダンは角笛を吹いたり、太鼓を叩いたり、豊かな個性を持った象を運転したりしている大勢の男性を集め、彼とマヌシフルが出会い、抱きしめる場所に向かいます。

〇Fujikaメモ:
実は文章には、マヌチフルを抱きしめるという表現はなかったです。
地面に接吻して挨拶していた彼を立たせ、鞍にのせ、顔をなでる、という感じでした。
鮮明な画像があるので、華麗な凱旋パレードの様子がわかります。
(トゥールとクバドのシーンと近い構図かも)

●60 VERSO  Manuchihr enthroned  マヌチフルの即位 
〇Fujikaメモ:専門家による解説がないので、私が勝手に感想を書いてしまいます。
・右下角の赤いかぼちゃ?帽子の男性は、金属製の盃を逆さに持っています。
ぐいっと飲み干して、杯をあけたところで、給仕が次のお酒を注ごうとしているところでしょうか。
・王座の前には、楽団がいてその反対側にやはり座っている男性陣がいるのですが、座っている方は、これまで音楽を聴く聴衆的なものかと思いこんでいましたが、もしかすると歌い手(詩人)チームかも?王様の前の低いところには、芸をする人達が座るのかも・・。
・楽団の前にいる給仕は、(珍しく)お酒を注ぐ瞬間です。
・楽団の背後に、三人組が2組、立っています。この人たちはなぜか腕を絡ませて、中央の人を支える?羽交い絞め?にしています。
一体何をしているのか・・? こういうダンスがあるのかな?
・庭への出入り口の庭側に、ヒゲの労務者風の人の全身像が見えます。彼は長い柄つきのものを方にかついでいます。
これは何だろうと思ったのですが、先端は、おそらくもとは銀色の三角形(今は黒くてにじみが生じていますが)。
つまり、スコップかなと。庭師、という意味なのでしょうか。それにしても、何故庭師を書き入れる必要が・・・。(文章には庭師への言及はないです)

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