ブログよりも遠い場所

サブカルとサッカーの話題っぽい

【ラノベ】盟約のリヴァイアサン

2012-12-12 | ライトノベル
盟約のリヴァイアサン (MF文庫J) 盟約のリヴァイアサン (MF文庫J)
価格:¥ 609(税込)
発売日:2012-11-21

 読了。

 先クールにアニメが放映されていた『カンピオーネ!』の作者、丈月城さんの新作。
 最近はクオリティの高い作品を量産しているMF文庫Jの新シリーズということで、色々と期待して手に取ってみました。

 ……が、結論から言うと少し期待外れ。や、僕は元々『カンピオーネ!』を楽しんでいたクチなんですが、10巻あたりになって「護堂以外のカンピオーネたちにスポットを当てる」という群像劇のような展開が増えたことに萎えてしまって読まなくなったんですよ。
 実は、こういう「物語の進行と共に主人公以外の視点が増える」というのは、世間では「作品が軌道に乗った作家がかかる〝はしか〟のようなもの」と言われていたりもします。どうやら、単一の視点で物語を掘り下げるより、複数の視点を描写したほうが、作品の「格」が上がるような勘違いが存在するようなんですよね。わりと根深く。
 で、僕にとって『カンピオーネ!』って、ドストライクでこの罠にハマっちゃった作品だったんですが、MF文庫Jは『学戦都市アスタリスク』などで、編集さんが作家さんをうまくフォローしているレーベルという印象を抱いていたので、今回はかなりワクワクしながら読んだんですよねー。ちゃんと丈月さんの手綱を握るなら、仁村さんの絵との相乗効果でスゴイことになるんじゃないのか? みたいな。
 でもダメでしたねっと(ノ∀`)

 なんつーか、『盟約のリヴァイアサン』は、良いところと悪いところがハッキリしている作品です。
 ざっくり書き出すと、

良いところ
・ヒロインのキャラクター
・世界観などの設定

悪いところ
・描写力不足

 こんな感じ。
 正直、ヒロインに関してはかなりレベル高いです。絵師の仁村さんの仕事が素晴らしいというのはもはや言うまでもないですが(ラノベ絵のハードルを仁村さんのところに設定したら七割くらいの絵師さんは仕事失いそう)、アーシャと織姫という二人のメインヒロインをはじめ、出てくる女キャラがどいつもこいつも魅力的で、たとえどんなにつまらない話であってもハーレム展開見たさに買い続けてしまおうかと心揺らぐ程度にはクオリティが高いキャラクター造型になっていました。これは大きなウリです。
 また、世界観などの設定に関しても、現代とファンタジー世界がうまく融合していて、手垢がついているようでありながらも、しっかりとオリジナリティを発揮しているのはさすが『カンピオーネ!』の作者さんという感じでした。

天空より飛来するドラゴンの襲撃に、人類が脅威にさらされている現代。
人は魔術によって創造された蛇霊体《リヴァイアサン》を駆り、抗戦の日々を送っていた。
“蛇”の契約者にして、竜を討ち滅ぼす救世の戦乙女――《魔女》。
彼女たちの契約をプロデュースすることを生業とする少年、ハルこと春賀晴臣は、幼なじみで欧州屈指の魔女、アーシャの(強引な)要請で3年ぶりに「東京新都」に帰還する。
妖精のような容姿の少女に連れ添って、高校転入に拠点確保と奔走するハルだったが、突如、上位種のドラゴン“ソス”の襲撃に遭い――!? 
いま、竜と竜殺しの新たな神話が息吹きを上げる! 至高の《新生》エンタメ、堂々開幕!


 以上は、公式HPから引用したあらすじですが、ラノベでお約束の固有名詞連発に拒否反応さえ出なければ、実に良質な中二設定が心を潤してくれます。

 ……ところが、まあ、それら作品における長所が、描写力不足のせいでぜーーーーーんぶ台無しになってるのが大問題なんですなー。
 せっかくヒロインたちが魅力的なのに、主人公がベタな鈍感系をベースにしているせいで不快感を抱いたり。
 かつて『カンピオーネ!』でも散見された、「主人公に嫉妬する男子生徒」の存在がウザかったり(丈月さんはこのへんの描写センスがマジでないと思う)。
 仁村さんの書くドラゴンはマジでカッコイイのに、戦闘描写が下手すぎてちっとも盛り上がらなかったり。
 で、僕が何より致命的だと思ったのは、描写力のせいで「リアルな現代とは異なる現代」という世界の説明が拙すぎて、ちっとも内情が伝わってこないことです。ドラゴンの襲撃を受けているワリには緊迫感がないというか、すぐ傍に廃墟になった都市が存在するくせに〝普通の学園生活〟を営んでいる学生たちがいたりして、そのへんの描写がどうにもこうにも噛み合っていません。主人公たちが特別な存在というのは分かるのに、どの程度の特殊性なのかというのもピンとこないです。
 こうした部分は、いわゆるSFの描写に通ずるところがあって、きっちり表現しようとすると非常に難しいです。某『イリヤの空』などは実に見事に「リアルな現代とは異なる現代」を描ききっていましたけど、そのためには「イメージ力」と「頭の中のイメージを適切にわかりやすくアウトプットする」という二つの能力が高いレベルで求められます。
 と、そんなふうに考えると、ちょっと丈月さんの手に余る題材だったのかな、という感じでした。
 誤解を恐れずに言うと、300ページ超の一冊のうちの半分が世界観の説明で面白くなかったですし(しかも分かりにくい)、残り半分のうちの更に半分の戦闘描写はスリルがなくて目が滑りっぱなし。
 おそらく多くの人が目をつけるであろう、『カンピオーネ!』でもお馴染みの疑似セックス描写も、二度ネタになってしまうと新鮮味が薄れて大してエロく感じませんし、全体的にインパクトの薄い作品という印象を受けました。
 あと、これは完全に蛇足ですけど、織姫はまんま『カンピオーネ!』の祐理ですね。性格は似てませんが、読者が「こういうヒロインなんだな」とイメージを深める前に、作者のほうから「この子はこういう子なんですよ!」「こんなに良い子なんですよ!」ってゴリ押しプッシュされる感じがそっくり。僕はちょっと、こういうのは萎えちゃいますね。

 つーわけで、素材はすごくいいので、できれば続きも買いたいんですけど……うーん。
 描写力が急成長するとも思えないので次は様子見ってことで一つ。