ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

ネズミとネコ、あるいはキョンとあいつの話

2011年08月15日 | 日記・エッセイ・コラム

当時の職場の先輩が、姪にねだられて無理やり買わされたネズミ。

気が強くて手に負えず、そいつはボクのところへやってくることになった。

たまたまそのころハムスターのコミックを読んでいて、

本当にたまたまハムスターに興味があったボクは、

仕事場に連れてこられたネズミを「かわいいー」と云ったばっかりに

ゲージから回し車から一切合財を譲り受けることになったのだ。

体調が5センチばかりのドワーフハムスターはシャンガリアンと云う種類で

真っ白な毛がとてもきれいだった。

怖がりで警戒心が強いために、ちょっとしたことで「ギーー」と威嚇の声を上げた。

何度も指を噛まれながら、ボクの匂いを覚えさせ、

それでもそのうち掌に黙って乗るようになった。

ボクが渡したヒマワリの種を両手で受け取って、器用に皮を剥いて見せる。

小さなネズミは「キョン」と名付けられた。

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            〇

キョンはとにかく元気が良い。

ゲージの網を登るのが好きで、いちばん上まであがってはあっけなく墜落する。

何度も何度も飽きることなくそれを毎日繰り返した。

回し車も大好き。

ただし、部屋の電気が消えて真っ暗にならないと回さない。

もともと夜行性のハムスターは闇夜を何キロも走る。

カラカラ、カラカラ、キョンは回し車の荒野を夜通し走り回る。

ゲージの中にふんわりと敷き詰めた牧草も

一晩できれいに踏みならされて、真っ平らになる。

あの小さな身体には、もの凄いパワーが宿っているらしい。

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            〇

最近では野良ネコも珍しいけど、

そのネコはいつの頃からか、ボクの庭へ来るようになった。

とにかく巨体!

喧嘩が絶えないのだろう、満身創痍でズタズタのボロボロだ。

ひとを見ても全く動じない。

太太しく、ゆっくりと歩いていく。

その態度と薄汚れた外見から微塵の可愛げも無い。

何にでも名前を付けてしまうボクなのに、

なぜか知ってずいぶん経つのに、いつも「あいつ」と呼んでいた。

嫌いだった。

いつもひとのことを見透かしたような目で見返してくる。

脅かしてやっても、鳴き声ひとつあげず、驚きもしない。

           〇

冬のある時、

そう云えば「あいつ」最近見ないな、と不意に思った。

寒い日が続いていたし、よくは知らないがきっと相当な齢のような気がした。

ちょっと、哀れな気がした。

が、もちろん冬の寒さぐらいで逝ってしまうようなヤツではなかった。

それから2,3日たった日の朝。

「あいつ」はボクのクルマの下で寝ていた。

ふん、と思って蹴る真似をして追い出そうとしたが、

「あいつ」はいつもどおりちっとも慌てず、

面倒くさそうにのそのそと通りを渡って、隣の庭に消えた。

            〇

ハムスターの寿命はだいたい2~3年と云われている。

キョンは2008年生まれなのでもう3歳になっていた。

今年の冬は越せないかと思っていたけど、なんとか春を迎えた。

ただそのころから衰えが激しくなって、

目が開かなくなったり、はしごが昇れなくなったりしていた。

毛並みも悪くなって、手足の毛も抜けてきた。

大好きな回し車も、少し回しては弾き飛ばされるように下へ落ちるのでゲージから外した。

それでもキョンは毎日せかせかと動き回り、網を登っては転落し、

いっぱい食べては、いっぱいフンをし、毎日懸命に生きていた。

老いを目の当たりにしたころは、なんだかかわいそうで

不自由な手足をばたばたさせる姿を痛ましいと思っていた。

けれど、そんなことお構いなしに網を登り続けるキョンを見ていて、

ある日、はっとさせられた。

命ある限り、懸命にそれを生ききるキョンの直向きな姿に教えられたのだ。

目が開かなくなっても、手足が思うように動かなくても、

与えられた命を全うしようとしているキョンを、痛ましいと見るのは失礼ではないかと。

それからは毎日キョンの姿を見るのが楽しみだった。

こんな小さな命から教わった大切なこと。

直向きに命を生きることの大切さ。

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お盆の中日の朝。

キョンは命を全うしていた。

まだ少し暖かくて、ハナもピンク色だった。

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オートバイに乗りながら、気持ちを整理するのが習慣なので、

いつものように銀ジィ(’81R100RS)に乗って、いつもの道へ走り出す。

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涼風の里で木陰にオートバイを停め、ぼんやり風に吹かれていたら、

枯れ葉が落ちてきた。

ふと見上げると、サクラの木。

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サクラの落葉がもう始まっていた。

今年は案外秋が早いのかもしれない。

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昼前に家に戻った。

銀ジィを車庫に仕舞っているとき、妙な気配を感じた。

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「あいつ」だった。

向かいの家のフェンス越しにボクを見ていた。

ちゃんと座って、真っ直ぐに顔を向けて、

まるで「大丈夫か」と云っているかのような感じだった。

いや、ボクの勝手な妄想か?

でも、正直、とても不思議な安らぎを感じた。

うれしかった。

うれしくて、急いで家から喰いかけのパンを持ってきて

「あいつ」に、驚かさないように出来るだけそーっとパンを投げてやった。

でも、いじめて来過ぎたよね・・・

「あいつ」はいつものように、のそりと身をひるがえして、草むらに消えた。

これからはもう少し優しくしてやろう、そう思った。

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ネズミとネコの話はこれだけだ。

でも、何だか不思議な気持ちがしたよ、ボクはね。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私も駐車場でよく会う野良猫がいます。もう五年の... (熊鹿夫婦)
2011-08-20 07:56:23
私も駐車場でよく会う野良猫がいます。もう五年の付き合いになりますが名前な"やつ"です。白いのに白くなく筋肉質で笑顔もありません。俗に言う"ブサイク"なやつ。でも毎日顔あわせてると御近所さんぽいです。
返信する
うちの「あいつ」はあれから一回も姿を見ません。 (EXIT@rainman)
2011-08-20 17:43:01
うちの「あいつ」はあれから一回も姿を見ません。
最近、そんなペースです。
ものすごい存在感がありますよ。
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