ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

探しても青い鳥は見つからないよ、みんな知ってるくせに

2023年08月11日 | R100Trad (1990) クロ介


むかしも夏は暑かった

しかもエアコンなんてないし

扇風機だって一家に一台だった

夜は夕食を終えるとみんな揃って外に出て縁台で涼む

近所の人もみんな一緒だ

男は男で

女たちは女たちで

そして子供らは花火をしたり星を眺めたりして過ごす

蚊取り線香の煙の匂いや

アンタレスの真っ赤な心臓の輝き

9時も過ぎればお開きで

家に戻ってパタパタと団扇をはたいて蚊帳に入る



うちは母子家庭で母は毎日仕事に出ていた

女が正規の社員として働く環境は厳しく

子供が(と云っても大抵ボクだけど)風邪で熱が出ても

母は休まず出勤した

朝、出がけに作っておいてくれた「おじや」を温めなおして食べろというが

熱でフラフラするから絶対無理で

いつも冷め切った冷たいおじやを食べていた

でも、もっと悲しいのは夏だ

夏休み

もちろん母は仕事で

兄貴が中学生になってからはひとりで留守番していた

夕べの残り飯を母がおにぎりにしてくれるのだけど

冷凍庫もなければ電子レンジもないので

布巾をかけてちゃぶ台においてある

分かると思うけど

当然ちょっと腐りかけるわけだ

独特のアノ臭いを酸っぱい梅干しでごまかしてでも子供は食べる



思い出すと自分のことなのに居たたまれなくて

小学3年生の自分をギュッと抱きしめてやりたくなる

母だってちゃんとしたものを食べさせたかっただろう

でもそういう時代だった

貧しくて不便で、厳しくて容赦ない



でもね、いままで何度も書いたけど

本当に良い時代だった

みんなまるで「ひまわり」のように夏を暮らしていた

情報とモノに振り回され

言い訳と承認欲求に終始している現代には

人間の幸せはいつになっても来ない気がする

ほんとは誰もが簡単に手に入れられるところにあるのに

なぜだかいつまでも探してばかりいる

なにをどこまでやっても足りている実感を持てない

メーテルリンクの「青い鳥」を引き合いに出すまでもなく

自分が満たされていないと思う心には「青い鳥」はいないのだ

手に入れたはずの「青い鳥」はすぐにその羽根の色を黒く変えてしまう

もちろん昔を懐かしむ心も同じ種類のものだ

だから、あの頃に戻りたい、と願う心に住み着いてはいけない

ボクだって戻りたいとは思っていないのだ

ただあの頃の営みを日々の暮らしに感じたいと思うだけだ



そういう意味で云うと

オートバイと云う乗り物はそんな雰囲気がある気がする

物質世代のエントリーユーザーを引き付けようと

余分な便利機能で金を毟り取ろうとする者たちの狩場にもなるが

本質的な時代遅れ感はオートバイの特長でもある

キャンプにすら便利さや快適さを持ち込もうとする現代

それを価値観の多様化と言い換えてまでモノを売りつける

こっちは稼ぐために仕事としてオートバイに乗っている(乗らされてる)訳ではない

オートバイに他では感じられない何かを求めて自ら乗っているのだ

だから逆にストイックさを求めた方がより一層面白いと感じる

エンジンガードとかフレームスライダーとか付ける人多いけど

逆に最初からついてたエンジンガードを取っ払ってやった

自分に、絶対こかさないんだと戒めるためだ

なんで取っちゃったの?って人から聞かれると

男気見せてやるためさ、とヘラヘラ笑いながら答える

アタマはげ散らかしたジジイが云うと確実に失笑される

で、ほんとにこかしてシリンダーヘッドに穴開いたら面白いじゃん

ほんとに倒しちゃうのは自分が下手クソだったからなんだけど

そんな倒れることもあるオートバイが好きなんだ

仲間と走っていても基本は一人

ハッとするような景色に出会ってもリアルタイムで共有できないかもしれない

でも後で缶コーヒーでもやりながらみんなで語り合えばいい

そんなひとりっきりで走るオートバイが好きなんだ

今日は雨に降られるかなって思いながら走り出した

でもすぐにこの前カッパ干したままオートバイに積み忘れてることに気づいて焦る

案の定午後から山の中で土砂降り

どこかで雨宿り、と思いながら適当な場所がなく走り続けて

いい歳こいてパンツまでびしょ濡れになっちまう

雨が降ると濡れちまうそんなオートバイが好きだ

5速だと思っていたら6速でつま先空振りしたり

飯食ってる間にシートが焼けて尻が燃えそうになったり

あまりの風の冷たさに顎が取れてんじゃないか心配になったり

対向車の水はね(トンバシリ)で頭から足の先までぬれたり

何処までも続く蝉しぐれの山を走り抜けたり

涼しいトンネルで一息ついたり

金木犀の香りに包まれて走ったり

そんなオートバイが好きなのだ



木陰に羽根を休めるクロ介こそ「青い鳥」(黒いけど)なんだ

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