ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

アタマで考えてると秋はたちまちセンチメンタルになる

2023年10月14日 | R100Trad (1990) クロ介


いつまでも暑いねェ

なんて云ってるうちが華で

そのうちにちょっとでも寒さが見え始めると

なぜかふと寂しくなってしまうことがある

それはやはりボクが日本人だからなのかな

奥山に紅葉踏み分け……云々などと

猿丸大夫の歌を持ち出すまでもなく

この風土に生きる者に与えられた特別の情動なのだろうか

このごろは陽だまりに動く蟻の姿も少なく

その動きもやや心許ない

ひと雨ごとにますます秋は深まりゆき

野辺に咲き残る曼殊沙華を見つけては少しホッとするこの頃だ

クローゼットの衣類も入れ替えが済んで

厚手の毛布をベランダに干した朝

クロ介(BMW R100)と共に高速の人となった



現行ボクサーがどうかは知らないけど

そもそもこのエンジンはオイルの消費が激しい

クロ介はその中でもことさらの消費量で

1000kmも走れば1リットルは消費してしまう

マニュアルには100kmで100mlと表記があるので

そういうものなのだろう

けれど今までの乗った3台のボクサーたちに比べると

だいたい倍くらい消費するイメージだ

おそらく慣らし段階での回し方なんかが

影響してるんじゃないかなと考えているがどうなんだろう

まあマニュアルどおりなのだから許容範囲

けれどその記述どおり給油2回ごとのオイルチェックは必須になった

ボクサーと付き合う基本中の基本はこのオイルレベルチェックだ

空冷ポルシェも高速のサービスエリアでオイル入れてる人見かける

助手席の彼女が不機嫌そうな顔で待つけど

彼氏はゆっくりとリアゲートを開けてニヤニヤしている

いかにもエンスージアスト

ディップスティックの上限と下限が約800ccなので

走行が500km超える日は注意がいる

1000km越えなら間違いなくオイル缶携行なのだよ

カッコいいだろ、でもないか



こないだ南アルプス公園線に行った後

オイルを600cc補給した

ついでにギアオイルのレベルもチェック

スロットルの動きが渋くなってきたのでグリスを塗り替えた

そして

今日何より調子良いのは「エンジン」だ

冷たくなった秋の空気をシリンダー一杯に吸い込んで

クロ介のエンジンは驚くほど気持ちよく回った

一発一発の爆発のツブがキレイに揃ったようなイメージで

スロットルの操作にストレスなく反応する

久しぶりにレブリミットまで回してやったけど

不快な振動も出ずよく回る

最高だ クロ介!



早朝の東海北陸道は空気がひんやりとしていた

ひとつトンネルを抜けるたびに高度を上げ

またひとつトンネルを抜けるたびに気温を下げる

結構着込んできたつもりだけど脇腹の背中側が冷える

瓢ヶ岳PA(難読のPA)で休憩ついでに

ヒートテックのインナーの裾をパンツにインする

これでお腹の冷えはかなり改善するよ

ポットの熱い緑茶をふた口

これでかなり温まった

高速道路最高点PA(1085m)の松ノ木を過ぎると

高山市街へ向けて急激に高度を下げていく

長いトンネルを抜けると空一面雲に覆われさらに肌寒い

高山市街は気温9℃

これは結構クル寒さ

この後高度を上げるからどうなることかと思っていたが

意外にも高山が一番寒くてその後はそうでもなかった

平湯に向けて国道158号線を進むと

朴ノ木平の辺りで雲が取れきれいに晴れてくれた





平湯で給油の後バスターミナルを抜けて

安房峠へ向かった

僕らがまだ若い頃は夏になると

この険しい峠道を何台ものバスが連なって上高地へと向かった

今改めて走るとそんな情景が信じられないくらい細い道だ

昔の人たちは運転が旨かったね(クルマも小さかったけどね)

乗鞍スカイラインも乗鞍エコーラインも

そして旧釜トンネルも何度かオートバイで走った

いい時代だった

釜トンネルの中での渋滞はさながら地獄で二度と御免だが

乗鞍へ裏から登るエコーラインはお気に入りでよく通った

真っ暗な夜中に走ったこともあったな

途中でオートバイを止めエンジンを切ると辺りは真っ暗

物凄い数の星を見上げながらまるで宇宙の中に一人いるようだった





峠へ向かう道は少し紅葉が始まっていてとても綺麗だった

美しい情景に出くわすたびにオートバイを止め

そしてまた見覚えのある情景に出会うたび

オートバイを止めてしまう

こんな調子でゆるゆると峠へ上り詰めていった

そしてようやくたどり着いた安房峠では穂高の山並みが迎えてくれた

澄んだ秋の空にギザギザの稜線を張り上げ少し雪も見える

初めてここを越えた日に

40年後またここへオートバイで来ることになるとは

もちろん全く思いもしなかった

けれど今となって考えれば

こんな景色を経験した者がそれを忘れる訳がないのだ

まさにこのカラダに残る記憶なのだろうと思う





国道158号線は飛騨と信州をつなぐ重要なルートなので

トンネルができた今でも整備状況はかなりいい

峠を越えたあと上高地側へ何度も向きを変えながら下っていくが

ヘアピンの部分にまだ以前のままコンクリート舗装が残る



大型車が頻繁に行き来していたからこのコンクリートなんだと思うけど

今では水捌け用に入れられた溝から痛みが相当進んでいる

表面にアスファルトを被せて補修された箇所も多いが

このコンクリート舗装を目にするたび懐かしさがこみ上げる

かつてはこの峠越えにかなり時間がかかった印象だったけど

行き交うクルマもほぼなくなった今では案外あっさりと越えてしまう

谷に充満する硫黄の匂いに「温泉」の二文字が頭に充満するが

中の湯の看板に惹かれながら先を急ぐ

今日はもう一つ峠を越えるのだ





梓川の深い渓谷に沿って進む国道は

上高地へのアクセスルートなので交通量も多い

トンネルがやや小さくて大型同士の離合は徐行が必要な場面もある

それに以前はナトリウムランプの照明が薄暗くて

オートバイだと舗装の穴ぼこや漏水が気になるところだった

今回初めて気づいたのだけれど

照明がすべて白色のLEDに変わっていた

この前ここを走った時には気付かなかったけど

いつから変わったのかな

ナトリウムランプのオレンジ色はノスタルジックで好きだけど

明るいトンネルは間違いなく安全だ



奈川渡ダムから県道26号線「新野麦街道」へ分かれる

このまま木祖(藪原)まで出られる快走路だけど

乗鞍をもっと見たくて野麦峠を越える

相変わらず天気がいい

野麦峠へ近付くとやはり風が出始めた

なぜかあそこは風が強いね

そろそろ昼でも取ろうかと考えているが

寒すぎてあそこでまともに休憩できたことがないのだ



峠へ近付くと木々の色付きが進んでいた

もう秋が深い

着くなり乗鞍の荒々しい雄姿が目の当たりにできた

風はいつもよりは弱そうだ

何より日差しが温かい

ここで少しのんびりする



それにしても家の中から感じる秋と

実際にその真っただ中で感じる秋は

全く印象が異なるものだとよく分かった

家の中から見る秋は、なぜか物悲しいのに

実際に秋の中に身を置くと実に清々しく心安らかなのだ

ひとはやはりアタマで生きてはダメだね

アタマの知らない(言語化できない)カラダの感覚があるのだ

どうしてもひとは意識こそが自分自身だと捉えがちだから

たまにはアタマを空っぽにしてカラダに自分を委ねるほうがいい

今日はそれが良く分かった



かなり前に信州を訪ねた帰りにここへ寄って

今は閉められてしまった野麦峠の館を見学したことがある

来館者も他になくて管理人さんが直に案内してくださった

印象的だったのは

野麦峠と云うと映画の「ああ野麦峠」のイメージが強すぎて

いたいけな少女たちの悲しい歴史と受け止められているが

彼女たちの悲しい記憶だけでなく

家族のために前向きにいきいきと働いていた闊達な人生も

ぜひ知って欲しいと何度も云っておられたことだ

実際は、もちろん大変な苦労だったとは思うが、

山奥の貧しい農民らにとっては夢のような現金収入で

少女たちの多くは毎年岡谷へ行くことを楽しみにしていたようなのだ

野麦峠の館は閉館してしまったけど

資料等は敷地内のお助け小屋に一部移管されている

ボクたち庶民の視点で日本の近代史のリアルを見られる貴重なものだ

これもそうだね

アタマで知ってると異なるものがリアルにはあるってことだ



ここから高根側は少し道が険しい

ひたすらクネクネと下っていくのだが

途中でまたなぜかグーッと高度を上げたりする

なんでやねん、と暇にまかせて突っ込んだりしてみるが

正直疲れてきているみたいだった

ほどなく国道361号に出る

ここから木曽福島で国道19号線に合流するまでは贅沢な道路が続く

周囲を気にすることなくハイスピードでコーナリングを楽しめるが

今思うとマジで疲れていたようで

実際にはそれほどペースも上がっていない

リアブレーキで帳尻を合わせながら走る



国道19号に出れば今日のツーリングはほぼ終了

トラックたちのミミズみたいな進み方に飲まれて中津川まで1時間以上

残り僅かな気力体力を全て捧げた

高速に乗る前に川上屋の前を通るが

家人の「わたし、栗きんとんが好き」という言葉が脳裏をよぎる

分離帯越しの反対側に店はある

はいはい、買うて帰りますがな



久しぶりに500km走ったね

疲れたよ

でも楽しかった



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