ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

石油ファンヒーターのタイマーセットを忘れた朝

2023年02月20日 | R100Trad (1990) クロ介


春に向かうとき

ウソみたいに暖かな日と

真逆の「マジか!」レベルの寒い日が交互に繰り返すようになる

むかしからそんな気象状況を「三寒四温」と云ったりするが

これは本来の三寒四温とはちょっと違う

本来は寒気団の強弱で出現する寒暖の繰り返しなので

真冬の現象だ

日本では春に向かうと移動性の高気圧と低気圧が

本州南岸辺りを交互に通過するようになるので

冬の末期に少しずつ暖かい日と寒い日が繰り返す

これを「三寒四温」と勝手に呼ぶようになったらしい

でもいまでは春を予感させるワードとしてはメジャーで

春一番と同じくらい耳にする



今週は特に朝の冷え込みがきつかったね

ボクの家では暖房に石油ファンヒーターを使っているんだけど

石油ファンヒーターがただの石油ストーブより

優れている点の一つに「タイマー機能」がある

電気が無いと動かないかわりに電気仕掛けを使える

夜、寝る前にセットしておけば

翌朝起きる前に部屋を暖めておいてくれる

プレヒートが必要なファンヒーターはスイッチを入れても

温風が出るまでに時間を要す

特に冷え込んだ朝にそれを待つのは「ツライ」の一言だ



火を使う暖房器具なので自動的に毎日タイマーを作動させるわけにもいかず

ちょっと意識的にタイマーをセットしてやる必要がある

周囲に燃えやすいものが無いか確認も必要だ

で、あるためにだ

寝る前のタイマーセットを「稀に」忘れる

その忘れた朝の叫び出したくなる程のサブさ

そしてその絶望感たるや筆舌に尽くしがたいこと

ご理解いただけるだろうか?

……何が云いたいかと云うと

今日の冷え込んだ空気の冷たさは

それと同レベルの絶望感を抱かせることよ、という話だ

先日までボク達を小躍りさせていた春の息吹を

まるで無かったことにするかのような鮮やかな掌返し

うーーーーーさ・む・いーーーーー!

一体全体どこのどいつだ!

ファンヒーターのタイマーセットし忘れやがってーーーーー!



行きたい場所がある訳でもないのに

この寒さの中、オートバイに乗りたい阿呆だ

何となくガレージのシャッターを開けて

ガチに凍えたクロ介を引っ張り出す

あまりに寒いので、いつもはしないウィンターグローブを出してきた

一応持って入るのだよ

子供の頃にドッジボールで突き指しすぎて両手とも小指が変形しているので

ごつい冬用グローブをはめると小指が不自然に開いて

それが地味に痛いからあまりはめたくないんだけど

JRPの皮革グローブだけは違和感なくはめられる

しかもこれが手触りもよくて暖かい



始動性は非常に良いクロ介だけどさすがに今日はダメだ

長いクランキングからようやく始動に成功するもアイドリングしない

チョークをいっぱいに引いてスロットルを閉じてみるが、来ない

少しバッテリーを休ませて再トライ

僅かな気配をとらえてスロットルでスクいにいくとようやく始動した



とりあえず岡崎バイパスに乗ってみたけどすぐに下りてしまう

当てのない日の定番、幡豆の海岸へ向かう

信号待ちで古いクルマの後ろになった

トヨタ スターレットの最終形式

レトロモダンの特装車 カラットだ



広いリアウィンドウ越しに中をうかがうと意外にも若い女性の運転

なんだろうな、おばあちゃんのお下がりなのかな

深緑色のボディにはすっかり艶が無く

バンパーにも大きな傷が2つある

ダッシュボードに女性らしくドライフラワーが飾られていた

枯れたクルマに枯れた花束、か

パブリカから続く小型大衆車のスターレットは

2BOXの実用的でチープな「ただのクルマ」でしかなかった

けれど四半世紀を走ってきたこの個体の醸し出す雰囲気は実に自然体で魅力がある

しかも、のんびりと流すその佇まいは堂々としていてカッコいい

ゆっくりと追従しながらボクまでとても良い気分だった

山あいの田舎道をカラットとクロ介のランデブー走行

ちょっと不思議ないい時間だった



スターレットは一つ前の交差点で右折して行った

ボクはその次を右折して寺部の海岸へ降りて行った



海岸は良く晴れていて

そのころには気温も少し上がっていた

冷たい北風は相変わらずだったけど

防波堤の内側に入るとその北風はすっかりスポイルされて

ボクは日差しだけを浴びることが出来た

今日は視程もよく、伊良湖岬先端の発電所の煙突がクッキリと見えた



コーヒーを淹れて、バレンタインの残りのチョコをかじる

防波堤にもたれて目を閉じ、身体一杯にお日様の光を受けると

さっきまでの絶望的な寒さがウソのようだ

そのままじっと目を閉じていると

岸に打ち寄せるさざなみの音が微かに聞こえてくることに気付く

やさしい心地よい波の音

誰もいない冬の海岸で

眼を閉じて波の音を聞いているおっさん

なんて考えていたらちょっと気恥ずかしくなって大きな溜息が漏れた

そして

パッと目を見開くと世界が真っ蒼



それがなんだかおかしくて

笑ってしまったよ