ソロツーリストの旅ログ

あるいはライダーへのアンチテーゼ

振り返ってみるとオートバイがいちばん好きだった

「そういうの、信じる?」と確認されたことを思い出す

2023年02月13日 | 水溜まり探訪


暦というのは良く出来ていて

季節の事象だったり、人の体感だったりに

ぴったり嵌まっていることに感心する

正確な測定器や観測のデータベースなどなくても

ヒトの感覚器は気候の変化をつぶさに嗅ぎ分けてしまうということか

ボクがいくつになっても毎年「寒」のキビしさなどすっかり忘れてしまっても

その中に仄かな春の息吹を感じ取れるのは

人並みにも春を待ちわびる切実な心の為す技なのかもしれない



「春は名のみの風の寒さや」と歌われるとおり

微かな気温の温みを一網打尽にするような北西の風は

まだまだ強烈に冷たい

今日来たのは見事な堰提を持つ水溜まり「とよおか湖」だ



蒲郡市北部の高台に位置しているので

堤の上から三河湾の眺望が利く

蒲郡は地元なのであまり意識しないが

国定公園にも指定されていて実は風光明媚なところだ

凪いだ三河湾はまだ高度の低い冬の太陽に全面が反射して眩く輝く



浮かんでいる島は多くはないが

どれもこんもりと木々を茂らせ文字どおりポッカリと

小気味よいバランスで点在する

しかし景色が見渡せるということは風を遮るものが無いということで

緩くはあるけど常に冷たい北風に晒され寒い、ここ



せっかくの春の陽気なので今日はもう少し走ることにする

トラックだらけの蒲郡街道を車列に交じってノロノロ進む

さっきのダム提からもよく見えたけど

三河湾は西側の知多半島と南側の渥美半島に包まれた大きな水溜まりだ

内海であり水深も浅いのであまり大きな波が立たない優しい海だ

よく見ると本当に美しい景観を作り出している

豊川橋からバイパスに乗る

ここいらは交通機動隊の狩場だ

スピードだけでなく車間距離不保持なんかでもバンバン狩りまくる

クロ介のバックミラーはほぼ見えない(振動でね)

実用上問題はないけど、それがパトカーなのかどうかはわからない

振り返って目視したりするか、そもそもスピード出さなきゃいいって話か



豊橋港ICで県道2号線へ降りる

工業地帯を走るこの県道は面白みはないが走るのは楽しい

途中にある三河港大橋は船を通すために真ん中が盛り上がってカッコいい

橋の上からさっきまでいた蒲郡が良く見える

あっという間に反対側だ

トヨタ自工の田原工場が広がる埋め立て地の中をぐるっと迂回して

白谷の手前で旧道と合流する



以前は冬になって山に行けなくなるとよくこの辺りに走りに来ていた

いつも立ち寄るのはこの「サービスエリア」

前はトイレも使えたけど今はダメだ

自販機の数も減った気がする

道路を挟んだ向こう側がすぐ海で、釣りをする人も多い

ここからも向こう岸の蒲郡の街や山並みがよくみえる



ずいぶん昔のことだけど

オートバイを停めていつものようにここに座っていたら

ふいに一台のクルマが止まり、中年の女が下りてきた

まっすぐにボクのところに来て「何してるの?」と聞く

海を見て休憩してる、答えると

女は唐突に、あなたに良くないモノが憑いているから取り除きたい

「そういうの信じる?」と云った

ボクは胡散臭いものが嫌いだ、と云って笑うが

女は真面目な顔をして、手を出せと云い

云われるまま右手を差し出すとそれを両手で握って目を閉じた

どれ位そうされていたのか忘れたがしばらくした後

「ほら、軽くなった」と真顔で云った

「いや、ぜんぜん」とボクが答えると女は笑って

「じゃあ、ウチに来て」と云った

―――あれはナンパだったのか、除霊師だったのか



やくざに変なモノ売りつけられたり、ホモに痴漢されたり

病気みたいな客に脅されたり、霊能者を装った女にナンパされたり

・・・人生には本当に嫌なことが多い

しかもそのほとんどが「人」にかかわる事柄だ

もちろん良いことだってあるだろうよ

でも、ボクにとってはイやなことの方が遥かに多い



実は女の人はこの近くでカイロプラクティックの施術をしている整体師で

そっちの興味は大いにあるんだろうけど霊能者ではない、当たり前だけど

だから、正確にはナンパではなく勧誘(客引き)だ

白谷から一山越えて、田原の街外れに出る

ここにも大きな水溜まりがあって周囲が公園に整備されている

この「芦ヶ池」は東三河の農業の生命線といえる豊川用水の一部

どう見ても大きな川がありそうに見えないこの渥美半島の先端に

「初立ダム」という大きなダムがあるが

豊川上流部の宇連川からこの岬の先端まで

用水路で水を送り、ナミナミと貯めているのだから驚く

この芦ヶ池はその中間施設で平地にあるためダムはなく

本当に大きな水溜まりだ





ここも遮るものが何もない

だだっ広い水たまりの周囲だから当然だ

だから日差しはポカポカなのに冷たい風に常時晒されサブい

クロ介を風上において椅子を広げる

昼も過ぎたので、パニアに積みっぱなしのカップヌードルを食べて温まる



コーヒーを淹れ

椅子にもたれて目を閉じると

瞼の向こうで水面の照り返しがいくつも弾けた

霊能者の手技より、このキラキラのほうが何倍も除霊してくれそうな気がする

って、なんか憑いてんのか?

水溜まり巡りも好きだけど

その宿命として風当たりが強いところばかりでサブい

そろそろお山が恋しい立春の候かな