縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
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夢に見た生活を楽しんでいます。

阿刀田 高 『コーランを知っていますか』

2006-09-04 22:48:52 | 最近思うこと
 先日、阿刀田 高(あとうだ たかし)の『コーランを知っていますか』を読んだ。3年前に出た本が文庫になっており、たまたま本屋で見つけたのだった。
 阿刀田 高は好きな作家の一人だ。特に初期の作品が好きだ。『ナポレオン狂』、『夢判断』など、短編において彼の魅力は際立つ。彼自身の区分で言う「ミステリー、奇妙な味、ブラックユーモアに属する」作品である。ブラックユーモアではロアルド・ダール(因みに彼はあの『チャーリーとチョコレート工場』など児童文学も書いている)やサキに勝るとも劣らない、短編の名手である。
 氏は博学でもある。大学卒業後、国会図書館に勤め、その間、ありとあらゆるジャンルの本を読み漁ったそうである。そうした知識、経験を活かしてか、彼は古典を読み解く本もいくつか出している。『ギリシア神話を知っていますか』、『アラビアンナイトを楽しむために』など、いずれも秀逸である。原典を読む時間(気力?)のない大人には打ってつけの本だ。

 で、『コーランを知っていますか』の話。実は最近は氏の本をあまり読んでいない。年齢なのか、執筆してきた年数なのか、氏の本に昔ほど切れ、輝きを感じなくなったからだ。正直に言って、『コーラン~』もあまりおもしろい本とは言えない。もっとも、これは多分にギリシア神話やアラビアンナイトと比べ、コーランそのものがおもしろくないためだと思う。コーランを面白おかしく書くのではなく、まじめに真正面から取り組んだ結果ともいえる。コーランの入門本としては大変有益な本である。イスラムのことを知りたいと思い本を何冊か読んだことがあるが、コーランそのものの本は初めてだった。

 なかでも一番おもしろかった、参考になったのは、不完全な宗教、つまりユダヤ教やキリスト教の完成型、最終型としてのイスラム教という考えだ。これはアラーの神を唯一、絶対の存在とすることからの当然の帰結である。即ち、人類の誕生から現在、そして未来永劫に至るまで、神はアラーしか存在しない。人々がそれを正しく理解していないが故にユダヤ教やキリスト教が生じ、あるいは偶像を崇拝する輩が出て来た、というのである。ユダヤ教やキリスト教は唯一の神(= アラー)を信じるという点で同根であるが、仏教、更には日本の神道などは問題外、偶像崇拝とさして変わらないことになる。

 また、イスラム教の成立過程も書いてあり、それもおもしろかった。マホメットが神の啓示を受けメッカで布教を始める。部族の迫害からメディナへと逃れ、次第に宗教としての形を整えていく。コーランはマホメットがまとめたものではない。彼の死後に弟子たちが、マホメットが神から受けた啓示をまとめたものである。そのため一貫したストーリー、物語性はなく、加えてコーランの記述は年代順に並んでいない。ところどころ旧約聖書や新約聖書をベースにした話もある(イスラム教にしてみると同根なので特に問題ないのである!)。

 さらに、コーランには部族間の争いから、果ては遺産の相続方法まで書かれている。まったく神様も大忙しである。これは、マホメットが孤児に近い境遇だったことや、部族間の争いや略奪等で人が亡くなり相続問題がよく発生していたことに拠るようだ。又、ユダヤ教やキリスト教を同根としたのは、それらの宗教が浸透していたことが理由の一つらしい。マホメットの政治家としての一面が感じられる。同時に、宗教といえども、社会的文脈に依存する、影響を受けるのだと思った。

 

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