縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

グナル・ハインゾーン『自爆する若者たち ~ 人口学が警告する驚愕の未来』

2009-02-10 22:17:36 | 最近思うこと
 この本はおもしろい。発想というか視点が斬新である。確かに言われてみれば、「あっ、そうか。なるほど。」と思う話ではあるのだが。
 例えば、アルカイダの自爆テロは宗教的理由だとばかり思っていた。が、違う、それだけではない。この本はもう一つの大きな理由を教えてくれる。そして、それはかつてのヨーロッパの世界制覇と同じ理由だというのである。

 イスラエルが侵攻したガザ。イスラエルと、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとの戦いである。ガザは人口密集地であり、一般人も含め多くの人が犠牲になった。
 ところで、日本の人口増加率がこのガザ地区並みであったとしたなら、今の日本はどうなっていただろう。1950年から2008年までの間にガザの人口は24万人から150万人まで増えた。この増加率を日本に当てはめると、日本の人口は1億2,700万人ではなく5億2,000万人になる。平均年齢は44歳ではなく15歳だ。今の高齢化社会とはほど遠い状態である。
 一見、年金や医療費の問題など存在しない素晴らしい社会のようにみえるが、果たして本当にそうだろうか。この人口5億2,000万人、平均年齢15歳の意味するところは何なのだろう。

 このとき15歳未満の少年男子の人口は900万人ではなく1億3,000万人。この少年たちは2023年までに、いわゆる戦闘年齢と称される15歳から29歳に達する。この「過剰なまでに多い若者世代=ユース・バルジ」は社会全体の大きな撹乱要因であり、争いを生み、ときに戦争や殺戮に繋がると作者はいう。

 一人の父親に息子が一人か二人だとしよう。おそらく二人とも栄養も教育も充分に与えられ、そこそこの職に就くことができるだろう。しかし、これが3人息子、4人息子だとどうだろう。子供のときから互いに相争う状況に置かれ、成人して良い職にありつける保証はない。親の遺産も当てにできないかもしれない。
 この職にあぶれた者の選択肢は、国外に移住する、犯罪に走る、クーデターを起こす、内戦あるいは革命を起こす、他民族など少数派を殺害あるいは追放する、他国を侵略する、の6つだという。
 事実、16世紀以降のヨーロッパはこのすべてを行ってきた。日本同様、今は少子化に悩むヨーロッパであるが、当時のヨーロッパでは6人、7人兄弟が当たり前だったという。そして、三男坊、四男坊を中心とした軍隊が世界征服に向かって行ったのであった。

 即ち、暴力を引き起こすのは宗教でも貧困でもなく、人口爆発によって生じる若者たち=「ユース・バルジ」のエネルギーを国家が抑えられないからなのである。
 現在の世界でユース・バルジの状態にあるのは、イエメン、コンゴ、ガザ、アフガニスタンなどイスラム教の国が多い。が、イスラム教であることがテロを生みだしているのではない。キリスト教のヨーロッパがかつて力によって世界を征服したように、それは多分に国がユース・バルジのエネルギーを吸収できないからなのである。宗教の問題ではなく、国の制度(出生率?)の問題である。

 ところで、この本を読んでリヒャルト・シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』を思い出した。宗教は関係ない=「神は死んだ」という繋がりではない。冒頭のインパクトである。
 ご存じ『ツァラトゥストラ~』の出だしの迫力は凄まじい(注:『2001年宇宙の旅』の冒頭で使われているテーマ)。で、一方、この本も冒頭にエッセンスが集約されていて、そのインパクトは強烈だ。
 僕は一応全部読んだが、冒頭の訳者による「はしがき」と著者グナル・ハインゾーンの「日本語版に寄せて」を読めばこの本の大体のところは理解できる。お時間のない方はそこだけでも良いので、是非、この驚き、衝撃を味わって頂ければと思う。

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