縁側でちょっと一杯 in 別府

東京から別府に移住してきました。
のんびり温泉に浸かり、美味しい魚で一杯。
夢に見た生活を楽しんでいます。

陳建一、『味彩吉野』、麻婆豆腐

2011-12-15 00:09:45 | おいしいもの食べ隊
 今日は“ちょっといい話”を。

 新宿に、昔の厚生年金会館の近くに『味彩吉野』という小料理屋がある。ここの名物は麻婆豆腐。そう、小料理屋だけれども、麻婆豆腐なのである。

 新宿の日清食品の側の立ち飲み屋で飲んだ帰り、もう少し食べたい(飲みたい?)と思い、辺りを少し歩いていた。土曜の夜、人通りは少なく、休みのお店が多い。と、そこに白い『吉野』の看板。テレビ朝日でやっていた『裸の少年』で採り上げられた“麻婆豆腐”が自慢とある。「和食の店で麻婆豆腐??」ちょっと興味を惹かれ入って見た。

 誰もいない。客は一人もいなかった。失敗したかな、一瞬、不安が心をよぎる。が、気を取り直し、カウンターに座りビールを頼んだ。お通しと簡単なつまみを食べ、ビールを飲み、そして僕はおもむろに口を開いた。
 「大将、和食のお店なのに、どうして麻婆豆腐をやってらっしゃるのですか?」

 お客さんのいなかったのが幸いしたのか、大将は滔々と話し始めた。
 「ご覧のように、ウチは通りからちょっと奥に入った目立たない場所にあるので、ここに店を開いたとき、皆さんにウチを知ってもらおうとお昼も営業することにしました。初めに出したのはカレー。カレーの有名なゴルフ場があって、そこと同じカレーを出すことにしました。私は一度食べると、だいたい味や作り方がわかるんです。辛いけどおいしくて、結構お客さんが入りました。
 でも、人は毎日カレーばかり食べるわけじゃない。もう一品欲しいなと思い、探していたとき、たまたま『四川飯店』で麻婆豆腐を食べ、これだと思い、同じ味の麻婆豆腐を出すことにしたんです。」

 「次第にランチの麻婆豆腐が評判になり、どこかでそれを聞きつけた『裸の少年』のスタッフが訪ねて来ました。ウチの麻婆豆腐を放送に使いたいと言うんです。で、あの陳建一さんがいらっしゃったのです。陳さんはウチの麻婆豆腐を食べておいしいと言ってくれましたが、この味は古い、今の麻婆豆腐の味は違うともおっしゃいました。
 そして、後日、なんと陳さんが『四川飯店』のシェフを連れ、食材を持ってウチに来てくれたんです。忙しい中、わざわざ来て下さったのです。今の麻婆豆腐はこうして作るんだ、といって教えてくれました。それがこの麻婆豆腐です。」

 僕は、「ウーン、陳さんは嬉しかったんでしょうね。きっと大将の麻婆豆腐が陳建民の味にそっくりだったんだと思いますよ。思いがけない所で出会った父親の味。懐かしい思い。そして今の自分が父親の麻婆豆腐を漸く超えられたのではとの思い。でも、わざわざ教えに来てくれるなんて、陳さんっていい方なんですね。」と応えた。

 陳健一が再度『吉野』を訪れた本当の理由はわからない。が、『吉野』の麻婆豆腐が今の『四川飯店』に負けず劣らず旨いのは確かだ。

 麻婆豆腐の辛さで体が温まり、陳さんのやさしさで僕は心も温まった。