手術室では、術者が「お願いします。」の言葉で手術を始め、「ありがとうございました。」の言葉で終わります。助手は「ありがとうございました。」と言うこともありますし、「お疲れさまでした。」という人もいます。
ただの挨拶ですからイチイチ気にすることはないのですが、「お疲れさまでした。」にはやはり違和感があります。私が目上の者だから俺に対して「お疲れさまでした。」かよ、というわけではありません。
これらの言葉の意味を考えてみればわかります。
「お願いします。」には、表向きは「(業務として)これから手術を始めます。皆さん、ご協力お願いいたします。」という意味があるのでしょう。それだけではなく、「これから勉強させていただきます。よろしくお願いいたします。」という意味が隠れています。
同様に、「ありがとうございました。」にも、「無事、手術が終わりました。皆さん、ご協力ありがとうございました。」と「勉強になりました。ありがとうございました。」という2つの意味があります。(他にもあるかもしれません。)
私たち手術を生業にしているものは、「患者さんを手術で治してあげて」いるわけですが、常に「患者さんを手術することで勉強させていただいて」もいるわけです。(だからといって、「勉強してるんやろ、手術させてやるわ。」という態度の患者さんがいらっしゃった場合、丁重にお断りしたくなりますが。)
では、考えてみましょう。
手術終了時に、術者もしくは他の人に対して、「ありがとうございました。」と言うと、「ご協力ありがとうございました。」と「勉強になりました。」と言っていることになります。とくに、手術を見学している立場であれば、(ご協力…はありませんから)「勉強になりました。勉強させていただきました。」と言っていることになります。
「お疲れさまでした。」は、どうでしょうか?これは、ねぎらいの言葉であり、決して「勉強になりました。」という意味にはなりません。むしろ、「ありがとうございました」が出てこないということは、「たいして勉強にはならなかった。」というメッセージを発していることになるかもしれません。しかも、気づかないうちに。