遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「珠玉」(新)

2010-11-23 | 現代詩作品
珠玉(新)



あのとき、彼の祖父が捜していたものは
かつて松の湯でみた
龍の彫りものの聴覚化した
アウトローの世界が吹き込んである
すこぶる大切なものだったか


戦後、突然のラジオから
米軍二三三隊吹奏楽隊が流れたのが
そもそもの発端で
笈田敏夫が新倉美子が水島早苗が黒田美治らの
歌声が続々流れて
彼の祖父さんは耳栓を買いに走ったとか


愚痴も啖呵も雑音まじりのジャズに 
負ける訳にはいかねぇってんで
いっちゃぁなんだが、猿まねじゃねえ
猿楽の美なる歴史から日々遠くなる
邦楽モノのが
やりきれねぇんだって
彼は祖父さんの気持ちを代弁してくれた


胸のすく啖呵を横に
粋な彼の祖父さんが捜していたのが
浪曲というたから物、で
たしか虎造の
宿酔のレコード盤だったとか
いくらさがしてもみつからずだったと聞いた
(誰かが割って始末をしたのか……)


祖父さんをねんごろに見送った
昭和三十年代の中頃
二十二歳で彼もあそこへいったきりだが
振り向くたびに口中に
晴天の塩っぱい粒とひろがる
時間がある