遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「丘の日の雲」

2010-11-21 | 現代詩作品
丘の日の雲



丘はみなしごの唄の吹き溜まるところ
初夏の夕暮れに
ちぎれ雲の手に肩叩かれる淋しさを知る
小さな家並のあかりが点点ともり
男はでたらめの歌を歌いながら
親のいないみなしごの子狐であった、と
風に吹かれながら遠い日の丘を振り返える
そういえば、夕陽の丘のみなし子、
みかんの花咲く丘のみなし子、小雨の丘のみなし子
そして、鐘の鳴る丘のみなし子、港が見える丘のみなし子
異国の丘のみなし子、丘は花ざかりのみなし子、丘を越えてのみなし子
それからあの丘越えてのみなし子、その他大勢のみなしご
みんなみんな淋しいみなしごだった頃の
十五少年漂流記や
ひょっこりひょうたん島の
風にまかれた思いでのほかには戦後の意味も知らず
丘の日の雲に乗り遅れた悔いを生きてきたわけではなかったが
いまも男は訪れるたびに
日暮れの真っ赤な入日を引っ掻きながら
指先に血を滲ませて、ちぎれ雲と唄を歌った
みなしごの子狐であった心を
忘却の彼方から
嘘のように鮮明に想いだすのである