遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「(新)珠玉」

2010-11-05 | 現代詩作品
珠玉



彼の祖父が捜していたのは
かつて銭湯でみた彫りもののような
めずらしい咄しだった、
記憶の外れの古いレコード盤であった
いきなりしゃしゃり出てきたわけは
さっぱりわからない


戦後、突然のラジオから
米軍二三三隊吹奏楽隊が流れたのが
偶然の発端で
笈田敏夫が新倉美子が水島早苗が黒田美治らの
歌声が続々流れて
彼の祖父さんは耳栓を買いに走ったとか


愚痴も啖呵も雑音まじりのジャズに 
負ける訳にはいかねぇってんで
いっちゃぁなんだが、猿まねじゃねえ
猿楽の美なる歴史から日々遠くなる
邦楽モノのが
やりきれねぇんだって
彼は祖父さんの気持ちを代弁してくれた


胸のすく啖呵も粋な
彼の祖父さんが捜していたのが
浪曲という珠玉もの、で
たしか虎造の
宿酔のレコード盤だったが
いくらさがしてもみつからなかったと聞いた
(誰かが割って始末をしたのか……)


あれから、祖父さんをねんごろに見送った
彼も、
二十二歳で
あそこへいったきりだが
四十年前の話がなぜ今頃降って湧くのか
時間には粋な贈り物もある