遙かなる透明という幻影の言語を尋ねて彷徨う。

現代詩および短詩系文学(短歌・俳句)を尋ねて。〔言葉〕まかせの〔脚〕まかせ!非日常の風に吹かれる旅の果てまで。

現代詩「無辜なる無縁」

2010-11-02 | 現代詩作品
無辜なる無縁ーあるいは限界仮面



ひとはいつから
私という物語の死に出合っても
泪一つこぼさなければ
悲嘆にくれる様子もなく
死者の物語を越えようとするのか、それでも
人をあざむく仕草が
あざむかれた人によって
賞賛を浴びる世界があれば
創られた欲望が他人の仮面を剥ぐ
闇の閃光が競い合う資本的名誉もあろう


(…きおくは悪意にみちていて
  憶測はつめたい不壊の日
  「殺伐たる青山」ばかりが浮かぶと、ひと言残して
  ぼくのまえから去っていった愛しい人も…)


この世の心の底を流れる
他人との不信の川に
疲れた命を引きずった男の影が
コンビニの角の山茶花の塀にそって
靴音が重く重く川底まで響く、それでも
負の面は語られず
自死する者の統計を声高に読み上げられる
もどらない時間とゆがんだ空間の
球体の上の危うさに
すべり墜ちる者が歯止に繋がるなりゆきばかり


(…二月の空に垂れさがるから
  鉛色のストローをグレープフルーツにつきさし
  書くなら自分の血で書けという欠落の解纜をふりかえれば
  幼くして逝った弟がなぜか降ってくる…)


自分を演じながら
他者との関係を修復することに
がまんならない看護士もいるだろう
無駄に精神をすり減らす前に
しっかりあそこの筋肉を鍛えねばならない、それでも
山里を離れる
民家の数が減少の一途をたどるから
野菜や肉を詰め込んだ販売車を
死にきれなくて待っている
孤独の肩に花咲かす限界老人もいるとか


 (…無縁に囲繞された
  掌の恥ずかしい淋しさで、淡雪を受けとめる
  か細いつぶやきがきこえてくる、過ぎた日の記憶に
  死人にも口はあるのだ、きっと、… )


秋には市街地や海岸にまで出没する
小熊を連れた母熊を射撃し
小熊は麻酔銃の処理で山に返すという
市町村の免罪符が
子供たちにいっそうの不安を植え付ける、それでも、
息子たちは今日も
私という物語の死からも遠く
都会の隅で朝の光をまとっているのか
夕べの仮面を剥がして
男の雫を払いながら、